東北工業大学

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学長室

学長メッセージ集

No.37平成27年度学位授与式式辞

2016.03.18

学長式辞

春まだ浅き弥生3月。

本日、ここに平成27年度学位授与式を挙行することになりました。東北工業大学の教職員を代表し、卒業・修了生の皆さんにお祝いの言葉を申し上げます。そして、ご臨席いただいている保護者の皆様、後援会、同窓会役員の代表をはじめ、ご来賓の皆様に心よりの御礼を申し上げます。

本日、学位記を受ける学生は、工学部383名、ライフデザイン学部137名、合計520名。大学院博士(前期)課程では、工学研究科23名、ライフデザイン学研究科2名、大学院博士(後期)課程では工学研究科2名、合計27名。学位記を受ける学生の総数は547名であります。卒業・修了生の皆さんは、自分自身の努力とともに、教職員、保護者の支えと励まし、周囲の方々のご協力のもとに、本日の栄えある学位授与式を迎えることができたものと思います。このことを心からかみしめていただきたく思います。この4月から実社会に巣立っていく皆さん、大学院へ進学する皆さんは良き先輩に倣い、東北工業大学の卒業生、ならびに大学院修了生としての誇りを持ち、確かな目標と夢を持ち、自信を持って歩むことを期待しております。

本学は建学の精神として、わが国、特に東北地方の産業界で指導的役割を担う高度の技術者を養成することとし、1964年に創立され、平成26年の4月に創立50周年を迎え、新たな50年への歩みを始めました。平成26年7月に、これまでの地域に対する貢献・実績と将来展望が評価され、文部科学省の平成26年度「地(知)の拠点整備事業」、いわゆるCenter Of Community(COC)事業に、10倍以上の競争率を乗り越え、採択され、平成27年にはCOCに続くCOC+事業推進校にも選定されました。また、教職員による丁寧な指導・助言と皆さんの努力により、全国でも名だたる就職率上位の大学にランクされております。そして皆さんならびに諸先輩の建学以来50年にわたる長年の献血活動への協力により、この1月には、本学は厚生労働大臣賞を受賞しております。さらにまた、3.11という1000年に一度の大震災にも遭遇し、本学のキャンパスは地域の方々の安心の拠り所となりました。このような環境の中で皆さんは学んでこられました。皆さんは本学で工学あるいはライフデザイン学に関する素養を得、日進月歩で進化する社会の中で応用可能な基本的な知識と、知識を得る方法を学びました。このことは、皆さんに準備されている仕事や研究活動などに大きな推進力となるものと思います。学生時代に行った課外活動あるいはアルバイト等の経験を通し、人間的な面において大きな成長を遂げられたことでしょう。

近年、情報技術の驚異的な躍進により、社会の仕組みは大きく変化しました。技術が高度化し、多くのものがブラックボックス化しています。中身の分かるのは技術者、デザイナーだけになっています。ですから、皆さんは専門家として、ブラックボックスの中身に責任を持たなければなりません。そのためにはもの作り、デザインに関する知識・技術力以上に責任感と倫理感が要求されます。今後、そのことに応えていかなければなりません。そしてまた、広い世の中には、想像もできない能力を持つ人、人に褒められることなく真面目に物事に取り組む人がいます。どうぞその人たちを尊敬し、謙虚に学ぶ姿勢を持って歩んでください。

皆さんへのはなむけとして、私自身、常に心に留め、実行したいと思っていることをお話ししたいと思います。これは、実は昨年の学位授与式でもお話ししたことでもありますが、それを少し深めてお話ししたいと思います。皆さんの中のうち、一人でも、二人でも私の言葉に賛同し、応えてくれれば、東北工業大学の学長としての私の任務は達成されたと思っています。

仙台が生んだ著名な作家で、劇作家であり、また文化功労者でもありました井上ひさしさんに係ることです。皆さんが経験したあの東日本大震災の1年後、2012.3.16発行の河北新報のコラム「河北春秋」に掲載されたものです(*1)。

井上ひさしさんは幼い頃に父親を亡くしました。その後母親は嫁ぎ先を出て、一関や釜石で職を見つけ、女手一つ、苦労の多い中で二人の子供を育てます。次男のひさしさんを仙台の施設へ預けなければならないほど厳しい家庭状況でした。井上さんは岩手県一関で過ごした中学時代に、本屋さんでどうしても欲しかった辞書を見つけ、万引きしようとしたのですが、お店の主人に見つかってしまいました。警察行きを覚悟した井上少年を主人は店の裏に連れて行き、夕方まで薪を割らせ、その薪割りが終わると、「薪割りの職人に頼む代金に比べたら辞書代はその半分だ」と言い、辞書と半額分のお金を渡したというのです。

井上ひさしさんはその後、有名な作家となりました。作家としての激務の合間をぬって、一関を訪れ、文学講座を開設し、その受講者に通算4回にわたり作文指導にあたられました。1,000名以上の受講者の作文を徹夜で添削し、句読点から語句の使い方まで一つ一つ丁寧に教えたというのです。一関だけではなく、生まれ故郷の羽前小松の名をつけた、こまつ座という劇団を結成したり、町の遅筆堂文庫に蔵書を寄贈したり、仙台市文学館の館長を引き受けて市民に作文指導するなど井上さんは中学時代に本屋の主人から受けたご恩を忘れなかったのです。しかし、今や本屋の主人は亡くなり、恩返しができない井上さんは、その代わりに、見も知らぬ人々に、「恩送り」をしたのです。

孝行したい時に親はなし、と言いますが、私もそれを実感しています。恩を受けた人に恩返しをしたくてもその方はいません。災害や思わぬ不幸もあり、誰にでもその可能性はあります。しかし私たちは、技術者として、デザイナーとして、あるいは一人の人間として、誰でもが「恩送り」をすることができるのです。井上ひさしさんの行為は素晴らしいものです。ですから、それを皆さんも真似て貰いたいのです。そしてまた、井上ひさしさんをそのように導いた、本屋のご主人の行為は本当に素晴らしいことだと思います。悪を悪と決めつけ処罰するのは簡単です。正義かもしれません。しかし、知恵を働かせ、その人の状況を勘案し、寛容な心で「許す」、という行為は機械的な正義感をはるかに越え、尊いことだと思います。皆さんは一生のうち、そのような時に会うことが必ずあると思いますが、是非このことを思い出していただきたく思います。

この東北工業大学は、これまでに33,480名の卒業生を社会に送り出し、長年にわたり東北地方の発展と振興、そして復興にさまざまな形で寄与しています。忘れつつある東日本大震災の復興はまだまだです。多くの技術者、デザイナーを輩出する本学卒業生の地道な働きがなければ、東北の発展はありえません。保護者の皆さまにおかれましても、今後のご子息の活躍に期待していただきたく思います。

最後になりますが、東北工業大学卒業生として、33,480名に続く卒業生としての誇りと夢を持って活躍することを祈り、告示といたします。

卒業、修了、おめでとうございます。

*1 http://neokd.kahoku.co.jp/home/sinsai-archive/K201203160A0A106X00003

 

平成28年3月18日 東北工業大学 学長 宮城光信