東北工業大学

ライフデザイン学部

経営コミュニケーション学科

二瀬 由理准教授

Ninose Yuri

PROFILE

1999年、九州大学にて博士(文学)の学位を取得。2002年4月から福岡大学工学部電子情報工学科の助手に、2007年4月から助教として勤める。2009年4月~2011年9月、新潟国際情報大学情報文化学部情報システム学科の准教授として教鞭を執った後、2011年10月から東北工業大学ライフデザイン学部経営コミュニケーション学科の准教授に就任し、現在に至る。

担当科目
心理学入門
統計学入門
キャリアプランニング
映像心理学
メンタルヘルスケア
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME認知の違いにともなう行動の変化を
心理実験によるデータ分析で解明

THEME認知の違いにともなう
行動の変化を
心理実験による
データ分析で解明

視覚や聴覚、思考、記憶といった人間の情報処理過程を含む“心の働き”を理解する心理学の一分野「認知心理学」を専門とする二瀬先生。心理実験や質問紙調査などによってデータを収集・分析することで、人の心の働きや行動の理由を解き明かします。同じ漢字を長い間見続けると、形態が崩れたりどんな漢字なのか分からなくなったりする現象の不思議にも、独自のアプローチで迫っています。

二瀬研究室の様子

人の心に迫る学問の道を模索しながら
紆余曲折を経て巡り合った恩師

心理学に進むきっかけは何ですか。

高校生の頃、犯罪心理学に興味があって、刑務所の所長になりたいという夢がありました。そのために大学で心理学を学びたいと思い、苦手な文系科目を勉強して九州大学を受験し、一年浪人して文学部に入学しました。大学では、心理学専攻の10人の枠に入りたかったので一年半みっちりと勉強したんですが、その頃から将来の方向性が変わっていき、犯罪者の矯正に関わる仕事に就きたいと考え、国家公務員の受験を考えるようになりました。この頃、社会学か心理学か、どちらの研究室にするか悩んでいた
ところ、教養部の先生のアドバイスで、比較的時間にゆとりができる心理学研究室を選び、試験勉強に打ち込みました。公務員試験には合格したものの省庁に採用されず、進路に迷っていたところ、再び教養部の先生に相談してみたら、新たに心理学の教授が就任する大学院で学ぶことを勧められ、大学院入試を受けました。準備不足で不合格になり、研究生として一年を過ごすことになったのですが、その時から教えを受けたのが行場次朗先生(現:尚絅学院大学特任教授・東北大学名誉教授、元日本認知心理学会理事長)で、自分にとって本当にありがたい出会いとなりました。

認知能力の低下が引き起こす現象を
念入りな計画下の実験で追求

行場先生の下でどんな研究に携わっていたのですか。

ある漢字を持続的に注視したり、あるいは繰り返し見続けていると、形態が崩れて見えたり、どんな漢字だったか分からなくなってしまったりする現象がありますが、これは「漢字のゲシュタルト崩壊現象」と呼ばれています。行場先生の経験を聞いたのですが、私にはそんな現象が起こった覚えもなく、本当にそのようなことが起きているのか確かめたいと思って実験に取りかかったのが研究のスタートになりました。
この心理実験では、例えば「貯」という漢字に対して、構造が似ている「訴」や、一部同じ部首を含む「賃」といった漢字を集め、10パターンを用意しました。その際、使用頻度や画数などが同程度のものであることに留意し、資料とにらめっこしながら3カ月かけて準備を行いました。被験者には、まず読む練習をしてもらい、漢字を25秒間見た後と1秒間見た後で、どのくらい反応時間に差があるのかを調べました。実験では、長時間(25秒間)、「貯」という漢字を注視した後、「貯」や「訴」という漢字を見ると認知反応時間が遅れることが分かりました。被験者本人は遅れているという感覚は無く、私のように崩れたと感じない人もいました。全体的な統計処理で解析すると、やはり多くの人が認知反応時間の遅れが出ていることが明らかになりました。その一方で、部首の一部が同じ「賃」や読みだけが同じ「著」などでは遅延は起こらないことも実験により判明しました。またこの現象は、幾何学図形を組み
合わせたものでも起こることが分かっています。

実験を行う上で重要な要素は何ですか。

念入りな準備が肝心で、いつも実験計画で8割の注力が求められます。心理実験で卒論を書く学生に言っていることですが、適当にやって結果が出ないのは当たり前で、準備を怠ると結果を読むことが困難になります。ある程度予測を立てながら、結果を阻害するあらゆる要素を想定し、準備万端で臨むことが肝心です。そして、実験をする側が期待を持って被験者を見てしまうと、それに応えようとする人間の性質があるので、心理実験の際には、なるべく被験者の目につかないように気を付けています。
また、心理学の研究を行う上で、データをどう解析するのかがとても重要です。データが持つ意味を理解するためにも、統計学の知識も必要になります。

ささいな疑問や興味をきっかけに
大学での学びに情熱を注げる意欲を

現在取り組んでいることは何ですか。

認知心理学の学びで、どのように社会へ貢献できるか考えているところです。この学科では、経済学の金井辰郎先生やコミュニケーション学の宮曽根美香先生と共に、「幸福」とはどのようなものかというテーマで共同研究を進めています。その最中、コロナ禍になってしまったので、この困難な状況における幸福感への影響についても調べていこうと考えているところです。

認知心理学を学ぶ学生に求めるものとは。

自分なりに興味を持つことを見つけて、大学でやってみたいというモチベーションを高めて欲しいですね。そのためにも、何のジャンルでもいいので本を読むことを勧めています。実は、「漢字のゲシュタルト崩壊現象」に関しては、夏目漱石の長編小説「門」の中で書かれていることを後に聞いて知りました。昔から何となく知られていた現象が行場先生との対話の中で関心が高まり、研究の出発点になりました。そんな風に、学生の皆さんも熱意を注げる研究テーマを本などから見い出してくれればと思います。

COLUMN

わたしと

卒業生

かつての教え子たちとまた語り合える喜び

「お久しぶりです!」と元気に研究室を訪れてくれる卒業生たちがいます。「長期の休みが取れました」とゼミの時間に来てくれる人、土日に研究室を訪ねてくれる人、仕事終わりに寄ってくれる人、時間もアポイントメントの有無も様々ですが、私にとっては非常に嬉しい瞬間です。さらに、明るく笑顔で現在の仕事やプライベートのことを話してくる様子を見ると、私はこの上なく幸せな気分になります。
2020年3月以降、新型コロナウイルス感染症の蔓延により卒業生にほとんど会えない期間がありました。この間も、LINE、メール、電話等で連絡をくれる人も多くいましたが、やはり会えないことに寂しさを感じました。
今年に入ってから、また卒業生が顔を出してくれる頻度が増えています。卒業した後の学生の皆さんの姿を見守れることは私たち教職員にとっては嬉しいことで。ぜひ、在学生の皆さんは楽しい思い出が多い学生生活を送ってください。そして卒業後にその思い出を共有したくなった時は、大学に遊びに来てください。私たちはいつも皆さんを待っています!