東北工業大学

工学部

環境応用化学科

佐野 哲也准教授

Sano Tetsuya

PROFILE

2002年に横浜国立大学教育人間科学部地球環境課程を卒業後、東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻博士後期課程に進み、2008年3月に博士(環境学)の学位を取得。同年12月から国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所の特別研究員(PD研究員)として土壌に関する研究に携わる。2013年4月から東北工業大学工学部 環境応用化学科で教鞭を執っている。

担当科目
環境問題とエコロジー
地球環境科学基礎
土壌環境工学
緑地環境工学
資源循環とライフサイクルアセスメント
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME森林の植物や土壌への実地調査を重ねて
環境保全を考えながら経済効果も評価

THEME森林の植物や土壌への
実地調査を重ねて
環境保全を考えながら
経済効果も評価

森林を構成している木々を主体に、そこに息づく動植物や微生物、土壌や地形などの分析、評価を行い、生物と環境の相互関係を解き明かす「森林生態学」。佐野先生は、自身が森の中へ分け入り、何度も綿密な調査を繰り返すことで森の変遷をつぶさに見つめています。さらに、環境やエネルギー問題の解決、SDGsの目標達成のため、環境コストの試算など経済学の学びの融合も推進しています。

地道な森林の実地調査を繰り返して
知識と経験を蓄積していった学びの課程

大学時代はどんな研究をしていたのですか。

かつて、薪や炭を生産するために管理、維持されていた薪炭林(しんたんりん)が、昭和30年代頃から燃料としての需要が無くなり放置されるようになったのですが、その後の森林がどのように変化していくのかを調べました。変化のパターンは環境により変わるので、植物だけでなく土壌や地形なども研究対象になりました。
私の専門が、植物の集団(社会)を調べる群集生態学(Community Ecology)なので、調査対象の森に足を踏み入れ、そこに生息している樹木や草花を一種、一種調べることが重要な研究手段になりました。金曜日のアルバイト終わりに最終電車に乗って山梨県の八ヶ岳山麓に向かい、2日間たっぷりフィールドワークしたら、日曜の最終電車で帰るのが習慣になっていて、この分野の学問を知らない人が見たら、ちょっと変な人間に思われていたかもしれません。でも、自分がいた研究室ではこれが普通の感覚だったので、もっといろいろな場所へ行って、森の成り立ちを調べたいという思いに駆られていました。

身近な自然との触れ合いから始まり
環境課題の先端を目指す研究へ

この学問分野に進むきっかけは何ですか。

子どもの頃、山手にあった祖父母の家に一人で泊まりに行き、森の中に入ってよく遊んでいたので、自然は身近なものだという感覚がありました。小学2年生の時、母に勧められて夏休みの自由研究で押し花の標本を製作したことをきっかけに、中学生になると自発的に取り組むようになっていました。家の外に出れば、田んぼが広がる自然豊かな環境にあったので、形が珍しい草花を見つければその名前を調べることが当たり前になっていました。本格的なラベルやテープなども買うようになって、そうして熱心に集めた押し花の標本を学校に提出したら、先生にとてもほめられたのがうれしかったんでしょうね。そこから、道を歩く時は、下ばかり見るようになりました。そしてこの頃、世間は環境問題への関心が高く、日本全国の大学で環境学科が次々と新設されていたので、生態学も扱う環境学の分野に進もうと思いました。

森林総合研究所で取り組んだ研究はどんなものですか。

森林総合研究所では、林業に関わる試験や研究が主に行われているのですが、私が入所した当時はバイオマス発電に注目していました。私は、バイオマス発電所などの施設から排出される木質燃焼灰を肥料として撒くと、土壌にどんな効果をもたらすかデータ採取を行っていました。この研究を続けていくうちに、二酸化炭素の排出量やコストなどについても考え、最終的に地域にどのような経済効果をもたらすかまで予測することが求められる時代になってきました。環境学の分野は、世の中に新たに生じた課題に即して取り組む姿勢が求められます。京都議定書で温室効果ガスの削減目標が発表されたり、SDGsの目標達成を掲げる企業が増えたりすると、私たちの研究の方向性も時流に応じて変わっていくことが常になっています。

震災後の植林事業にも関わっているんですか。

この研究室では、岩沼市の「千年希望の丘」などの海岸の植栽地で、専門的な観点から継続的なモニタリングに取り組んでいます。これは使命感みたいなものがあって、被災地の慰霊と復興を願う地元の人々が植えた樹木の変遷を記録していき、後世のために残していこうという考えで実践しています。

フィールドワークの楽しみを知り
自らの興味に従って究める醍醐味を

現在取り組んでいることは何ですか。

今、学生と一緒に取り組んでいるのが、経済学分野との融合です。環境や自然のアセスメントと同時に、森林関連産業における経済面でのアセスメントも行い、木質バイオマスのエネルギー利用を推進した場合の環境負荷構造の変化を評価したいと思っています。どのくらいの量の木を伐採し、発電して、炭や灰まで循環して使う場合、どのような経済性や二酸化炭素排出量消減効果があるのか数値で見積もれるようにするのが目的で、産業生態学(Industrial Ecology)という分野のアプローチになります。

この研究室を志望する学生に求めるものとは。

とりあえず、フィールドワークのための体力…でしょうか。そして、自分が好きになれる対象を見つけること。他の人が見たら変に思うくらい、とことん興味を突き詰められる人なら、楽しくやりがいを感じながら打ち込めるでしょうね。さらに、自分が携わっている研究内容が、環境学的にどのような意味を持つのかということを、常に念頭に置いておくことも重要になります。

COLUMN

わたしと

水耕栽培

身の丈にあったサステナビリティ

家で水耕栽培を始めました。引っ越しを機に本格ベランダ菜園を計画していたところ、家人に虫が来るからと鉢数を制限されたため、その埋め合わせです。夢打ち砕かれる前に見ていたYouTubeに感化され百円ショップで揃えた道具で始めました。
植物は必須元素と水と光だけあれば育つというのは、植物栄養生理学の基本。水耕栽培は化学物質の肥効や毒性評価でも行います。今のところ家人の機微にふれておらず、家人は家人で部屋に無数のラピュタを吊るし始めたので大丈夫そうです。
野菜の切れ端を水につけ復活させるリボベジをしています。毎朝収穫したミツバを即席味噌汁に一枚浮かべ、ちょっと得した気分を味わいます。
このちょっと得した気分。木材のエネルギー利用の現場でも大切だと思うことがあります。地域で化石燃料の使用を減らせたとか、新たな交流が生れたとか身の丈に合った部分で良しとしないと持続しないのではと。
長町の八百物屋「まるしん」で一束78円だったよと言われても水をあげ続けます。まるしん産リボミツバに。後は、そこにいるコバエちゃんが家人の目に入らぬことを祈るばかりです。