Vol.20
ライフデザイン学部
生活デザイン学科
栗原 広佑講師
Kurihara Kosuke
PROFILE
筑波大学を卒業後、2013年6月~翌年3月に東北大学災害科学国際研究所で教育研究支援者として東日本大震災の被災地復興と自然災害科学研究に携わる。2014年4月に筑波大学大学院人間総合科学研究科へ進み、2020年3月に博士(デザイン学)の学位を取得。2020年4月~2022年3月、関東学院大学建築・環境学部建築・環境学科の助手を務めた後、2022年4月から本学の講師に就任し、現在に至る。
- 担当科目
- 住まいの計画
- 住まいの設備計画
- 住まいのデザイン実習Ⅰ
※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。
THEME地域の気候風土や営みを体感しながら
森林資源と住まいの未来を模索
THEME地域の気候風土や
営みを体感しながら
森林資源と住まいの
未来を模索
建築における快適な熱環境を考える上で、日本の伝統的な木造建築の特性に着目している栗原先生。その建材となる地域の森林資源にも目を向け、過去から現代に至る住まいとの関係性を綿密なデータ採取や聞き取りなどを元に考察を深めながら、未来に向けた建築デザインの在り方を探求しています。さらに、地域の気候風土に根差した資源循環型の暮らしを守る建築の理想像にも思索を巡らせています。
快適な住環境を追求しこれからの住まいの在り方を考察
建築環境設備工学とは。
人が快適に過ごすことができる建築物の環境について考える研究分野で、その着眼点の1つに寒暑に関わる熱環境が挙げられ、私の主たる研究テーマになっています。また、コロナ禍で一躍注目が高まった空気質を清浄する換気や、光や音といった要素も含みます。これらをどのようにコントロールすれば快適な暮らしを実現できるかを考察します。加えて、昨今の資源高によるエネルギー危機や二酸化炭素排出にともなう気候変動の問題を鑑み、エネルギー消費をなるべく抑える、もしくはカーボンニュートラルに取り組みながら、暮らしの利便性と環境保全の上手なバランスを図って持続可能な社会、快適な住まいの構築を目指すことも、私の取り組む大きな研究テーマになっています。現在、ゼロ・エネルギー・ハウスなどが建築界での大きな潮流になりつつありますが、そもそも100年前に遡れば、みんなエネルギー消費ゼロのエコな住宅に住んでおり、そのような伝統民家の優れている点を探っていくことが今後のキーになるのではと考えています。
地場の森林資源を活用した伝統住宅で地域の暮らしから学ぶ調査研究
古民家に着目する理由とは。
伝統的な民家の暮らしは、古い文献によると衛生面や住まいとしては厳し過ぎる寒さなど、深刻な問題が山積みでした。しかし、全て投げ捨てて現代的な建築に移行するというのは、少し違うのではないかと思っています。戦前、農村住宅改善運動が起こり、建築学・民俗学・考現学の第一人者である今和次郎先生が現地調査を行いましたが、伝統的な住居との連続性をもった改善策が図られました。長い時代を経て今に残る古民家を、その限界も理解した上で再評価し、再活用の道を考えていく視点が大事だと考えています。
具体的な研究内容を教えてください。
山形県金山町で薪ストーブを使っている木造戸建住宅の室内温熱環境の実測調査を行いました。同町では、地域材である金山杉を用い、金山大工が建築した独特な外観が特徴の「金山型住宅」による森林資源の利活用や集落景観形成に取り組む運動を40年以上も続けています。地域で産する木材で家を建て、地域の木質燃料で暖を取るという循環スタイルが、森林資源の地産地消として理想的な形だと感じたのが着手のきっかけです。築5~10年の新しい住宅は機密性の高さにより熱効率に優れているのは当然ですが、築100年以上の民家でも冬は薪ストーブのある居間を中心に過ごすことで、基本となる生活空間の室温を20度前後に保っていることが分かりました。真冬は氷点下まで気温が下がる町ですが、古い民家の住人たちは薪をくべ続けながら薪ストーブを囲んで日々を過ごしており、家屋の設計やデザインだけを着眼点にするのではなく、どんな住まい方をしているか、そのような暮らしをいかに地域社会で支えているのかに考察が及ぶ重要な機会となりました。
どんな調査手法をとっているのですか。
本学には、環境民俗学の岸本誠司教授が“歩く・見る・聞く”をキーワードに調査研究されていますが、私の研究にとっても大切な手法であると考えています。人々がどのような気候風土の下で営みを続け、地域資源を活用しながら優れた循環のサイクルを支えてきたのかを知るために、現地調査は重要な手がかりになります。
自身の中で生まれた興味を突き詰め独自の答えを求める研究者に
研究者の道に進む動機とは。
大規模な震災復興工事が本格的に進んでいた時期、東北大学で1年間お世話になっていたのですが、親しくしていた先生の「建築は生活を守るもの」という言葉に啓発され、筑波大学の研究室に戻る決心を固めました。修士時代は、石巻市桃浦地区における支援活動に携わり、漁村での暮らしに親しむ中で、牡鹿半島では海と同じくらい里山も重要な地域資源であることを知りました。また、木材産業のサプライチェーンについて詳しく学びたいと思い、自社山林を所有する茨城県の製材会社に、山仕事の見習いアルバイトをさせて欲しいと飛び込んだのも貴重な経験になりました。
研究に取り組む学生にアドバイスを。
自分が好きなことを追求していく姿勢こそが真の学びになります。自らフィールドに足を運んだりヒアリング調査に挑戦したり、図書館に何日も缶詰になって資料を漁ったりする精神性や情熱を持って欲しいですね。また、社会通念的な一般論を前提にした研究は面白くありません。全体像にこだわらず、自分が気になった一部分にフォーカスして新たな発見を得て、それを自分なりの考えでまとめることが、重要な一歩になるでしょう。
COLUMN
わたしと
DIY
ホームセンター通いのススメ
学生の頃は時間だけはあったので、必要な家具などはほとんど自分で作っていました。芸術系の学部に通っていたので、大学に一通りの木工機械は揃っていましたし、学内には廃材や端材なども豊富で、授業の合間に材料を拾い集めてはせっせとDIYに勤しんでいました。スーパーよりも、ホームセンターに行く回数の方が多かったように思います。ものづくりを学ぶ者にとっては、ホームセンターは教材の宝庫ですので、興味がある学生はぜひ良いホームセンターに出会ってもらいたいと思います。
ある時には弁当箱作りに挑戦したこともあります。知り合いから良いヒノキ材を貰い、それを材料としたのですが、これは失敗。弁当箱はなんとか形になりましたが、弁当の中身が全て「ヒノキ味」になってしまいました。昔から曲げわっぱはスギ材、おひつはサワラ材と相場が決まっていますが、香りの強すぎる木は適さないようです。
こんな失敗も含めて、実際に手を動かして得られた経験は一生物になります。