東北工業大学

ライフデザイン学部

生活デザイン学科

谷本 裕香子講師

Yukako Tanimoto

PROFILE

日本大学卒業後、一級建築士事務所「studioA」で6年勤務。2014~18年に東洋大学ライフデザイン学部人間環境デザイン学科助手、2018~19年に職業能力開発総合大学校非常勤講師、2019年に東洋大学・首都大学東京・昭和薬科大学の非常勤講師を務め、同年、早稲田大学で博士号(人間科学)の学位を取得。同年10月より現職。

担当科目
福祉まちづくり論
福祉住環境
生活学演習
くらしのデザイン実習
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME高齢者や障害者と地域コミュニティをつなげ
街ぐるみで福祉を実現する
建築デザインを目指して

THEME高齢者や障害者と
地域コミュニティをつなげ
街ぐるみで福祉を実現する
建築デザインを目指して

高齢者や障害者など、多様な人々が自分らしく人生を送ることができる生活空間を実現するため、福祉・ユニバーサルデザインの視点による建築デザインを追求している谷本先生。世界各国の先進事例に目を向けながら、地道なデータ採取と実体験による確かな手応えを糧に、未来の福祉環境の理想を描くため日々研究に勤しんでいます。

谷本研究室の様子

介護現場で得られた原動力を胸に
理想の福祉環境を実現する目標へ

現在の研究分野に進むきっかけは何ですか。

子どもの頃、祖父が車いすの生活をしていたことが福祉に興味を持つ始まりになりました。建築のバリアフリーを学びたくて建築学科に進学したのですが、もっと丁寧に人間と空間について考えていきたいと思うようになり、学際的な研究ができる現在の研究分野へ関心が向いていきました。在学中は、障害者自立支援施設や特別養護老人ホームなどでアルバイトをしていたので、その経験によってますます思いは高まりました。

どんな研究を行っているのですか。

私は建築計画が専門分野ですが、建物の使われ方や職員の動線、入居者が主にどんな場所にいるかなどを行動観察によって調査することから着手します。現場で採取した膨大なデータを解析・考察し、次の新設施設の計画に役立てることが目的です。私の場合は、高齢者を中心とした居住空間に着目しており、いかに開かれた施設にしていくかを命題にしています。街の中に元々ある資源を活用しながら地域ぐるみで要介護状態になる人を増やさない仕組みづくりを考えています。

世界の先進的な実例に学びながら
日本の風土に合った仕組みやデザインを

高齢者向け施設はどのような未来に向かっていますか。

最近、地域に高齢者や障害者、子ども等誰もが気軽に過ごせる場所が生まれていて、仙台市若林区の「アンダンチ」は、東京から見学に訪れる人がいるほど注目が高まっています。私は以前、アメリカ・フィラデルフィアのシャノンデール・アット・ヴァレー・フォージというCCRC(高齢者が健康な段階で入居し、終身暮らすことができる生活共同体)を訪ねたことがあるんですが、広大な敷地に数多くの高齢者が居住していて、日本では考えられない大規模なスケール感に驚かされました。ここには娯楽施設も充実していて、ここで暮らすことが人生のステイタスになっているそうです。居住者の中にはまだまだ働くことができる年齢の人も多く、日本でも世代に合わせて住み替えができ、要介護になってから慌てて施設を探すことがないような仕組みができればと思いました。

谷本先生が現在研究しているテーマとは。

現在、高齢者施設におけるユニット単位の空間構成について研究を行っています。数多くの高齢者住環境を手がけた外山義先生が提唱された「個室」によるユニットケアやグループホームの制度化は既に広く一般化しており、これからはもっとバリエーションを増やしていくべきだとも感じています。

福祉の観点による建築デザインについては。

認知症の方に対応したデザインに関しては、私も視察したイギリス・スターリング大学の研究機関が世界的に注目されています。現在、日本でもスターリング大学DSDC(認知症サービス開発センター)が作成した施設デザインのチェックリストにのっとった認証施設が各地で生まれていますが、日本発のデザイン建築がまだ無いことがちょっと残念に感じています。

自らの力で考え、楽しめる人こそが
高い理想に到達できる達成者に

学生に求めるものは何ですか。

自分で考え、学びや研究の中に楽しみを得ようとする姿勢でしょうか。私が大学生の時、集合住宅に関する講座が面白くて、時間を忘れるくらい勉強に没頭したことが、後に設計事務所で働く動機になりました。高齢者に関する分野へ進む確信が得られたのは、尊敬する外山先生の著書に感動したことが発端です。学生には、自分が本当にやってみたいと思えるテーマを見出してもらい、最後まで諦めずに取り組んでくれればと願っています。

設計士としての経験は現在のキャリアに役立っていますか。

設計士の業務経験は、自分の視野を大きく広げるチャンスになったと思っています。このままでいいのかと悩んだ時期もありましたが、悩んだ末、やっぱり私は高齢者の生活に関わる学問に関わっていきたいと決意しました。建築設計の学びを経ずに進んでいたら、いつか行き詰まってしまっていたかもしれません。高齢者の生活をよりよいものにしたいという当初の理想は変わらず、建築の知識やスキルとともに何かを生み出したいという発想を学生時代に得られたことが、研究に挑み続けるモチベーションになっていると感じています。

COLUMN

わたしと

恩師

自己研磨すること、教えること

私には多くの恩師がいます。このコラムでは、特にお世話になった博士学生時代の恩師について書きたいと思います。
私は大学卒業後、設計事務所に勤めていたため、研究を始めたのは30代からでした。動機は学生時代から興味があった高齢者施設に関わることでした。博士論文を書くのであればこれまで学んできた建築学ではない、もっと人に寄り添った空間づくりを学べる環境心理学がよいのではないかと思い、早稲田大学人間科学研究科を選びました。そこで教鞭を取られていた佐藤将之教授の下で研究の基礎を学びました。論文の執筆という面だけでなく、教員としての立ち振る舞いも影響を受けたと思います。佐藤先生は、常に自己研磨され、学生一人一人に丁寧に向き合っていらっしゃいます。私も研究者として成果を出し、学生にしっかり還元していけるような人間になること、そして高齢者の住環境を質の高いものにするための研究や設計活動を続けていきたいと考えています。