東北工業大学

建築学部

建築学科

菊田 貴恒教授

Kikuta Takatsune

PROFILE

2007年3月に本学の工学研究科建築学専攻の博士前期を修了した後、東北大学工学研究科都市・建築学専攻博士後期に進み、2010年に博士(工学)の学位を取得。同年10月に同大大学院の助教として教鞭を執り、2013年4月に日本工業大学工学部の助教に着任。2016年10月に同大建築学部の准教授となる。本学建築学部建築学科の准教授に就いたのは2020年4月。2022年4月に教授となり現在に至る。

担当科目
建築材料Ⅰ
建築材料実験Ⅰ
建築材料実験Ⅱ
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEMEより丈夫で環境にやさしい
建築材料の未来を描いて

THEMEより丈夫で
環境にやさしい
建築材料の
未来を描いて

現代の都市空間や住環境を支え、身近な建築資材として幅広く活用されているコンクリートを代表するセメント系材料。菊田先生は、コンクリートの引っ張りにもろいという弱点を補うために、化学合成繊維や金属繊維などを混合して粘り強さを付与する強靭化の研究に取り組んでいます。また、人体の筋繊維運動メカニズムを応用した性能可変型のセメント系材料の開発といった、まだ世の中にない技術を生み出す挑戦にも情熱を注いでいます。

現代建築を支えるセメント系材料の新たな可能性を拓く研究に挑戦

どんな研究に携わっているのですか。

建築に不可欠なコンクリートを代表とするセメント系材料の研究を行っています。イギリスのレンガ積み職人がポルトランドセメントを発明してから200年以上経ちますが、これまで耐久性や強度を高め、寿命を伸ばすために試行錯誤が続けられてきました。最近では、幅広い用途の開拓や環境性能の追求といった、新たな付加価値も求められています。そこで、古くから使われてきたセメントに先端的な素材を複合化させ、これまでに無い超高性能なセメント系材料の実現を目指しながら、新たな可能性を秘めた新材料の開発につながる研究を進めています。

この研究分野に進んだきっかけは。

本学に入学してから4年間は建築の構造について学んでいたのですが、コンクリートに関する研究において世界的な実績を持つ恩師・三橋博三先生との出会いをきっかけに、建築材料学としてのコンクリートの可能性に触れました。さらに、博士課程に進学した際、繊維補強セメント系複合材料に関する研究を勧められたことが、今につながる道筋となりました。

社会のニーズや課題解決に応えるため従来のセオリーを超えた試行錯誤を

コンクリートの強靭化の方法とは。

コンクリートは、高い耐久性を持つ建築材料ですが、引っ張る力に弱くてもろいという弱点があります。だから、コンクリートの中に鉄筋などの芯材を入れて補強します。でも、小さなヒビが入ってしまうと、そこから水分など空気中の様々な成分が侵入してしまい、鉄筋に腐食が発生しまう原因になります。これを制御して防ぎたいというのが研究の目的です。例えば、微細なファイバーの力で強靭にすれば、水分などの侵入を阻みやすくなるので、鉄筋が守られ、長寿命化に繋がります。

混合する材料によってどんな効果が生まれますか。

コンクリートの混合材料にファイバーを使う研究は100年以上の歴史がありますが、ある程度定説となったセオリーを踏まえた上で、従来の1種類だけでなく材質や大きさを変えた3種類を混合させてみて、1+1+1で3になるのではなく6にも7にも性能が高められるような新しい材料設計法を模索しています。また、エアロゲルを活用してコンクリート自体の断熱性を高め、発泡プラスチックなどの石油系の断熱材を減らすことで、環境負荷を低減する流れを作れるのではないかとも考えています。

コンクリートに人工筋肉を混合させる研究とは。

人工筋肉を用いた研究に関しては、「繊維補強セメント系複合材料のひび割れ分散特性に及ぼす人工筋肉の影響に関する研究」にも取り組んでいますが、これは、地震波をセンサーが感知すると即座に緊急地震速報が流れるシステムをイメージしています。コンクリートの壁に人工繊維の筋肉を張りめぐらし、災害時に電流を流すと、まるで人が身構えるようにギュッと引き締まり、ヒビが入りにくく強固なものにしようするものです。科学学術雑誌の「サイエンス」に、釣り糸で使われるナイロンテグスで安価に人工筋肉を作ることができるという論文が掲載されているのを読み、これを建築分野でうまく活用できないかと興味を持ったのが着手のきっかけになりました。

遥か先を見据えて情熱を傾けいつか大成することを夢見て

大学で研究に取り組む意義とは。

自分たちが取り組んでいる研究の成果が、遠い先の未来、どのように役立っているか想像してみようと、よく学生たちに語りかけています。2、3年後の実用化を目指す企業の研究とは違って、もっと大きな夢と希望が描けるのが大学生の本分ではないかなと思っています。この研究室では、一般的に建築材料として普及させるにはやや高価な素材も扱っていますが、いつか低コスト化が実現すれば、現在の研究がきっと役に立ち、建築の未来を変えていくのではないかと心待ちにしています。

菊田先生にとっての「未来のエスキース」とは。

研究実験では、何でもやってみようという前向きの姿勢でいつも臨んでいます。あまり確信は得られなくても、誰もやっていない地点から挑戦したい。学生たちにもよく言っていますが、実験なんて失敗が9割9分。成功しなければいけないと思い込んで視野を狭めてしまうよりも、未知の試みに挑もうと意欲を高めていくことが大切です。純粋な興味から発する挑戦こそが、新たな発見が生まれる端緒になるのではと思っています。そんなポジティブな考えの下で、地道にモルタルを混ぜる毎日です。

COLUMN

わたしと

2頭の犬と苦手の克服

この10年ほど自宅にいる犬たちのお世話がわたしの日課というか趣味になっています。きっかけは「大の犬好き」の妻の影響で、結婚した当初に小型犬を1頭飼ったことから始まりました。その後、最近になりわたしの娘が「どうしてももう1頭、犬を飼いたい!」と言うため家族会議の末、新たに小さな子犬を飼うことにしました。
このようにして我が家には、2頭の犬が暮らしているわけですが、そもそも、わたしは動物が大の苦手でした。実は現在も少し苦手です。ただ、人は不思議なもので苦手意識のある物も毎日接しているうちに次第に慣れ、10年かかりましたが2頭の犬のおかげで犬に対する苦手は克服できたと思っています。
この経験から、苦手な物も10年程度真剣に向き合えばなんとか克服できるのではないかと勝手に思い込んでおり、今後はどうしても苦手な「納豆」を10年かけて美味しく食べられるように克服していきたいと考えています。