Vol.22
工学部
環境応用化学科
佐藤 善之教授
Sato Yoshiyuki
PROFILE
2004年2月まで広島大学大学院工学研究科の助手を務めながら、2001年に同大で博士(工学)の学位を取得。2004年3月から東北大学大学院工学研究科の准教授、客員教授、特任教授を歴任。東北工業大学工学部環境応用化学科には2019年4月に教授として着任し、2022年4月に学科長となり現在に至る。東北大学大学院工学研究科の客員教授も兼任中。1998年に日本熱物性学会賞奨励賞、翌年に化学工学会奨励賞、2005年にプラスチック成形加工学会論文賞を受賞。
- 担当科目
- 化学工学
- 化学数学Ⅰ
- 化学数学Ⅱ及び同演習
- 応用化学実験
- 有機合成化学
- 大気環境工学
※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。
THEME有害物質の低減と省エネや効率向上を
推し進めるための環境適合溶媒を
THEME有害物質の低減と
省エネや効率向上を
推し進めるための
環境適合溶媒を
これまで、塗装や洗浄、印刷といった多くの工業的用途で有機溶媒が利用されてきましたが、環境に対する意識がますます高まっている近年の時勢により、超臨界流体やその混合系などからなる流体の利用に、産業界からの関心が集まっています。佐藤先生の研究室では、熱力学や相平衡に関する知識を駆使しながら、これらの流体の特性を理解して研究成果を積み重ねることで、人や環境に優しい化学プロセスの開発を支えています。
食品や工業で活用の未来が望める超臨界流体技術のポテンシャル
超臨界流体とは何ですか。
物質には固体・液体・気体の三態がありますが、温度と圧力を上げて臨界点に達すると、液体と気体の密度が同じになり、それを超えると物質は液体と気体の性質を併せ持った状態になります。それを超臨界流体と呼んでいますが、代表的なものとして挙げるなら水と二酸化炭素でしょう。二酸化炭素は、31度という比較的に低い温度と7.38メガパスカルの圧力下で超臨界状態となるので、食品加工や工業の分野において幅広く活用されています。例えば、コーヒーからカフェインだけを取り除いたデカフェは、最も商業的に成功している事例と言えるでしょう。ビールの苦み成分であるホップエキスや生姜エキスの抽出にも利用されています。超臨界流体は、物質から特定のものを抽出する際に、選択性を細かくチューニングできることが大きな利点となります。溶液として水を使う場合は温度の高低を変えるだけにとどまりますが、超臨界流体の場合、温度と圧力の両方をチューニングすることで多様な用途に役立つ可能性を探ることができ、工業的に訴求性の高い技術だと言えます。
幅広い技術の応用を探る研究によって環境に優しい製造プロセスに貢献
どんな工業技術に適用されていますか。
高校生向けの出前授業では、超臨界流体を使うと環境に優しいプロセスにつながるという切り口で話をしています。例えば、有害なガスの浄化に使われている有機ガス除去用エアフィルタは、ある程度汚れを吸着してしまうと廃棄していました。これを、二酸化炭素の超臨界流体で洗浄して再利用できるようにする技術が開発されました。また、衣類のドライクリーニングでは主に石油系溶剤が使われているため、揮発性有機化合物が大気に排出されてしまいます。これに代わる洗浄溶媒として二酸化炭素の超臨界流体の活用が期待されています。昨今の環境に対する意識の高まりにより、二酸化炭素や水を使う超臨界流体への注目度は高まっていると感じています。
超臨界流体を活用する目的は何ですか。
現在、産業界では、有害な有機物質の大量使用や大量生産にともなう莫大なエネルギー消費、廃プラスチックの処理など、たくさんの課題を抱えています。そこで、超臨界流体を工業的に利用する研究を進めています。溶剤系塗料に含まれるキシレンやトルエンなどの削減、重合プロセスにおける省エネルギー化、プラスチック成形のための新たな発泡技術開発と、多くのメリットが生まれます。これは、SDGsの実現を目指す時流に沿った革新的な技術であると考えています。
どんな研究に取り組んでいますか。
私が取り組んだ研究テーマに、「溶液重合条件におけるポリマー溶液の高圧相平衡」がありますが、これは重合プロセスの省エネルギー化を目指しました。プラスチックの一種であるポリエチレンの溶液重合では、溶剤の回収に多大なエネルギーが求められます。超臨界状態であるモノマーのエチレンを多量に重合溶液中に溶解させると貧溶媒として作用し、ポリマーが相分離をおこします。これを利用するとポリマーリッチ相と溶媒リッチ相に相分離するため、溶媒の回収の省エネルギー化が可能になります。この基礎データとなる相平衡(気液平衡、液液平衡)の測定に関する研究に取り組みました。高校の出前授業でも、ポリマー溶液が相分離する様子を装置で観察してもらっています。
研究者としての信念を抱きながら産業界のニーズに応える研究成果を
研究に臨む姿勢に大切なのは。
私の研究アプローチは、しっかりプランを練って実験に臨み、最小限の努力で最大の効果を得られるよう知恵を尽くすことを心がけています。研究室の学生にも、ちゃんと論理として突き詰めてから実験やデータ採取に取り組むよう指導しています。時には、トライ&エラーの繰り返しで得られる成果もあるでしょうが、科学的な論拠で裏付けた下準備をしておくことが、この分野の研究者として大事な姿勢だと思っています。
佐藤先生にとっての「未来のエスキース」とは。
私が取り組んだ研究が、産業界でのコスト試算や検証などを経て、新たな技術革新や製品開発の土壌になってくれることを望んでいます。そのベースとなる基礎的なデータを提供することが、私にとっての「未来のエスキース」だと考えています。世の中を驚かせるような科学の新発見は目立つし、誰の目にも分かりやすい成果なのかもしれません。私は、世の中が何を求めているかに嗅覚を働かせ、そのニーズに応えらえるような研究を続けていきたいと思っています。
COLUMN
わたしと
設計製図
装置自作のススメ
化学系の学科の出身のはずなのですが、かなり機械系に近い学科だったため、学生時代には化学実験などの他に設計製図や工作実習が修でした。あまり真面目な学生ではなかった小生は製図の締め切り前など徹夜するのが日常で、特に実験レポート締め切りと製図の締め切りが重なった時には、身から出た錆とはいえ正直つらかった思い出しかありません。。
一方で研究室に入ってからは、卒論研究のための装置を作るのに図面がないと学科工作室で相手にしてもらえない。書いても散々ケチをつけられ(正確に言うとご指導いただいたのですが)何とか作っていただくような感じでした。大学院、助手になると研究費も十分になかったので、研究のための装置の自作にも拍車がかかり、そのうち小生の設計スキルも上がってきて、今でも大半の装置を設計製図して自作しております。これが功を奏して、他では真似できないような特色を持った装置をいくつも発表してきました。
専門の超臨界流体関係の書籍執筆の話があると、同業者で同じようなことをする者もいないので、かなりの確率で装置設計の節の執筆を依頼されます。まさに人と違うことやっていて、よかったと思う点ですが、正直、専門の相平衡の執筆をしたい今日この頃です。