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ロシア訪問記―ニジニ・ノヴゴロド州建設大学との交流可能性

お知らせ

訪問地:ロシア連邦共和国 ニジニ・ノヴゴロドおよびモスクワ
訪問期間:平成28(2016)年9月18日(日)~ 9月25日(日)
大沼 正寛(ライフデザイン学部教授/大学院デザイン工学専攻長)

1)概要| 今回の訪問は、9月21日から23日にかけて開かれた国際ビジネスサミットへの参加を目的とする「平成28年度宮城県ニジェゴロド州訪問団派遣事業(団長:高砂義行氏)」に同行するかたちで、同市内にあるニジニ・ノヴゴロド州建設大学を訪問し、本学との交流可能性を探ることを目的として実施しました。主体である宮城県は、ニジニ・ノヴゴロド州との経済交流の具体的進展方策を探るため、2010年より隔年で訪問と受入れを継続しています。この行事は、震災により一時中断しましたが、復興支援を受けたこともあり復活、昨年はロシアからの訪問団を受入れています。

2)背景| ロシア経済は、1998年エリツィン期金融危機を底として、プーチン第1期には経済回復がありましたが、メドベージェフ就任直後の2008年世界金融危機を経て、2014年末にルーブル(p)が急落、その後は経済停滞が続いています。この低迷は、油価依存型の経済から脱却できていないことが一因であり、BRIC諸国を比較しても、とくにロシアとブラジルの下落が著しいといいます。2016年3月の危機対策プランは、資源依存体質からの脱却を図るべく、地方財政に貸付を行って経済の多角化を行い、自動車産業等へ支援を行う等、48の施策を進めています。ただ現実には、欧州やトルコ、中国、日本からの部品輸入・組立て等に留まり、クリミアやトルコの問題から物流にも支障が出ていたようです。一方、日本は16年5月、安倍内閣による8項目の経済協力プランが示され、都市交通や運輸分野などにおける協力進展をめざすこととなりました。宮城県とニジニ・ノヴゴロド州(以下NN)の交流は時流に叶う動きで、他に北海道、秋田、鳥取、新潟等も交流実績があります(以上、日本国大使館ほか談)。

3)くらし| 通訳の方によれば、上記概況の一方で、社会主義時代の都市部の住宅が安価で自己所有になり、郊外農園「ダーチャ」と別荘を持つ、割合優雅な中産以上の階層も多いといいます。他の欧州同様、日本文化への憧憬がつよく、配慮の届いた日本製品は人気があり、国内に十分あるリンゴですら、一つ一つ袋詰めにした日本産は完売するそうです。またロシア人は体験型観光を望むため、海水浴や温泉等、コンテンツ次第では、いわゆるゴールデンルート(東京~京都周辺)以外の観光商品が成立つ可能性もあるといいます。また、文化を凝縮した工芸品はとくに好まれるそうで、今回、大学交流の可能性を探る協議が実現したのは、ロシア国内での伝統工芸育成と、宮城県の伝統工芸に親和性があるのではないか、と考えられたことが背景にありました。近くて遠く、大きいがヒューマンスケールも併せ持つロシア。入国管理等も厳しいため、むしろ米国より治安が良い面もあります。日露交流の進展は面白いかもしれないと感じました。

4)ニジニ・ノヴゴロド| 同市は人口第5位の拠点都市で、通称ニジェゴロドといい、かつてはロシア第3の都市といわれました。カスピ海へ注ぐ大河・ヴォルガ川の中流域に位置し、ニジニは「下」を意味します。モスクワからみると約400km東にありますが、広い国土においては東隣の大都市という感覚です。モスクワ川が注ぐオカ川がヴォルガ川と合流する位置にあり、モスクワとウラル地方を結ぶ交通の要衝として繁栄しました。同市は毎年、経済政策上の最重要行事の一つとして州内企業,政府関係者,参加国企業を招き、経済サミットを開催しています。宮城県は展示ブースを頂いており、今般の訪問では表敬や返礼の意を込めて州知事や幹部、日本側の関係機関、担当者らとの交流協議を行うこととなりました。会場のヤルマルカで行われた経済交流サミットは、有力自動車会社GAZ(ガズ・ゴーリキー自動車工場)の大型車、最新の3Dゴーグルから、伝統工芸・大学関係まで、多様な団体が出展していました。本学を含む宮城県のブースは、入口に近い目立つ場所にあり、各種映像や資料展示のほか県産品・食品・酒・米や、その他の様々な日本製品の展示が行われ、初日午後には、宮城県一団として、将来的なB to B(企業間取引)の可能性と、これに先立つ物流や、観光交流、学術交流の進展についてプレゼンテーションを行い、筆者も本学の取組みを概説しました。

 

