東北工業大学

工学部

情報通信工学科

工藤 栄亮教授

Kudoh Eisuke

PROFILE

1986年に東北大学理学部物理学科を卒業、1988年に同大大学院理学研究科博士前期課程修了。同年4月に日本電信電話株式会社へ入社し、無線通信の研究に携わり、2001年に東北大学で博士(工学)の学位を取得。同社を退社後、2009年3月まで東北大学大学院工学研究科准教授として教鞭を執った後、2009年4月から本学工学部情報通信工学科の教授に就任し、現在に至る。2005~2007年には内閣府本府上席政策調査員(非常勤)も務める。

担当科目
通信システムⅡ
通信工学入門
論理回路
コンピューター数値解析
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME目には見えない無線通信ネットワークで
人とモノをつなげる新たな未来を

THEME目には見えない
無線通信ネットワークで
人とモノをつなげる
新たな未来を

1990年代後半から爆発的に普及した携帯電話は、世の中に劇的な変革をもたらしました。工藤先生はその開発の先端に立ち、進歩著しいIoTの可能性を模索し続けてきた一人です。現在取り組んでいるセンサネットワークを駆使した屋内位置推定法の研究も、本学が重視しているAIを取り入れながら、より応用の幅を広げています。日進月歩の通信技術がどのように活用され、どんな未来を描くのか詳しく聞きました。

電気通信企業の入社をきっかけに
通信に関する知識ゼロからの出発

通信分野に進むきっかけは。

大学時代は、物理学科で学んでいました。この頃、まだ携帯電話が普及していなかったので、情報通信分野を専門にするとは全く思っていませんでした。大学院2年目で就職を考えていた時、担当教授から日本電信電話株式会社(NTT)を薦められ入社したのですが、通信の会社に入ったのですから、学生時代の専門にこだわった部署に行っても幸せになれるか疑問を感じました。無線通信に関する研究も今ほど盛んではなく、私自身、知識ゼロの状況からのスタートとなりました。

最初に手応えを感じたのはいつですか。

無線通信技術が飛躍的に発達する黎明期に立ち会えたことは、今ではとても幸運だったと感じています。わからないことだらけで、発見の連続だったのですが、だからといって悲壮感に暮れる毎日という訳ではありませんでした。入社して1年ほど経って初めて学会発表した時、聞いていた方がほめていたと上司から伝えられたのがうれしくて、やっていることは間違っていなかったのかなと、ちょっと自信が得られたのが大きな一歩になったと思っています。

マルチセンシング情報を用いた
位置推定で作業効率と安全性を向上

本学では、どんな研究に取り組んでいるのですか。

現在、取り組んでいるのは、マルチセンシング情報を用いる屋内における位置推定です。位置推定の技術としては、カーナビなどで利用されているGPSの電波がよく知られていますが、屋内では受信しにくくなります。屋内では、Wi-Fiなどの無線LANが利用されることが多いのですが、これらの電波は壁や天井に反射した波が複雑に重なり合うので、電波の強弱だけで正確な位置を推定するのは困難です。そこで、現在普及が進むIoTを活用し、照度や温度、湿度といったセンシング情報を獲得します。それらは、位置に依存するので、屋内で位置推定が可能になる手法を研究し、その有効性を実験で検証しているところです。

無線通信の技術をどのように学ぶのですか。

無線機の特性を評価するためには、無線伝搬路を模擬するシミュレータを使いますが、これは高価で気軽に使えません。また、電波は目視できないので、学び始めの学生にとってイメージしにくいものになりがちです。そこで、私の研究室では、安価なマイコンボードを使って無線伝搬路を模擬し、オシロスコープによって波形を見る実験を行います。また、RF通信トレーナなどの無線信号発生器で発生させた信号をスペクトラムアナライザで周波数を検出し、周波数ホッピング伝送する実験にも取り組んでいます。

どのように応用されていく技術なのですか。

位置推定に関しては、Society5.0(仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会)や、デジタルツイン(現実の世界から収集した様々なデータをコンピュータ上で再現する技術)といった、バーチャル空間でリアルな再現を行い、そのシミュレーション結果を実際の生活にも役立てるという技術革新を起こすためのキーとなる技術の1つではないかと考えています。例えば、建設工事においては、バーチャル空間で効率性の高い作業手順を求めるシミュレーションを行い、その結果を実際の現場で活かすことができるはずです。そんな場面に、屋内での位置推定技術は大いに活用できると考えています。

内なる好奇心に従って関心を深め
知的探究の喜びを得られる経験を

本学で学ぶ学生に望むこととは。

身の回りには、スマホなど便利な機器にあふれていて、知りたい情報をすぐに得ることができます。その便利さのおかげで、原理や仕組みを知らないままで終えてしまうことが多々あると感じています。学生の皆さんには、いろいろな事象に好奇心を持ち、考えを深めていく習慣をつけて欲しいと願っています。インターネット検索で様々な記事を閲覧することができますが、すべてを鵜呑みにせず、真理を見極めようという姿勢を大事にして欲しいですね。

進路に悩む学生にアドバイスを。

私自身、工学部で通信技術を教える立場になるとは、想像もしていませんでした。ここまでの道程を振り返ってみると、積極的に吸収してきた知識や情報が本当にたくさんあったと感じています。その学びの中で、昨日分からなかったことが、今日理解できるようになってうれしいという単純な喜びこそが、前へ進む原動力になったと思います。世の中には、すぐに答えが得られるものばかりではありません。時間をかけて難解な問題に取り組むことで身につくことがたくさんあります。皆さんにも、多くの困難や経験から学び、その上で自分らしい道を切り拓いていって欲しいと願っています。

COLUMN

わたしと

筋トレ

「相変わらずが一番好いな。あんまり相変るものだから」(夏目漱石「それから」より)

物理学では、数式等を用いて多くの自然現象が説明されます。学生時代、セミナーのときに先生からパウリの排他律のことを「受け入れるしかない」と説明されたときに、(神が決めたこととして受け入れればそれ以上悩まなくて済むわけですか) 神の存在を信じる心境が腑に落ちました。私自身は特定の宗教の信者ではありませんが、変えられないものを受け入れるために信仰するのではないでしょうか。自分でコントロールできないことが起きても、誰からも変えられないものを持っていれば、心を落ち着かせることはできます。100kgのバーベルはいつも100kgです。裏切られたり失ったりしても、バーベルやダンベルを持ち上げれば変わらぬ重さを感じ、変わらぬ筋肉を確認できます。筋肉は誰からも奪われることはありません。一度得られた筋肉はその後衰えても、トレーニングを再開すればマッスルメモリーによってすぐに回復します。「筋肉は裏切らない」は名言です。