Vol.27
ライフデザイン学部
生活デザイン学科
大場 真教授
Ooba Makoto
PROFILE
2002年に北海道大学で博士(地球環境科学)の学位を取得。2005年から2年間、大阪大学大学院工学研究科の特別研究員を務めた後、2007年から国立環境研究所に特別研究員として勤務。その後、名古屋大学エコトピア科学研究所の助教、東京農業大学地域環境科学部の准教授を経て、2014年から国立環境研究所の主席研究員となり、2016年に福島支部、2021年に気候変動適応センターに赴任。2022年に本学の教授に就き、現在に至る。
- 担当科目
- 環境保全とエネルギー
- 地域計画概論
- 地域調査実習
- くらしのデザイン実習I・ II
※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。
THEME放置されてきた地域の森林を
まちづくりに役立つ新たな資源に
THEME放置されてきた地域の森林を
まちづくりに役立つ新たな資源に
環境に配慮した地域のまちづくりや自然との共生をテーマに地球環境科学の研究に取り組む大場先生。東日本大震災と、この大災害に起因する福島第1原子力発電所事故に大きな衝撃を受け、地域の資源を活用して復興を支えるための研究と学生の教育に力を注ぐようになったそうです。また、AIやシミュレーションモデルによるデータ解析のスペシャリストでありながらも、地道なフィールドワークの重要性を第一に説く独自の信念も掲げています。
地域の環境に理解を深めながらまちづくりを支える人材を教育
本学で教鞭を執る理由とは。
生まれ育った仙台に、30年以上ぶりに戻ってきました。学生と関わる中で感じているのが、地頭がいい若者たちがたくさんいること。でも、地方には幅広い学問分野で受け入れられる教育機関が少なく、都市との大きな賃金格差があるために、優秀な人材が地元から離れている状況が問題だと思っています。そのために、有望な学生の教育に力を入れたいと考えました。
どんな研究に取り組んでいますか。
環境問題を語る時、地球温暖化や貧困の格差などグローバルなスケールで取り上げられがちなのですが、ふと身の回りを見ると、深刻な公害の問題は日々改善されてはいます。果たして誰もが住みやすく快適な環境になっているかと問われれば、必ずしもそうではないでしょう。住宅エリア近郊に長く放置されている森林があり、誰も積極的に管理をしようとしていない。そういった現状の問題を住民に理解してもらい、その上でどのようにマネジメントしていくべきかを提案し、一緒に地域の環境を良いものにしていくことが研究の目的です。
未曾有の大災害をきっかけに身近な森林資源を見つめる研究へ
地域の森林環境を研究対象にしたきっかけとは。
東日本大震災の発災を機に、自然科学の研究者として震災と福島第1原子力発電所事故からの復興に資する地域創生研究に取り組みたいと考えました。原発事故後、再生可能エネルギーへの移行を推し進める動きが盛んになりましたが、確かにこれからの未来を考える上で進むべき道筋ではあるものの、ここ日本においては太陽光パネルや風力発電を設置するためには、ほぼ海外からの輸入に頼らざるを得ないのが現実です。しかし、周囲をよく見てみれば、私たちの先祖が薪を生産するために植えた森林が豊富に広がっており、それが見過ごされたままになっています。震災からの真の復興を目指すなら、地域に根付いた自然の力を活用できないかと考え、私の研究分野と地域の皆さんの思いを結びつけるベストな方法を求めて、10年以上に及ぶ模索が続いています。
研究の成果を地域に還元するために心がけていることとは。
森林の実地調査やデータ採取のほか、地域の課題解決に結びつくように地元の人たちを対象としたワークショップやアンケート調査なども行い、生の声を聞くことも大切にしています。私は市民公開講座で講演し、学科の学生たちはせんだいメディアテークで卒業制作展を開催します。その機会を通じて、一般の方にわかりやすく研究の内容を伝えています。
学生に調査研究を指導する際の方針とは。
以前は、野山に分け入ってフィールドワークをするというより、画像や測量データをソフトウェアで解析する手法を主としていました。マシンラーニング(機械学習)に関しては、専門家として日本有数のレベルにあると自負していますが、近年はローテクにこそ素晴らしい学びがあると確信しています。例えば、森林地帯の光環境を調べる際、センサーをPCにつないでデータを採取し、機械的に分析させてしまえば簡単なんですが、学生がそこから入り始めると知ったつもりになってしまう。実際に機器を手に携え、メモ帳に数値を書き込んでいくことで、正確な記録の取り方や平均値の計算方法などを体感的に身につけることができます。本学ではAIに関する先進教育に力を入れていますが、ローテクな手法こそが、実は理解の近道になるというのが私のポリシーです。
予定調和の理想を描くのではなく未知の探究を続ける意欲と姿勢を
学生に震災を伝える意義とは。
被災地の中で、福島県は非常に特殊な災害に見舞われました。他の地域にいるとなかなか福島の現状が分かりづらいので、学生には、東京電力廃炉資料館の見学などで学んでもらっています。私は国立環境研究所に在籍中、さまざまなことを見聞きして知り得ましたが、他の人にはまったく伝えてこなかったという反省があり、今、学生たちに教えていくことが責務だと思っています。
大場先生にとっての「未来のエスキース」とは。
研究者の道を歩んでからずっと、周りから「決まり切った設計図を描いてはいけない」と言われ続けてきたような気がします。岐路のないレールで列車を走らせるなんて何が面白いんだ、計画を立てる段階でうっとり惚けて終わってはいけないと戒めています。エネルギー事情が想定外の流転を繰り返している歴史が物語っている通り、何もかも理想の設計図に頼りすぎなのが失敗の原因ではないかと考えています。私としては、捉えどころのない欠片をかき集めて、それらを組み合わせたり復元したりを繰り返し、まだ世に無い事象を見出して解明することこそが醍醐味だと思っています。
COLUMN
わたしと
恩師
最先端を求めた先に待つ科学の万能を疑う教訓
子供の頃から科学技術に興味を持っており(私たちの世代は大体そうだと思いますが)、それに関わる仕事をしたいと願っていました。それには「最先端」が必要で、それを伝授する「師」が必要だと、ずっと思っていました。しかし残念ながら、あるいは幸いなのか、逆に科学技術の副作用、不十分さを批評する方に多く巡りあうこととなり、大きな影響を受けました。そしてその後、チェルノブイリの事故、80年代ハイテク日本の没落、迫り来る地球温暖化、そして日本国内での原子力災害を目にすることとなりました。結局、気づくと、科学技術を取り巻く環境というものを、研究する立場になっていました。最先端というよりはむしろ、科学技術的解決の不十分さを補い、社会経済や生活文化も十分に配慮する、方法論です。科学技術の「最先端」も大事ですが、それだけではなく、それを支える裾野も伝えられる、教えられる教員になれればと思っています。