東北工業大学

ライフデザイン学部

産業デザイン学科

坂手 勇次教授

Sakate Yuji

PROFILE

1982年に京都工芸繊維大学意匠工芸学科で工学士の学位を取得。同年4月から2013年3月まで、オムロン株式会社に勤務し、広告宣伝とデザイン、経営の分野まで幅広く活躍。 2013年から東北工業大学ライフデザイン学部クリエイティブデザイン学科(現:産業デザイン学科)で教鞭をとっている。

担当科目
デザイン戦略論
デザインセミナー
デザイン論
デザイン実習
デザイン計画
クリエイティブデザイン研修
エキスパートデザイン計画
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME社会が抱える課題を解決するために
新たな価値を生み出すデザインの可能性を

THEME社会が抱える課題を
解決するために
新たな価値を生み出す
デザインの可能性を

問題を解決するために思考の組み立てを行い、それを表現し伝えること、という意味を持つ「デザイン」。坂手先生は、企業での経験や研究を通して、社会に内在する問題を見つけ出し、本質的なデザインの力によって世の中を変えるきっかけづくりを実践しています。企業などと連携しながら取り組んでいるデザインの実例について詳しく聞きました。

さまざまな製品企画・開発に関わった
企業におけるデザインの実績

デザインの研究に進むきっかけとは。

高校生の頃から、商品や製品について考えることが好きで、自分なりに形にし、作品としてコンペに出品するようになりました。すると、受賞して雑誌に掲載されるようになり、自分の考えたことが世の中に出ていくことに、喜びを感じるようになりました。そして、デザインこそが、自分のアイデアを世の中で試すことができるものだと気づきました。自分が携わったモノやサービスを、自分が手掛けたものだと実感できる醍醐味を味わったことが、デザインの道に邁進するきっかけになりました。

企業での勤務経験が活かされているそうですね。

オムロン株式会社に30年勤めましたが、最初の10年を広告宣伝、その次の10年をプロダクトデザイン、最後の10年を新規事業企画と系列会社の経営に携わりました。この会社で、グラフィック、プロダクト、マネジメントの3分野を経験したことが、私にとって大きな強みになっています。また、駅の券売機や自動改札、ATMといった公共機器のユニバーサルデザイン、FAシステム機器、ヘルスケア機器など、幅広く手掛けたことも大きいですね。

自治体や企業などと連携しながら
社会をより豊かにする製品を共同開発

先生の研究室では、これまでどんなものを手掛けましたか。

東北工大に着任した2013年に、南三陸町の仮設住宅の方々と一緒に、潮水に浸かってしまった津波被災木を再利用するクラフト制作に着手しました。高齢の方でも作れるパッケージをデザインしたのですが、残念ながら商品化にまでは至りませんでした。それでも、仮設住宅の方々と若い学生が一緒に取り組む機会を作れたことが成果だと感じています。
また、仙台市地域連携フェローにも2014年から就任しており、株式会社東北イノアックと防災減災に資する日用品の商品企画に取り組みました。震災の経験を持つ学生たちに、当時どんなことに困ったかをヒアリングしたところ、お湯が沸かせず髪を洗えなかったことが挙げられ、簡易的にヘアケアができるブラシを発案。そのデザイン制作の過程で、病院に入院中の人や出先で髪が気になる女性も商品ターゲットになるのではと気づき、ドライシャンプーが入った容器と一体型のヘアブラシへの改善につながりました。

どんな学生たちが取り組んでいるのですか。

私の研究室には、将来、企業と一緒に何かを作りあげたい、大学で学んだデザインが社会の中でどのように活かせるかを知りたいという考えを持った学生が集まっています。世の中に何があったらより豊かになるのか、それを考え、一緒に見つける作業を大切にしています。学生には今ある物を手直しするデザインではなく、何か依頼を受けたら、どうしてそのような依頼がきたのか、その背景とは何かを突き詰め、逆提案できるまでアイデアを練り上げる。学生と研究課題について話し合う時はいつも、「何でもいいよ。まずは、集まったメンバーで考えよう」と声をかけ、共同で取り組むようにしています。

色や形だけにとどまらない
本質的なデザインの力とは

デザインは、どんな役割を持っているとお考えですか。

よく勘違いされがちなのですが、製品を格好よく目立たせることがデザインの本義ではありません。世の中の困り事を見つけ出し、解決するために必要なことをモノやサービス、情報などを通して具現化し、新しい価値を生み出すことがデザインの本質的な役割だと考えています。

今後の展望について教えてください。

現在、株式会社薬王堂、株式会社東北イノアックと連携し、特殊なウレタン素材を使った一般向けの藍染めインテリア資材の開発に取り組んでいます。コロナ禍でニューノーマルな生活スタイルが求められる中、新たなニーズに応える製品を目指します。
また、産学連携の取り組みを3社から5社に広げていきます。その中には、伝統工芸やITに関する企業もあり、より活動の幅を広げるチャンスとなるでしょう。企業にメリットが生まれるのはもちろん、学生にとってどんな新しい学びが得られるか、その仕組みづくりに力を注いでいきます。

COLUMN

わたしと

一冊

目から鱗1万枚のビジネス書

クレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」、その副題は「技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」。企業で技術戦略企画や新規事業プロジェクトを担当していたときに出会った本です。革新に成功した企業ほど革新できないジレンマに陥る。え?と思うかもしれないが、技術経営理論のバイブルとして今も読み継がれている一冊です。革新を経験した企業ほど、その成功体験がある故に呪縛から逃れられないジレンマを持つというもの。私には衝撃的で「こうしないとダメ」という常識をイチから疑う偏屈な習性が私についたのは只々この本の所為です。考えれば、過去に拘らず新たな創造へ挑戦するのはデザインが持つ特性です。デザインはビジネスに繋がるのだと気づかされた本でもあります。デザインは何もデザインの本からだけ学ぶものではない。自分の得意分野のみに拘りすぎて視野が狭くならないよう、デザインを学ぶ学生にぜひ奨めたい一冊です。