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学長室

学長メッセージ集

No.11隠れキリシタン

2014.02.27

 フランシスコ・ザビエルによってキリスト教が日本に伝えられたのは1549年。しかしわずか半世紀後の1612年徳川幕府は禁教令を発令しました。キリスト教布教の禁止と徹底的な弾圧により、多くの信者は棄教せざるを得ない時代がありました。信者への陰湿な拷問、一族への激しい弾圧が行われましたが、そのような中で、棄教するかのように見せかけ、うわべは仏教徒の形をとりながら、心の底ではキリスト教信仰を貫いたという人々がいます。その伝統を引き継いだのが隠れキリシタンと呼ばれる人たちです。その時代、仙台藩の家臣に後藤寿庵(じゅあん)という人物がいました。実は、彼は隠れキリシタンでしたが、伊達政宗公はその能力を認め、旧仙台藩内の岩手県奥州市水沢に領地を与えます。すると寿庵は、原野を開墾し大規模な用水路を建設して地域に貢献しています。その用水路は「寿庵堰」と呼ばれて今も現地に残り、いまだに利用されているそうです。また、家臣として能力を発揮しつつ生涯キリシタンとしての信念を貫いた彼を称え、当地に「寿庵堰」が建てられて毎年祭が開かれるなど、今も地域の人々に慕われているようです。 彼は優れた土木技術者でもあったわけですが、それは『東北の産業界に指導的役割を担う高度な技術者を養成する』という、本学建学の精神と合致しますね。

自分の信念を貫く。どのような場面、状況にあっても、自分の思っていることをきちんと主張し、是是非非で対応することのできる人は本当に尊敬に値する人であり、信頼の得られる限られた信念の人ということができるでしょう。しかし、このような人になるのはなかなか難しいことです。隠れキリシタンは、このような難しさを克服した弱い人間が、強さを示した人たちではないかと思います。

組織の意志と個人の思いのずれ問題はいつでもどこでもあることです。政治で言えば、国の方針、県の方針、市の方針、あるいは身近なところでの文教政策、大学の方針などは、組織としての大義名分があるでしょう。しかしながら、種々の状況のもとでの方針ですので、全員が満足するものではなく、また心から納得できないものもあります。また、必ずしも正しいとは限りません。あるいは正しいのか、良いのか、悪いのかさえ区別がつかないことがあります。

そのような中で、従いながらも(あるいは従わざるを得ない状態でも)、かつての隠れキリシタンが示した知恵を働かせ、私たちは物事に対処することが可能です。それは弱さの中の限りない強さだと私は思っています。