東北工業大学

工学部

環境応用化学科

多田 美香准教授

Mika Tada

PROFILE

財団法人山形県企業振興公社JST地域結集型共同研究事業研究員、東北大学未来科学技術共同研究センターでの勤務を経て、山形大学大学院理工学研究科論文博士課程を修め、2004年3月に博士(工学)の学位を取得。以後、東北大学の研究機関で経験を重ね、2010年に東北工業大学共通教育センター理数教育部へ。2020年4月から現職に就任。

担当科目
環境応用化学セミナー
人工知能総論(全学)
工業化学概 論
分析化学実験
物理化学実験
錯体化学
生体機能工学 (環境情報工学専攻)
各種研修(環境エネルギー学科)
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME目には見えにくい生命化学反応を見出し
データを積み重ねて生体情報を解析

THEME目には見えにくい
生命化学反応を見出し
データを積み重ねて
生体情報を解析

電子移動がともなう代謝やメラニン色素の合成のような体の中で行われる生命化学反応が、どのように起こり、どのように生命維持に関わっていくか考察している多田先生。疾病やストレス負荷の要因にもなる様々な生命化学反応を可視化するために、医工学によって研究開発が進んでいる各種センサを駆使して生体計測を繰り返し、そのデータを解析する研究に注力しています。

オープンキャンパスでの多田研究室紹介の様子

進学前から抱いていた人体への興味が
医工学の道へ進む原動力に

専門分野に進むきっかけとは。

私は、高校生の頃から医学の分野に強い興味を持っていたのですが、諸々の事情により工学部に進学することになりました。在学当時、医学と工学が融合した“医工学”分野の発展が目覚ましく、同大でも大学院の独立専攻として、医学部・工学部・理学部が連携した新たな研究体制が整えられたことを知り、進学してこの分野の学びに進みたいと考えました。

工学から医工学の領域へ転身した理由は何ですか。

実は、あまり勉強熱心ではなく、大学卒業後は就職を視野に入れていました。でも、学部1年生の時、医学部の学生が中心となって活動している準硬式野球部のマネージャーとして入部し、仲の良い部員の誘いで解剖実習を聴講したことが、自分の中で眠っていた学びの意欲が再燃するきっかけになりました。4年生で所属する研究室を選定する際、前年に受けた講義で、動物実験をしたい学生募集のアナウンスがあったことを思い出し、その先生の下で学べる研究室に決めたことが出発点になりました。

多分野の研究者たちと出会いを重ね
目指すべき道筋の実現へ

どんな環境で学んでいたのですか。

大学4年生で所属した研究室では、無機材料や電気化学の専門家が指導教員でしたが、新たに生体計測の研究に着手するため、医学や薬学の先生、お酒や健康食品などの研究者が行き来する恵まれた環境でした。また、当時は学内に動物実験の専門家がいなかったので、米沢女子短期大学に足を運んで勉強する機会が増え、そこで身につけた技術が、現在に活かされています。そして、短大での先生方との出会いが、大学院を受ける後押しになりました。大学院では医学部での実習を通して、MRIやCTなどの大型医療機器、造影剤を用いた画像診断などを学びました。

研究者として目指す姿とは。

生体計測は、計画通りに進むことが少なく、企業との共同研究は期間が限られているので、休みなく実験や解析に没頭する日々が続きます。そんな世界を垣間見て、頑張らなければという強い意志が育ちました。また、他大学や企業で活躍している女性研究者との交流もモチベーションを高める刺激になっています。何事にも一生懸命で仕事もプライベートも充実している彼女たちのように、若手研究者のロールモデルを目指しています。

学生が取り組んでいる研究テーマは何ですか。

現在、この研究室では学生たちに、皮膚の表面にセンサを当てる非侵襲的(生体を傷つけない)方法で測定に取り組んでもらっています。例えば、弱い光を照射して励起された光(蛍光)を検出するためのセンサを使用しています。体の中で調べたい活性分子種を定め、検出された光の波長から生体情報を考察します。現在のコロナ禍で頻繁に目にするようになったパスルオキシメーターも、血中の酸素飽和度を測定する光計測器の一つです。

さらなる発展が期待される学問分野で
研究に没頭するための準備を

生体計測を研究して得られる成果とは。

健康や美容に関して、活性酸素や悪玉コレステロールなどが関与する酸化ストレスが、昔から話題になっていましたが、メディア等で扱われるようになり、私が取り組んでいた研究がようやく一般的になったことを実感しています。また、以前はあまり注目されていなかった糖化ストレスの測定が健康管理に役立っているという事実を見て、世の中に求められている技術を形にする工学の発展性やすごみも感じています。

研究を進める上での課題は何ですか。

健康管理を行う上で必要な生体計測技術を突き詰める研究を続けていきたいです。目には見えにくい情報を可視化する画期的な手法を考え、理論を完成に導くまで、膨大なコストと時間が求められます。私自身の課題として、研究に集中できる環境を整えねばと思っているところです。この分野の研究は、光計測または磁気共鳴法のいずれかの計測技術を深く追求している研究者が多いようです。私の場合、ものづくりが得意ではないので、初めに磁気共鳴法と医学に関わる生体フリーラジカル反応を学び、その後、酸化ストレスや糖化ストレスに着目した光計測を研究に取り入れました。寄り道しがちな性格を器用貧乏だと評されることがありますが、専門分野の基礎研究を大切にしながら、独創性のある研究テーマを見つけたいと思っています。

COLUMN

わたしの

一冊

自分の仕事に不可欠な電磁気学の学び

電磁気学は、化学と無縁だと感じる学生は少なくありません。この本は、私が学生時代、工学部物質工学科(化学系)の1年生か2年生の講義で使用した教科書。東北工業大学に着任後、電気電子工学科や情報通信工学科の化学を担当することになり、自身の学び直しのために実家から教員室に持ち込みました。化学結合性を理解するためにはクーロンの法則を知らなければ授業は進みません。生命化学反応の1つである酸化還元反応を考える上で電位差を知らなければ反応機構の解明はできません。つまり電磁気学は私の教育研究に不可欠な学問です。
大学時代のほとんどの教科書は手元にありませんが、これは唯一残っていた貴重な本。その理由は、大学4年生から始めた電子スピン共鳴法による生体計測や大学院(生体センシング機能工学専攻)での学びに必要だったから。
学生さん、就職後、いつ・どこで大学の学びが再び必要になるか、20代では想定できないこともあります。ぜひ、専門書や授業ノートは大切にしてほしいと思います。