5)ニジニ・ノヴゴロド建設大学(NNGASU)| 同校は、旧市街の一角、中古建物群を連結するかたちでキャンパスが構成され、外面的には質素だが、内部は活力あふれる優秀な大学という感触が伝わってきました。創立85年で、建築デザイン学部(学生:約1,000人)は本学と同じ50周年の歴史を有します。全学としては、9つの専攻と22の研究講座がある、ロシア随一の建築系大学で、卒業制作や教授陣の研究では、国内外の入賞例を毎年数多く輩出しています。現代的な建築学体系のほか、歴史文化財の修復技術や、環境デザイン、その他広い文系学部も併設しており、国際協力センターもあり、この数年間毎年、教員がフランスの大学に留学してPHDを取ったり、ミラノ工科大における歴史建造物の修復に関する講演を行ったりしており、ユネスコとの連携協定も結んでいます。とくに日本や東南アジアは、ユニークで豊かな文化を有しており、所属専門家らがこれらに触れる機会を求めているため、東北工業大学に関心をもったようです。
建築デザイン学部は大別して建築・都市・修復の3系に分かれ、現実的条件における設計教育を重視しています。卒業設計は国内外に出展、国際コンペでも入賞しています。古建築もあるので修復設計のニーズも高く、町並み保全分野の人気も高いそうです。またデザイン学部は、工業デザイン、物理環境デザイン、生活エレメントデザイン、インテリアデザイン等があり、工業デザインのある教授は、ヴォルガ川を走る船の実際の設計者で、極地車両の設計にも参画しているそうです。2015年には大学交流フェスティバルにおいて74大学中1位に輝き、ヴィクトリア賞も3回受賞したそうです。
一方、伝統工芸に関心を寄せているのは美術学・美術史系統の「文化学科」です。伝統工芸は歴史的なものだけでなく、現代美術にも影響を与えると考えており、ニジェゴロド州は、国内の多様な工芸品生産の3割の分野に関わっていることから、その道へ就職する卒業生もいるそうです。
以上のように、熱気ある解説には、筆者も圧倒されました。見学した充実の展示作品は、なんと、年度ではなく毎月更新で、まだスペースが不足しているといいます。全国あるいは外国から志願者を集め、ロシア語研修システムを完備しており、大いに刺激を受けました。

 

6)ニジニ・ノヴゴロド農業アカデミー| すでに東北大学が交流実績を持っていますが、県の一団として表敬訪問を兼ねてヒアリングに訪れたものです。大変温かみのある学内・スタッフ陣で、農業および関連産業研究の各面において、参考になるところも多そうです。地域との関わりも深く、食堂では手づくりのピロシキを焼いていて、そのヒューマンな雰囲気はまるで本学のライフデザイン学部のよう。また先端的な研究も少なからずあるようで、農地モニタリングなど、本学との交流可能性をも感じさせられました。

7)ロシアの建築と町並み| 最終日にモスクワ市内視察の機会を得、クレムリンを中心に、充実の視察を行いました。プーチン大統領は、クレムリンの大統領府にヘリコプターで通勤するそうで、ヘリポートもありましたし、観光地ながら持ち物チェックを受け、進入禁止ゾーンには警固兵がいました。主にゆっくり見学したのは内部の教会群です。ロシアでも、敬虔なキリスト教徒はほんの一握りになっているといいますが、例えば日本において西方系のクリスマスが流行っていることには、若干の違和感があるといいます。ロシアのクリスマスは1月。むしろ新年を迎えることが重要といいます。正教教会は東に祭壇をおき、東に向かい、椅子に座らず、立位で礼拝します。こうしてみると、何だか親和性もあって、日本人における西方カトリック系文化に偏ったヨーロッパ理解の不足、東方正教系文化とアジア文化を連続的に学ぶ必要を痛感しました。もちろん、そんなモスクワ自体もヨーロッパロシアの一部ですから、初日に泊まったホテル・メトロポールをはじめ、華麗な欧風インテリアに包まれた朝食を頂いたときには、贅沢な気持になりました。
ちなみに、個人的に最も感激したのは、最終日早朝散歩で見学した、念願のK・メリニコフ自邸(写7)。面積比でもっとも効率よいレンガ積みの円形平面は、ロシアの教会にみられる塔にも通じますが、そこに規則的な六角形の穴をあけ、周囲環境や内部環境を考えて窓にしたり埋めて壁にしたりする。それらの一切が、結果的に、通底する風土性とアバンギャルドな発想、確かなディテールをもった、固有性と都市親和性をもった住宅建築に結実していました。心から感激した次第です。

 

8)まとめ| NNGASUは、建築・都市・デザインの統合性においても本学に大きな示唆を与えるものでした。確かに、言葉の問題やレベル差もあり、大学間交流への道のりは近くないのですが、少数精鋭で良いから、丁寧に日露の懸け橋となる学生を育ててみる目標は、描いても良いかもしれません。

最後に、本視察にご協力頂いた皆様に、心から感謝の意を表します。