東北工業大学

建築学部

建築学科

福屋 粧子教授

Fukuya Syoko

PROFILE

1998年に東京大学で修士(工学)の学位を取得。翌年、妹島和世氏と西沢立衛氏による建築ユニット「SANAA(サナー)」に所属し、数々のプロジェクトを担当。2006年から3年、慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科の助手を務めた後、2010年に本学工学部(現:建築学部)建築学科の講師に就任。准教授を経て、2022年から教授として教鞭を振るう。AL建築設計事務所の共同代表。

担当科目
建設設計Ⅳ・Ⅴ・Ⅵ・Ⅶ
近代建築史
建設意匠 特論(大学院)
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME人の印象や行動に影響を与える形を描き
新しい可能性を生む建築空間の設計

THEME人の印象や行動に
影響を与える形を描き
新しい可能性を生む
建築空間の設計

綿密な実地調査やヒアリングに基づき、社会に開かれた建築設計や空間デザインを手がける福屋先生。研究室では、学生同士お互いのアイデアを出し合いながら設計の細部をブラッシュアップしていき、建築の完成まで携わるプロセスを大切にしています。また、東日本大震災からの復興まちづくりにも精力的に参画。石巻市牡鹿地区での高台移転など、被災地に人々の営みを取り戻す取り組みに尽力しています。

自分の中で思い描く構想を形にすることで
確かな手応えを得られる建築の醍醐味

建築の学びに進むきっかけは。

実家が設計事務所を経営していたので、建築に関する様々な資料に触れる機会がたくさんありましたが、高校で私の興味を大いに掻き立てられる化学の先生と出会ったことにより、大学では化学を専攻しました。2年生になった時、自分の研究成果と実際の使用者との間に大きな隔たりがあると感じ、建築なら自分の発想がダイレクトに形になってそのまま届けられると思うようになり、建築学科へ転向を決めました。

研究職に就いたのは。

慶應義塾大学で教壇に立っていた妹島和世さんや隈研吾さんが助手を募集していると聞き、そのお二人の下にいたら面白い設計授業ができるのではないかと思ったのが最初のきっかけです。自身で立ち上げた設計事務所の業務をこなしながら大学に勤めていた3年間、研究室の学生たちと一緒にたくさんのコンペに参加し、とても大きなやりがいが得られました。そして、意欲ある学生たちと面白いプロジェクトにもっと取り組んでいきたいと思ったのが、本学に来た理由です。

建築の完成まで携わるプロセスをたどり
図面に引く1本の線の重みを知る学びを

研究室で取り組む建築デザインとは。

大学に隣接する、八木山ベニーランド・エントランスのデザインや地下鉄駅広場のデザイン、学内のスペース改修、復興のための民宿のリノベーションデザインなどです。例えば、八木山キャンパスの5号館1階には、かつて女子学生のみ利用できるラウンジスペースがありました。それを、男女誰でも入りやすい場所に作り変えようと学生たちで着手しました。まずは、キーワードとアイデアを練り、学生たちが具体的な意見を元にスケッチを描き、CGに起こしました。教務学生課とも話し合いを重ねてセルフビルド(学生による製作)も行って、2019年12月に完成したのが「daberiba(ダベリバ)」です。この学科に在籍する学生は建築図面の描き方を学びますが、その図面を元に建築された建物が実際に使われる姿を見る機会はありません。私の研究室で実践したいのは、自分たちが構想した美しいものを形にし、利用されていくプロセスを学生と一緒に探求すること。そういう意味で、私は「建築デザインの実践」という言葉を使っています。

学生に最も学んで欲しいのは。

図面の持つ力です。私自身、建築事務所でデザインしているので、図面を作成した後も建築現場に関わり、引き渡しまで立ち会います。学生にも、自分が描いた図面の空間の出来上がりと対面する経験を得て欲しい。それによって、図面を引く線の重みが変わるはずです。ちょっと曲がった線を描いてしまったら、大工さんはその線を作ってしまうかもしれません。線の重みを学生のうちに理解して欲しいのです。残念ながら、コロナ禍でこのようなプロセスを体験する機会が作りづらいですが、2021年からは、仙台市荒浜地区でバーベキュー農園を造る事業者と一緒に設計に取り組んでいます。

将来、建築を仕事にする上で大切なこととは。

環境や目に見える条件と「聞き取る力」です。卒業生の話で印象的だったのが、民宿の改装のために漁師さんから直接いろいろな要望を耳にしたことで、初めて設計とは何か、自分が何のために建築デザインを学んでいるか自覚できたそうです。その体験が、将来建築設計に携わる際、真摯に向き合う姿勢につながるのだと思います。

人の思いや世界の美に触れて
美しさとビジョンを形にできる建築人に

東日本大震災が与えた影響とは。

東日本大震災は、建築を生業としている者として目の覚めるような災害でした。津波が何もかも奪っていった土地で、人はどのようにして生きていくべきかという根源的な問いに立ち戻って建築を考えました。建築家たちで復興支援に携わる「アーキエイド」を立ち上げましたが、それまで漁村に行ったことはありません。住民の方の話から漁村の暮らしを学び、高台移転について一緒に考えるという、学生にとってもとてもハードな3年だったと感じています。

学部の学生に求めるものは何ですか。

小川さんの「茅」のように※、自分が美しいと思う固有の美を、たくさん探してたくさん見つけて欲しいです。建築学部は、美しさや素敵さをどのように実現していくかを学ぶ場です。何を作ったらいいか、どんな風景が美しく快適なのか分からなければ、目標を失ってしまいます。建物・プロダクト・庭・書道でも生花でも、何でもいい。旅や本や授業で美しさにたくさん触れ、美を実現するハードさも経験しながら、建築の学びの中でワクワクするような経験を得て欲しいと願っています。

COLUMN

わたしと

映画

映画は建築設計のアイデアの宝庫

学生時代、音楽・アート・クラブなど、さまざまなジャンルの文化に触れましたが、今でも私の建築のアイデアのもとになっているのは、映画です。映画の背後には、さまざまな仕掛けがあります。映画は、音楽で観客をひきこみ、ビジュアルで都市空間や主人公の心理を表現し、ストーリーの力で、観客をあっと驚く結末まで連れて行きます。まさに建築を訪れた時の体験に近いのではないでしょうか。
映画は、娯楽と捉えられがちですが、現代社会をあらわす鋭いツールでもあります。例えば、スラヴォイ・ジジェクというスロヴェニアの哲学者は、著作「斜めから見る⸻大衆文化を通してラカン理論へ 」で、ハリウッドの商業映画であるヒッチコック作品の分析を通して、映画にひそむ精神分析理論を解説しています。私のおすすめは、スタンリー・キューブリックの映画です。みなさんもぜひ、自分のお気に入りの映画の魅力を、建築デザインや言葉にしてみてください。