東北工業大学

ライフデザイン学部

産業デザイン学科

堀江 政広教授

Horie Masahiro

PROFILE

2007年3月、多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程を修了。2013年3月に東北大学大学院情報科学研究科博士後期課程を修了し、博士(情報科学)の学位を取得。本学には、2008年4月にライフデザイン学部クリエイティブデザイン学科の講師として着任し、2012年に准教授に就任。2016年、ライフデザイン学部産業デザイン学科(2020年4月に名称変更)の教授となり現在に至る。

担当科目
アイデア基礎および同演習Ⅰ・Ⅱ
メディア論
情報デザイン論
デザイン論Ⅰ・Ⅲ
デザイン計 画および同実習B・C
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME社会にあふれる情報にカタチを与えて
人の和を豊かに育むデザインの力

THEME社会にあふれる
情報にカタチを与えて
人の和を豊かに育む
デザインの力

豊富な社会経験と学びを積み重ね、社会に散らばる情報を多様なメディアを介して収集・整理し、分かりやすい形に具現化する「情報デザイン」の研究を追求してきた堀江先生。その手法は、街に出て聞き取りやサンプリングを行い、実感をともなう答えを模索するスタイルから“歩く研究室”と称しています。人のコミュニケーションに関わりが深い情報デザインとはどのようなものか詳しく聞きました。

企業のプロダクトデザインとは違う
新たなデザインの可能性との出会い

デザインへの関心が芽生えたのはいつですか。

幼少期は、ヒーローやロボットを空想しながら描くことが好きでした。また、工作も得意で、牛乳パックなど身の回りのものを使って、宇宙船やメカなどのおもちゃを手作りしていました。プロのデザインに初めて触れた記憶があるのは、小学5年生の時。地域の図書館で読んだ自動車の雑誌に、トヨタMR2のデザインスケッチが載っていたのを見て、それがとてもかっこよく目に映り、いつまでも強く印象に残りました。

企業での経験も豊富だそうですね。

市販の履歴書ではスペースが間に合わなくなるほど書くことが多くて…。専門学校で自動車デザインを学んだのですが、卒業後、歯科医療機器の老舗メーカーでプロダクトデザインの経験を得ました。そんな中、多摩美術大学美術学部二部デザイン科の学生による制作展を見る機会があり、そこで情報デザイン、当時は“コトのデザイン”と呼ばれる分野に触れ、進学するきっかけになりました。

社会人学生の多忙な日々を過ごし
紆余曲折を経ながら研究者の高みへ

どんな学びの道のりを経たんですか。

企業で夕方5時まで勤めた後、大学で授業を受け、家に帰ってから午前3時まで課題に取り組む毎日を過ごしていました。今思うと身体的につらい生活だったと思うんですが、当時は充実感に満ちていました。多摩美術大学に情報デザイン学科を開設した立役者である須永剛司先生に師事できたことは、情報デザインに関する最前線の学びと仕事の場が得られ、良き修行時代となったと思っています。プロダクトデザインとは逆のアプローチで、目には見えない情報をいかにカタチにするかを追求する情報デザインが、社会で重きを増していく時代の潮流も感じていました。4年生の時、ある先生から大学院への誘いがあったんですが、私としては学びを社会で実践したいと考えていたので、それが達成できた後に進学したいと伝えました。携帯電話などのインターフェイスデザインの経験を重ねた後、2004年に多摩美大情報デザイン科の演習講師に就きました。そこで恩師から諭され、2005年に同大の大学院に進学。この院生時代には、須永先生が獲得したCREST(戦略的創造研究推進事業)の「情報デザインによる市民芸術創出プラットフォームの構築」のチームに参加することができ、同分野の優秀な研究者たちと交流できる貴重な機会を得られました。

博士号取得の過程で得たものとは。

修士課程と大きな研究プロジェクトの経験が学究の道へ進む糧となり、本学のライフデザイン学部クリエイティブデザイン学科で教壇に立ちながら、東北大学情報科学研究科のメディア文化論研究室に籍を置き、博士号取得を目指しました。メディア文化論研究室は、一般の方と一緒に様々な活動を行いながら、人とメディアとの関わり方を研究しており、ここで学んだことは私にとって大切な指針になっています。人は皆、友好を望んでいるはずなんですが、その反面、自分のことは誰も分かってくれないという鬱憤も持っています。この問題の解決を目指し、人のコミュニケーションにとって最善の方法を得るためのデザインを追求しています。

社会における意義と価値を求めて
学生が目指すべきデザイン研究とは

学生が研究室で取り組んでいるのは。

この研究室は、スマートフォンのアプリや製品を開発することがゴールではありません。学生には、社会的な価値があれば、どんな題材でも良いと伝えています。まずはテーブルを囲んで考え、その構想を元に作成したプロトタイプを携えて外に出て、これはいいな、これはおかしいなと、たくさんの気づきを得ることを大切にしています。その上で、最適なデザインは何かを考察します。その好例である「子育て中のパパを対象とした対話型ワークショップ」のデザインは、子育てに関するお題カードを使って対話の場を作る仕組みですが、カードという手法を選び取った学生たちには強い確信があったようです。

研究室の門戸を叩く上での心構えとは。

自分が大事にしているものをちゃんと持っていて、それを秘め過ぎないで欲しいですね。趣味や嗜好を大っぴらにするのは恥ずかしいかもしれませんが、それが自分らしさという他人には無い強みになります。社会的に意義のあることに取り組むのは、表向きは誰かの要望に合わせているように見えますが、自分がやってみたいということを芯に据えてもらいたいと考えています。個性とは、自分の内からにじみ出るもの。確かな自分らしさを持っている人が成す仕事には、自然と個性が表れるはずですから。

COLUMN

わたしと

アニメ

自らの価値観で選んだ「好き」を新たな可能性に。

本学では2022年4月よりアニメに関する2つの講義が始まりました。私はこの授業を楽しく聴講しています。小学生の頃からアニメ誌を購読するほど好きでしたが、当時はアニメファンであることを同級生にからかわれていました。2008年にスタジオぴえろの創業者の布川ゆうじ氏とお会いする機会があり、ぴえろが最初に手がけた「ニルスのふしぎな旅」で盛り上がりました。「小学3年生の時に観た第1話がつまらなかったが、第2話で感動してそれから見続けた」と伝えると、「第2話のガンの群れの旅立つシーンにセル画を大量に使いたいため、第1話の枚数を減らした」とうれしそうに話されました。自分自身の価値観を大事にしたいので、世間での評価で観るアニメを決めていません。これは他の趣味についても同様です。興味・関心を持ったらやり始めて、それがやがて趣味となり、いくつかが仕事に繋がっています。「いつか」ではなく、思い立ったら「今」から始めます。