東北工業大学

工学部

情報通信工学科

佐藤 篤教授

Sato Atsushi

PROFILE

1995年に本学大学院工学研究科修士課程を修了後、日本電気株式会社に就職。退職後、1999年に同大大学院にて博士(工学)の学位を取得。同年、理化学研究所フォトダイナミクス研究センターに入所。2001年から本学工学部環境情報工学科の助手に就き、2004年に講師、2008年に准教授を就任。2016年に情報通信工学科に異動。2020年に教授に昇任し、現在に至る。

担当科目
電磁気学Ⅱ
電気回路入門
情報通信工学実 験Ⅱ・Ⅲ
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEMEセンシングシステムやIoT分野で発展を続ける
レーザー技術の新たな活用領域を開拓

THEMEセンシングシステムや
IoT分野で発展を続ける
レーザー技術の
新たな活用領域を開拓

光の特性を利用した生体計測や光通信など、目覚ましい進歩で活躍の幅を広げているレーザー技術。佐藤先生は、幼い頃の憧れを発端にその美しさと可能性に魅了されて以来、研究に情熱を注いできました。そして今、対象物までの距離をレーザー光によって瞬時に計測できるLIDAR(ライダー)をはじめとする先進的な研究に邁進。光の先端技術が描く新たな未来を見据えています。

空想の産物だと思っていた
レーザー技術が
自らの手で生み出せる手応えを実感

レーザー技術に関心を持ったのはいつですか。

レーザーって、私にとって何よりもカッコイイ事象なんです。子どもの頃に見ていたアニメ番組で、ロボットがレーザービームを発射するシーンに感動し、これはどんな技術なんだろうと興味を持ったのが出発点です。そんな思いを抱きつつ、本学で学んでいた4年生の時、研究室でレーザー発生装置と出会い、想像上の技術だと思っていたものが、自分の手で作ることができると分かって感激しました。環境計測用のLIDAR(ライダー)には、何kmも先に光を飛ばすことができる高出力のレーザー装置が搭載されており、近くにある物体に照射するとバチバチと音を立てて焼け跡を作るのを見て、これこそ自分が憧れていたレーザービームだと思いました。そこから様々なタイプのレーザーの研究を続けてきており、応用領域を広げることに努めています。子どもの頃の憧れや感動が原動力になっていることは確かで、今でも、実験でレーザーを出力する度に、ワクワクする気持ちは変わっていないですね。

何度も失敗を繰り返しながら
未知の領域にチャレンジする研究を

主にどのような研究を行っているのですか。

この研究室では、レーザー発生装置の設計に取り組み、光を出力することがゴールになります。しかし、そう容易に成功することはなく、試行錯誤して取り組むプロセスが重要な学びになります。エネルギー源となる半導体レーザーの光を小さく絞り、様々な結晶に吸収させることで目標とする波長の色のレーザーを作りだします。この結晶の中に不純物としてわずかに含まれる発光イオンが肝心で、その微細な割合によって結果が大きく変わります。そのために、理論に基づいた緻密な計算を行い、いくつも現れた可能性を一つひとつ潰していきながら、理想的な光になるまで改良を続けます。半年、1年かかるのがざらで、難しいレーザーでは、基礎実験の段階で卒業していった学生もいました。

LIDARに関する研究とは。

自動運転機能を持つ車や高性能なロボット掃除機などには、レーザーで空間把握やマッピングなどを行うレーダーシステムであるLiDARが組み込まれています。これは環境計測にも大いに活用されている技術で、風向・風速を3次元で捉えたり、温室効果をもたらす二酸化炭素の濃度を測ったりするために使われています。環境計測用のLIDARは広範囲にわたる調査を行うため、光を増幅させて強力なものにすることが求められるのですが、レーザー出力の増幅率はある程度のラインで飽和してしまうため、その原因を考え、解決することが研究の命題となっています。

新たに取り組んでいるテーマはありますか。

ここ2、3年は、医療や美容の現場で実用化されている赤色レーザーのメンテナンスフリー化を目指しています。この赤色レーザー技術は紫外線領域に転用できることも分かっており、レーザー加工用機器として活用できるので、新たな市場開拓につながると期待しています。
また、非常に広い波長範囲にわたって位相の揃った強い光を出す広帯域パルス光源の「スーパーコンティニウム光」の研究にも着手し、ゼミの4年生が基礎実験に取り組んでいるところです。レーザーは、結晶によって出力できる光の色が決まり必ず単色となるので、すべての波長をカバーすることはできません。出力に成功すれば、結晶に由来しない波長の光を取り出すことができるようになるので、より多彩な用途に役立つでしょう。

学生たちが学びを深める機会を増やし
自ら考えて行動する意欲を育成

このゼミでは学外交流が盛んだと聞きましたが。

学外との交流機会を多く設けており、3年生の後期に入ると他大学と合同ゼミを行うのが慣例になっています。近年はオンライン上で、東京や徳島など遠隔地の大学と共に、学生による研究発表を行っています。他大学の先生たちが講評するので、広い専門分野の学びを得る絶好のチャンスになっています。また、産学連携の研究活動も推し進めており、宮城県内の大学や高専などが地域企業と技術連携を図る「KCみやぎ推進ネットワーク」に参画しています。このゼミの学生が取り組む研究プロジェクトの採択
が決定しましたので、今後、企業の担当者と一緒に研究会を開いたり、この研究室の実験データを紹介したりしていく予定です。

学生に求めるものは何ですか。

やはり、自分の考えを元に行動する姿勢が大切ではないかと考えます。誰かの指示に何の疑問を持たず実行するのではなく、課題に取り組む前に自分がまず何をすべきか思考を巡らせることが、自らの学びを深めることにつながると思います。

COLUMN

わたしと

研究活動

研究で得られるものは研究成果だけではない

大学の教員をしていると、授業や学会発表などで大勢の人の前で話をすることがよくあります。 しかし、私は子供の頃から引っ込み思案で、とても人前で話ができるような性格ではありません。実は今でも仕事以外では引っ込み思案のままです。つまり、性格は変わっていないのに、仕事では授業や発表ができているということです。これは、どういうことでしょう?
私の仮説はこうです。人間は、元々の性格というのは一生変わらなくて、その後の経験などで何かが付け足されていくだけではないかと。そう考えると苦手の克服も気が楽で、付け足せればプラス、付け足せなくてもプラスマイナスゼロだし、 自分を変える必要もありません。私の場合、大学院生時代から始まった研究活動は、苦手なことが埋もれるほど多くのものを私に付け足してくれました。学生の皆さんには、ぜひ大学院での本格的な研究活動をお勧めしたいのと、授業中の私は実は後から付け足された佐藤2号だということをお伝えしておきたいです。