Vol.25
工学部
環境応用化学科
山田 一裕教授
Yamada Kazuhiro
PROFILE
東京理科大学大学院工学研究科工業化学専攻を修了後、生活協同組合都民生協(現:コープとうきょう)で勤務。1991年1月から2年間、国際協力事業団青年海外協力隊のモロッコ王国水質検査隊員として活動。帰国後、東北大学工学部の助手を務め、1998年に博士(工学)の学位を取得。同大大学院工学研究科講師を経た後、2003年4月から岩手県立大学総合政策学部の助教授、教授を歴任。2010年に本学の教授に就き、現在に至る。
- 担当科目
- 循環型社会形成論
- 科学リテラシー
- 環境マネジメント
- 地域環境調査法及び同演習
- 水環境工学
- 大気環境工学
※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。
THEME生態系の機能を活用して
水環境の保全と再生を
THEME生態系の機能を活用して
水環境の保全と再生を
循環型社会づくりを目指し、汚水浄化方法や水環境の管理・再生方法を研究している山田先生。特に、水生植物や微生物といった生物の性質や特徴を活用した浄化方法の開発、さらに浄化された水やバイオマスの有効利用にも探求を深めています。水質汚染を含む環境問題の解決に取り組む揺るぎなき信念とともに、震災前の北上川河口域で目の当たりにしたヨシ原の感動が、研究に取り組む原動力になっていると語ります。
現代の環境問題を世に問うため学術的な知識を高める進路へ
どんな将来像を描いていましたか。
東京理科大学では工業化学分野を専攻し、工業排水の処理に関連する研究に取り組みました。実は、それ以前から環境問題に関心が高かったので、公害の実態を報じて解決に向けた活動につなげるマスコミ業界での就職を第一志望に考えていました。でも、世の中の多くの人に行動の重要性を伝えるためには、やはり自分自身が科学の専門知識を身につけていないと説得力に欠けると思い、大学院への進路を選択しました。修了後は、生活協同組合都民生協で勤務しましたが、熱心な組合の方たちと民間ベースで盛んに意見交換したり勉強会をしたりでき、有意義な2年間を過ごせたと感じています。
国際協力事業団青年海外協力隊に参加したのは。
海外、特に途上国での環境問題がどのような状況なのか興味を持ち、応募しました。現地での活動に充実感はありましたが、それでもまだまだ知識や経験が足りないと思い、帰国後は、博士の学位を取得しようと決意しました。
生物が秘める機能を理解しながら水質改善に活用する仕組みを
山田先生が取り組んでいる研究とは。
汚水処理の分野では、人工的なエネルギーや薬剤を大量に投入して浄化する技術がすでに確立されているのですが、これからは石油や化学薬品などに依存せず、生物が本来持っている力を引き出して浄化や資源循環に活用することで、持続可能な社会づくりに寄与できると考えています。学生時代に国立公害研究所(現国立環境研究所)で研究に取り組んでいた際、植物の機能を利用して生活排水を処理する実験をしていた学生がいて、その研究テーマにとても心惹かれたのが最初のきっかけになりました。東北大学に赴任して同様のテーマに取り組むチャンスに恵まれ、その調査のために訪れたのが北上川河口域のヨシ原でした。もう30年も前になりますが、初めて目にした時は、視界に大きく広がる見事な風景にとても感動しました。
ヨシが持つ浄化機能とは。
ヨシの茎は中空構造になっていて、空気を通す機能を持っています。光合成で作り出した栄養と新鮮な空気を水面下の地中に送り込むので、根の周りにいる微生物を活発化させます。微生物が元気になると、水の中の汚れや化学成分を分解して浄化作用を生み出すので、水質改善につながります。3㎡のヨシ原は、1人の人間が1日に出す家庭排水を処理する能力があることが分かっています。ヨシの良好な生育環境や浄化能力を発揮できる生体構造を調べ、水質改善のシステムとして完成させることが命題となっています。
現在、研究の主題は何ですか。
全国的にヨシ原の生育面積は衰退の途をたどっており、北上川河口域のヨシ原も東日本大震災で半減してしまい、その内の3分の1程度しか再生していません。本学では、ヨシ原がなぜ衰退してしまったのか、復活させるためには何をすればいいのかをメインの研究テーマに据えてきました。また、茅葺屋根の工事を担う地元企業やNPO法人と連携し、ヨシ原再生活動を企画して、研究室の学生にも参加を促しながら保全と再生に取り組んでいます。
社会の課題をともに解決へ導く同じ志を持つ研究者を輩出
研究者が社会に果たす使命とは。
私の恩師は、現代の環境問題を招いたのは産業に原因があり、その責任を負い、しっかりと技術で解決するのが研究者の使命であると言っていました。確かにそうだと納得する反面、個人がいくら頑張ったところで限界があるのではとも疑念を抱きました。それなら、世の多くの人たちが同じ方向を向いて行動することが、解決の近道になるのではと考えました。ジャーナリストになりたいと思ったのは、そういう思いをきちんと伝えられる手段を持っているから。今、私は大学教員として、環境問題に対する意識やスキルを備えた学生を世に送り出すことができます。また、社会の課題に対面する度、自分に何ができるか自問自答を繰り返しています。技術の進歩が全てを解決する手段になり得ないという考えが私の根底にあり、そこに慢心してはいけないと自らを戒めています。
山田先生にとっての「未来のエスキース」とは。
私たち研究者が手掛けている知の蓄積を、どのように社会へ還元していくか。そこに努力を注ぐ必要があると思っていますし、その実現のためには、やはり一人の力だけでは成し遂げられません。だから、同じ視点で目標を据えている同士を募り、一緒に力を合わせていく未来図を描ければと思っています。
COLUMN
わたしと
切手
切手収集は平和な趣味
みなさん手紙を書いていますか。残念ながら手紙に貼る切手も需要が無くなりつつあります。世代的に、趣味の一つが切手収集です。小中学校までは、友人との交換や、切手屋さんを訪れてはコレクションを増やしていました。しかし、その後は疎遠になっていました。
縁があって青年海外協力隊でモロッコに派遣され、町の電話局に出かけなければ国際電話もできない状態におかれました。日本の友人に手紙を書き、相手や季節に合わせてモロッコ切手を選んでいるうちに、切手が伝える文化や自然、祭り、歴史などに魅了され、収集魂が再燃してしまいました。
帰国後は、「環境問題」と「モロッコ」というテーマで収集しています。使用済み切手を集めておけば寄付ができる慈善団体もあり、巡り巡って世界の切手収集家の手に渡る、循環型の平和な趣味とも言えるでしょう。
さぁ、みなさんも手紙を書いて、切手を巡らせてください。