東北工業大学

建築学部

建築学科

大石 洋之准教授

Oishi Hiroshi

PROFILE

2007年に広島大学で博士(工学)の学位を取得。安田女子大学で助手、広島大学で博士研究員を経て、株式会社ジェイアール東日本建築設計事務所(現:JR東日本建築設計)に9年間勤務。2019年から東北工業大学工学部建築学科(現:建築学部)講師として着任。2022年度から准教授に昇任。

担当科目
建築学の数学
建築概論(オムニバス)
建築CAD
建築環境工学概論(オムニバス)
音・光環境/都市環境(オムニバス)
環境心理行動学特論(大学院)
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME建築環境における利用者のニーズを知り
課題を解決して快適さを追求

THEME建築環境における
利用者のニーズを知り
課題を解決して
快適さを追求

建築環境を対象に人々の行動特性や心理的評価、さらに、空間の温熱環境や光環境の研究を行っている大石洋之先生。建築環境を利用する人々の快適性向上を目標に、アンケート調査や行動観察調査、光や温熱環境の測定など多様な検討を行っています。そうして得られたデータをどう活かして研究を進めているのか、そして建築にとってどんな役割を持つのか、詳しく語ってもらいました。

全体研修の様子

心理学を活用し建築環境の改善に資する
設計要件を見出すための研究分野

どんな研究分野なのか特徴を教えてください。

建築環境における人の心理や行動特性を対象とした研究分野を環境心理行動学と呼びます。この研究分野では、環境を利用する人間側の視点に立ち、アンケート調査や行動観察調査などを用いて、建築空間に求められる設計要件を利用者の潜在的な環境に対するニーズから見出すことを目標として研究に取り組みます。

前職の経験も研究に活きているそうですね。

前職の鉄道系組織設計事務所では、駅舎の室内環境、特に夏の温熱環境の改善を主な仕事としていました。住宅以外の建築物を対象とした仕事では当然のことなのですが、クライアントとなる事業者の先に実際に建築物を利用するユーザーが存在しているため、ユーザーを対象とした調査にもとづいて課題解決を目指すという姿勢が重要となります。前職で障がいをお持ちの方が駅という建築空間をもっと使いやすくするために必要なことを明らかにするための調査も経験し、実際の利用環境を対象として仕事をしてきた経験が研究の意義を考える上でとても役立っています。

省エネルギーで快適な建築空間を
創出するための授業や卒業研修

担当科目の「音・光環境」はどんな授業ですか。

建築空間における音環境、光環境についての基礎理論を理解し、活用できるようになるための授業です。実用性をあまり感じていない学生が多いように思いますが、単に計算式を覚えるだけではなく自分の手で計算を行うことが出来るようになれば、自分の設計する建築空間が環境の条件を満たしているのか確認できるようになるため、とても役立つ内容です。

省エネルギーは建築の学びに関わりがあるのですか。

以前から建築物を対象とした省エネに関する法律はありましたが、平成27年に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」が公布され、建築物が基準となるエネルギー使用量以下に適合することを義務づけられました。建物全体でのエネルギー使用量を抑えるためには設計の初期段階から省エネを意識しているかどうかで結果が大きく異なります。学生のうちからその重要性に気づき、自然環境を上手く設計に取り入れるためのスキルを修得して欲しいです。

省エネルギーをテーマに卒業研修も行ったようですね。

2020年度はコロナ禍で春から夏にかけて学外での研究活動が制限されていたため、大学キャンパス内の建物の省エネを卒業研修のテーマにしました。コロナ禍で教室が全く使用されていなかった期間があったので、前年の通常利用時のエネルギー使用量と比較して教室のみのエネルギー使用量を把握した上で、それを省エネ化するためにはどのような仕様が有効であるか学生が検討してくれました。

より良い建築環境を実現するために
実際の利用環境に目を向けて提案

民間企業と一緒に取り組んでいる研究もあるようですね。

前職で鉄道駅舎という大空間かつ屋外からの影響が大きい建築物を対象に多くの仕事を経験しました。大学でもその経験を活かして、大空間における温熱環境の評価やその改善技術についての研究を継続しています。民間企業の方に協力してもらい実際の現場を研究対象とすることで、学生にも研究を通して実環境の課題への実感を持ってもらいたいです。

先生の専門分野を学ぶ上で必要な素養はありますか。

月並みですが、好奇心や変化を感じ取る注意深さを持っていることが重要です。研究では測定データやアンケートデータに対して、時には統計的な分析手法を用いて結果を明らかにしますが、研究対象としている実際の環境に対する興味や関心が低ければ、結果に影響を及ぼす要因を見つけることが出来ないかもしれません。様々な視点から解決法を探りながら自分で気が付くという姿勢があるととても良いと思います。

COLUMN

わたしの

一冊

昔の私に贈りたい今の学びにつながる入門書

私は大学の4年次で所属する研究室を選ぶときに、指導教員の西名大作先生から建築空間を利用する人を含めた環境という考え方や、物理環境は測定器で計測するが建築空間の質的な環境はそこを利用する人の評価にもとづいて測ることが出来るという考え方を聞いて、現在の研究分野を選択しました。
利用する人が満足する環境を創り出すのは建築における当然の使命ですが、設計時のニーズをテクニカルに把握したり、空間の評価を科学的に検証したり、といったことが技術的に実施できるという点に魅力のある研究分野です。
今では卒論生当時の私にプレゼントしたいと思うノウハウが詰まった書籍があり、それがおすすめ書籍「住まいと街をつくるための調査のデザイン」です。建築に限らず大学生が卒業研究をする時に悩むであろう、どうやってテーマを決めるか、テーマに沿ったデータをどう集めたら良いのか、集めたデータをどう解析するのか、という点について書かれています。調査や研究が楽しくなる本なので、ぜひ手に取ってみてください。