東北工業大学

工学部

都市マネジメント学科

菅原 景一講師

Keiichi Sugawara

PROFILE

東北工業大学大学院博士(前期)課程修了後、青年海外協力隊としてタンザニアに渡り2年間活動。帰国後、2008年に同大で博士(工学)の学位を取得。同年~2011年に株式会社建設環境研究所で建設コンサルタントとして勤務し、11年から宮城県白石工業高等学校建築科の実習助手に。2019年に東北工大へ戻り助教に就任し、21年4月から現職の講師に。

担当科目
水理学基礎~応用
河川工学
CE応用数学Ⅱ
都市工学実験Ⅱ
CE進路セミナー
都市マネジメント学研修
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME水の動きを理解し川辺の自然環境から学んで
未曾有の水害から命を守る河川構造物の未来を

THEME水の動きを理解し
川辺の自然環境から学んで
未曾有の水害から命を守る
河川構造物の未来を

水を生活に役立てたり、洪水や津波の被害から命を守ったりするための様々な技術を研究する水工学。特殊な装置やコンピュータによるシミュレーションなどを駆使し、水の流れを可視化して水辺の構造物の維持管理に役立てる情報の提供や提案を行っています。菅原先生は河川環境に特化し、自然物を利用することで長く継承できる治水構造物の可能性を模索しています。

菅原研究室の様子

水辺の自然に親しむ子ども時代を過ごし
心の豊かさに触れる経験を海外で

ユニークな経歴をお持ちですね。

大学院生の時、ポスターを見て、友人と一緒に青年海外協力隊の説明会に行きました。担当者から、日本で就職する際に問われる実務経験には役立たないけれど、現地での経験は人として大切なものが得られると聞いたことが心に響き、参加を決意しました。タンザニアの人々はとても温かく、物質的ではない心の豊かさを持っていました。渡航前は、日本に優る国はなかなかないと思っていましたが、その考え方が大きく変わる経験になりましたね。

水について強い思い入れがあるようですが。

子どもの頃、よく父親と一緒に渓流釣りに行ったり、田んぼのど真ん中にある小学校に通い、放課後、友達とザリガニを採ったりして遊んだ思い出が、自分の根底にあると思います。またそれ以上に、水そのものに面白さを感じているからなんです。そのままでは透明な水が、可視化装置を使うことによって複雑な動きが目に見えて分かるようになります。実験での分析だけでなく、PCソフトで数学的に再現することもでき、その変化を眺めながら法則性を解き明かすことが醍醐味です。

現地の自然物を活かした堤や堰で
人の営みに寄りそう河川管理の実現を

現在の研究テーマは何ですか。

私が取り組んでいるのは、植物を活かした河川管理についての研究です。現在、堤防などを建設する際には、周辺の植物を伐採し、コンクリートだけで造り上げるのが一般的ですが、現地に自生する植物をうまく活用することで、洪水や遡上津波に強い河川づくりができるのではないかと考えています。生物学者の福岡伸一先生が提唱する動的平衡(生物は間断なく分解と合成を繰り返して続いているという生命観)という考え方に共感しているんですが、構築と崩壊を繰り返す河川構造物のサイクルにおいて、何億年と命を繋いできた生物の力を活かすことができれば、大きな費用を投入せずとも構築、維持管理ができ、修理する度に改善して長く受け継ぐことができるのではないかと考えています。また、これから起こりうる予測不可能な自然災害にも対応しやすいものになるのではないかとも期待しています。

デメリットはありますか。

自然物で造る河川構造物は、現代の世の中で求められている安全性が、学術的に裏付けられる数値で明確に示すことができないんです。長い時間をかけてその効果が分かっていくものだと思いますので、その将来性を具体的に示し、啓蒙していくことが今後の課題だと考えています。

植物を活用した河川構造物にはどんなものがありますか。

最近では、江戸時代の水利事業に関する記録が参考にされています。アフガニスタンなどで医療活動に従事した中村哲さんも、蛇籠工(じゃかごこう)や柳枝工といった日本の伝統的河川工法を採用し、現地の資材だけで用水路を造りました。これも、定期的なメンテナンスを施していけば、ずっと長持ちするでしょう。また、河川工学者の大熊孝先生が著作で示されている、人命を守る目的の上では必ずしもコンクリートの堤防やダムを造ることだけが正しい答えではないという考えも、環境意識が高まる今後は、より浸透していくのではと感じています。

いつか理想にたどり着くことを信じ
思考を止めず学び続ける意志をもって

水工学の研究に臨む上で必要な心構えとは。

学生には、すぐに答えが出ない問題や想定外の結果に道を阻まれても、決してあきらめてはいけないと話しています。人は、安易に答えを求めがちですが、現実の世の中には簡単に解決できないことばかりであふれています。そんな状況を楽しみながら、心に余裕をもって長く取り組める姿勢こそが、研究活動に大切だと考えています。

学生にどんな指導をしていますか。

私の研究室では、結果的に最良解が出なくても、それまで取り組んだ中身をまとめて発表しなさいと指導していますが、その代わり、日々継続して積み重ねることを約束してもらっています。歩みが遅くても、着実に学びを蓄積できれば学生自身は成長を実感することができるはずです。卒業研修で完成を果たせなかったら、来年、この研究室に来る学生に引き継いでもらえばいい。いかに早く答えが出せるか、問題がうまく解けるかという能力は重視していません。知識や技術は容易に教えることができますが、学生が前に進むための意欲は、どうしてもこちらだけの力では引き出すことはできません。だから、自分が目指した目標に向かって考え続けるモチベーションを、自らの意志で養って欲しいと願っています。

COLUMN

わたしと

土木工学

環境を改変する土木工学とはどんな学問か?

私が高校生の頃に持っていた‶土木〞の印象は良くありませんでした。環境保護に関心があった私は、父に連れられて行く渓流釣りで川を遡る度に、川を分断する構造物(砂防堰堤や砂防ダム)が気になるようになって…。何が気になるかというと、‶この構造物のせいで魚が遡上できなくなっている〞ということ。
その頃は、‶ダムに頼らない治水〞とか‶ダムはムダ〞といった環境保護に対する社会的な関心が強まっている時代でもあり、私は本当のところダムは必要なのか?ムダなのか?メディアの報道ではなく、真実を知りたくなりました。
それを理解するには、環境を改変したり、ダムを造ったりしている土木工学とはどんな学問なのかを知る必要がある。と思ったのが土木そして河川にハマったきっかけです。学んでみて思うのは…あっ! もう終わりですね。続きはまたの機会に。 
さて、今皆さんが気になる社会的課題は何でしょう? 私は、想定外と言われる洪水で毎年のように大きな被害が起きていることですね。