東北工業大学

工学部

都市マネジメント学科

権 永哲准教授

Kwon Youngcheul

PROFILE

2005年に東北大学で博士(工学)の学位を取得し、同年4月に独立行政法人港湾空港技術研究所のJSPS特別研究員に就任。2006年に帰国し、韓国交通大学校工科大学土木工学科の研究教授として教鞭を執る。2008年から韓国建設技術研究院地盤研究室研究員、2010年から韓国KCU大学都市インフラ工学部建設システム工学科副教授の職を経た後、日本へ戻り2017年から本学で学生の指導に当たっている。

担当科目
環境問題とエコロジー
地球環境科学基礎
土壌環境工学
緑地環境工学
資源循環とライフサイクルアセスメント
基礎地盤工学
応用地盤工学
都市工学実験Ⅰ「土質実験」
都市工学デザイン「土と基礎」
地盤工学総論 (大学院)
土質工学特論(大学院)
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME高い精度を追求する実験装置の開発・改良で
粘土の圧密現象による地盤沈下を予測

THEME高い精度を追求する
実験装置の開発・改良で
粘土の圧密現象による
地盤沈下を予測

建築物の基礎を支える地盤は、その安全性に大きく関わります。自然災害などによって引き起こされる地盤沈下や液状化などを未然に防ぐため、地盤を測定して評価するのが地盤工学の研究です。権先生の研究室では、地盤の構成要素の一つである粘土の「圧密」という現象をテーマに、沈下の予測や早期に止める方法を模索する研究を行っています。そこには、社会に貢献する学問を究める誇りと強い使命感が根底にあるようです。

地震による液状化現象に関心が高まり
新たな学究の地を求めて韓国から仙台へ

仙台の大学に進学した理由とは。

韓国の大学では、土木工学の様々な分野を学んでいたのですが、その中で、地震の影響を受けた土がどう動くのか、特に液状化という現象に興味が高まっていきました。そこで、地盤工学の専門家である東北大学の風間基樹先生の存在を知り、何度かコンタクトを取った後、留学を決めました。実は、韓国ではあまり大きな地震は発生しないので、指導する先生の配慮で学位論文では液状化をメインのテーマにしませんでしたが、軟弱地盤に関する大きな枠組みで、学びの方向性はそう変わっていないと思ってい
ます。

韓国での研究職を経て、日本に戻ったのはなぜですか。

他の先生にもそのような質問をされたことがあり、そういえばなぜなんだろうと自問したんですが…博士課程で学んでいた頃は、海外での生活や経済面で苦しんだこともあって良い思い出があまりないんですが、帰国してから仙台で穏やかな暮らしを営んでみたいという願望が芽生えたんです。でも、まさか本当に実現するとは思ってもみませんでしたが。

建設立地の地盤を研究室で再現して
AIを活用した解析ツールで考察

地盤工学とはどんな学問領域なんですか。

地盤工学は、力学における一つの分野なんですが、その対象となる材料が“土”になります。土質力学とも呼びますが、土は遠目からでは単なる一つの塊のようですが、詳細に見ると小さな粒の集合体であることが分かり、粒と粒の間には空間ができています。自然環境においては、その空間に水が入り込んでいる場合がほとんどです。つまり、土粒子と液体が混合している非常に複雑な状態となっており、その土粒子の種類や構成内容を鑑みながら、大きな水圧が発生した際にどのような変化を見せるかを実験で分析するのがこの研究分野です。

どのような方法で実験と分析を行うのですか。

研究の手法は様々ありますが、実際に現場で試料を採取して実験する方法が一つ。これだと、深く掘って得た土のサンプルを崩さないように研究室へ運び、実験しやすいように成型するという大変な労力が求められます。そこで、この研究室では、現場に近い土の状態を人工的に装置の内部で再現する方法を採用しています。私は、土の内部でどのような変化が起きているかを目視で確認したいと思い、学位論文の作成時に独自の「圧密実験装置」を開発しました。これは、注射器のような形状の5台の容器に粘土を20mmずつ入れ、チューブを通して水を流入させる仕組みになっています。各容器には制御装置と圧力計を設置し、内部の水圧の変化や沈下量のデータを採取し、それを集計して分析を行っています。

ソフトウェアの開発も行っているのですか。

長ければ10日間もかかる長期間の実験もあるので、機器の制御や計測を行うためのプログラムを作成することも必要となります。大学4年生の時、フォートラン(1954年にIBMによって考案されたPCにおける世界最初の高水準言語)を使って、斜面の安定に関するコードを作成したことがあり、その面白さに目覚めました。韓国建設技術研究院地盤研究室では、トンネルの崩壊を未然に防ぐ目的の下、ニューラルネットワークを活用した事故予測の研究に携わりました。本学でも、AI技術(マシンラーニング技術)の教育に力を入れていますが、地盤工学の分野においても有効で、建設立地のボーリング調査を行う際、採取にふさわしい場所をピンポイントで推定し、精度の高い分析を可能にする技術だと考えています。

自ら確信できる答えが得られるまで
地道で孤独な道のりを進む研究者に

研究で得られる成果とは。

研究をしている最中は、学会などでの評価や明確な結果が得られるまで、孤独を感じることが度々あるでしょう。自分のやっていることが、本当に世の中のためになるのか不安に思うかもしれません。私は、安全な建造物を造ることに使命を持ち、研究の成果で建設現場を支えることにやりがいを感じています。

研究者を目指す学生にアドバイスを。

研究の過程はちょっと地味に感じるかもしれませんが、その命題とすべきは新たな発見で、それを成すのは非常に困難です。ですから、研究者を目指す学生の皆さんにはたくさん論文を読んで知識を蓄え、今、世の中がどのように動いているかつぶさに観察して欲しいと思っています。太古から人類は、道具を発展させ続けてきた歴史を歩んできました。研究のテーマとなるものは、意外と身近にあふれています。土木工学は実用性の高い分野なので、自分たちが情熱を注いだ研究が、少しでも社会の役に立てるようなものができたと感じられれば、地道に努力を重ねた意味を見出せると思います。

COLUMN

わたしと

長年にわたる土で結ばれた絆

土って何ですかと聞かれたら、まだどう返せばいいのかわかりません。学生さんはいつも難しいと言っていますが、土を勉強し、また研究し続けてきた私にもたくさんのハードルがあり正直難しいです。だからこそ、数値解析や実験をうまく成し遂げる方が羨ましい限りですが、大学4年生の頃からこの道に入り、もう20年以上の年月が流れてきている今、土で結ばれたたくさんの絆に感謝しています。日本、それから韓国の恩師、先輩・後輩、同僚、研究室の卒業生などなど。
特に高度な数学でないと経験式の多い地盤工学を理解しようがないと、いつもおっしゃっていた亡き恩師(韓国)には感謝を申し上げたいと思います。数学はまだまだ遠いです、先生。
最後に、今日も研究室にはこの難しい材料である土を理解しようと頑張っている4年生がいます。学生が大きく成長し、また、様々な形でこの世に貢献できる土木エンジニアになれるよう使命感を持って指導していきたいと思います。それも、土が結んでくれた大事な絆ですから。