東北工業大学

ライフデザイン学部

産業デザイン学科

坂川 侑希講師

Sakagawa Yuki

PROFILE

2014年3月に東北工業大学ライフデザイン学部クリエイティブデザイン学科(現:産業デザイン学科)を卒業後、札幌市立大学大学院デザイン研究科デザイン専攻博士前期課程へ進学し、2016年3月に修士(デザイン学)の学位を取得。その後、2019年4月に東北工業大学ライフデザイン学部産業デザイン学科(2020年4月に名称変更)非常勤講師を経て、2021年4月より現職。日本デザイン学会正会員、日本教育工学会正会員。

担当科目
アイデア基礎および同演習Ⅰ・Ⅱ
デザイン計画および同実習B・C
インタラクションデザイン論
情報デザイン論
デザイン論Ⅰ・Ⅱ
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME地域の課題を改善に導くための
カタチに捉われないデザインを

THEME地域の課題を
改善に導くための
カタチに捉われない
デザインを

人々の体験や繋がりをヒントに、生活の一部になるような生きたモノ・コトの創出とそのプロセスの可能性を追求している坂川先生。デザインのプロセスを広い視野で捉え、観察と共感によって人間を理解
し、他者と共創するスキルを養うデザイン教育にも注力しています。自らは“まだまだ未完成”と語りながらも、先生の信念に共鳴して地域での活躍が見込まれる若き才能が羽ばたく時を待っています。

社会の課題を見出す洞察力を持ち広い視野で発想を生み出すデザイン教育

本学の研究で重視していることとは。

私は、情報処理という観点から人の知の働きや性質を理解する認知科学をベースにした情報デザインの分野で研究に取り組んでいますが、本学に着任後は、デザインのプロセスを重視するとともに、デザイン教育の場づくりにも力を入れています。そもそも、デザインというのは、現状を改善に導いたり新しい価値を生み出したりする行為だと考えていますが、そこには必ず人が介在しています。この研究室では、デザインの最終的なアウトプットから考えるのではなく、まずは、身の回りにはどんな問題があるか、何か改善すべきことはないかを捉えるための洞察力を深め、様々な知見を取り入れて思考することから着手しています。

教育に注力する理由とは。

小・中学生の頃からずっと、将来は教育者になりたいと思っていました。数式を暗記して機械的に答えを出すような教育ではなく、どうして、なぜ、と思考を巡らせて回答にたどりつく行程を歩むことこそが、継続的で能動的な学びに繋がると考えたからです。

他分野の人々と知恵を重ねていき共創の先で得られる価値を

学生が研究に取り組む上で大切なことは。

学生に対しては、誰かと一緒に考え、一つのものを作り上げていく“共創”の意義を強調しています。できるだけ多くの人を巻き込みながら、何か一つの目標に向かって取り組む卒業研究を一年の内に完成させるため、自分の周囲や身近な地域でテーマを見つけるよう指導しています。いずれは、社会的に重要な課題に取り組む人材になってくれることを望んでいますが、まずはその中に含まれる小さな問題を1つずつ解決していくことから始めて欲しいです。だから、この研究室では、多様な人々とのコミュニケーションを通じて課題の定義と解決を図るアプローチをとっています。

どんな研究手法で取り組んでいますか。

研究に取り組む上では、特に観察と調査に重きを置いています。まずは文献調査から着手してもらい、類似したテーマの研究論文などがあれば参考にし、見当たらなければ実際に現地へ足を運んでもらいます。そこでインタビューやアンケートが必要であると判断したら、その状況に応じた方法をレクチャーしつつ、プラスアルファでどんな調査が必要なのか、学生自身が独自の方法を確立して取り組むことを強く意識させるようにしています。

デザイン研究における課題とは。

私は、4年次の卒業制作で高齢者の健康維持に役立つ「バリアを用いたウォーキングコースマップのデザイン」に取り組みました。その調査に協力してもらった仙台フィンランド健康福祉センターのスタッフや地域の高齢者にマップの完成を喜んでもらったので私自身は十分な満足感が得られたのですが、最終発表で教員陣から「この成果は正しい成果なのか」と問われ、大きな気づきを得ました。デザインの成果は、そのユーザーからの評価について論議することに終始してしまいがちですが、たとえ専門家でなくともその価値を理解できるよう、広く共有していくことに発展の先があるのだと考えています。そして、研究成果を論文としてまとめたり、他の地域でも再現性があるかを検証したりすることで学術的な議論を盛んにし、学問としてのデザイン研究の基盤をより強固にしていくことも自分の使命だと考えています。

豊かな社会の理想図を描けるデザインのスペシャリストに

社会におけるデザインの役割とは。

人のために役立ちたい、技術開発によって世の中を豊かにしたいという思いは、学問分野を問わずどんな研究者も抱いている目標で、様々な意見や知見を俯瞰してまとめることができるのがデザインの力だと思っています。ゆえに、プロジェクトを成功へ導くための先導者は、デザインの専門家が適任であると私は考えています。

坂川先生にとっての「未来のエスキース」とは。

一言で表すならば「可能性」でしょうか。多彩な知識や経験で自分を満たし、未来を描くための出発点とし、そこから、選択肢を増やすためのプロセスを歩んでいくことが重要だと考えます。また、この研究室では、学生のパーソナリティーを重視しています。誠実さが持ち味だったり共感性が高かったり様々な特性を備えた学生が見受けられますが、それこそが可能性の幅を広げるエッセンスとなるでしょう。それぞれの特性を活かして自分らしいデザイン実践ができるよう指導できればと思っています。

COLUMN

わたしと

建築

「デザイン」の源流を辿る

父が住宅設備メーカーに勤めていたこともあり、小さい頃から建物に触れる機会が多く、自然と建築への興味が深まったことを覚えています。結果的には、その興味が「デザイン」にまで広がり、気づけば大学でデザインを教えているわけですが、建築は今の私にも多くのヒントを与えてくれます。そもそも、デザインの歴史を語る上で欠かせない「バウハウス」は、建築家であるヴァルター・グロピウスによって設立され、建築を中心に芸術を統合しようとする教育プログラムを実践していました。つまり、デザインの源流は建築にあるのです。そして、ルイス・サリヴァンが「形態は機能に従う」、ル・コルビュジエが「住宅は住むための機械である」と表現したように、合理的で美しいものを追求するというデザインにおいて欠くことができない思想を、建築家たちは提供してくれたと考えています。そんな建築に思いを巡らす時間は私にとって、初心を思い出させてくれる、大切な時間です。