東北工業大学

工学部

情報通信工学科

袁 巧微教授

Yuan Qiaowei

PROFILE

中国・西安電子科技大学で学び、工学博士の学位取得は1997年。1992年からパナソニック開発研究所、大井電気、インテリジェントコスモス研究所で研究を重ね、2007年~08年に東京農工大学の特任准教授に着任。その後、仙台高等専門学校で教鞭を執り、2020年からは東北工業大学工学部情報通信工学科の教授に。

担当科目
電気回路I
電気回路III
電波工学
電磁波工学特論(大学院)
情報通信実験
情報通信工学研修
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME電磁波の技術を応用した高効率・ワイヤレスの
通信技術の革新と送電システムの実現

THEME電磁波の技術を応用した
高効率・ワイヤレスの
通信技術の革新と
送電システムの実現

スマートフォンや自動車の衝突を防ぐ自動運転機能、ワイヤレス送電など、近年、発展目覚ましい電磁波工学のテクノロジー。袁先生は、まさにその技術革新の第一線で活躍し、現在は電磁波を軸にし、通信及びエネルギー伝送用アンテナの最適設計手法、高効率な通信及びワイヤレス送電システムに関する研究に情熱を捧げています。

袁研究室の様子

日本における通信技術の躍進を支えた
探究心にあふれる女性研究者

電磁波工学を学ぶきっかけは何ですか。

当時の中国は大学進学率が3%しかなく、試験は本当に難関でした。日本と違って合格してから自分の進路を決める制度になっており、どの分野に進むか迷っているところ、担任の先生から「マイクロ波、面白いよ!」と言われたのがきっかけになりました。高校は2年制で16歳。先生の話を聞いてハイテクでカッコイイと心が躍ったのですが、大学は生まれ育った故郷から1500kmも先にあり、頼る親戚も近くにいない土地で寮生活を7年間続けました。親からの手紙に涙する日々を送ったことが今でも思い出に残っています。

日本における携帯電話の黎明期に立ち会っているそうですね。

パナソニック開発研究所では、折り畳み型の携帯電話に内蔵する板状逆 F アンテナ(PIFA) の開発研究に携わりました。この技術は、より進化を遂げて現在のスマートフォンにも活かされています。また、大井電気株式会社では、この会社が日本で初めて製品化したポケットベルの開発に関わりました。携帯電話やポケベルが普及する最初のステップに立ち会えて、それは今、私にとって大きな誇りになっています。

目に見えない電磁波の世界を可視化する
美しい数式と地道な研究活動

電磁波工学とはどんな学問なんですか。

電磁波工学はとても難解で、学生たちから敬遠されがちな分野の一つです。数学の要素や電磁波を分析する4次元パラメーターの取り扱い方、何と言っても目に見えない現象であることが、最初の理解を阻む壁になっています。私が、大学でこの分野を学び始めた時、最初に取り組んだのが数式で、ひたすら計算の日々が続きました。でも、その数式の理解が深まれば、本当に面白い学問領域です。電磁波の現象を理解するためのすべてが濃縮されているマックスウェルの方程式は、私の言葉で表現すると「片付け上手」な数式。この美しさは、年月をかけて自分のものにしないと分からない。ジェームズ・クラーク・マックスウェルも、科学者として尊敬して止まない存在です。
現在普及しているスマートフォンなどにも、電磁波を送受信するアンテナが使われていますし、この分野からは人類が最も恩恵を受けていると言っても過言ではないでしょう。現在は、通信、放送事業、レーダーによる計測に関する技術が成熟期に至っており、これからはエネルギー送電技術の発展に期待が高まっています。

袁先生の研究室ではどんなことに取り組んでいますか。

この研究室では、ワイヤレス給電技術の研究に注力しています。電線、バッテリーが不要で、電磁波により離れた場所へ電気エネルギーを送ることができる技術は、より多彩なシーンでの応用が見込まれます。実用化のためには高効率化が重要課題となっていますので、主に、送受電素子、整合回路、整流回路の3つの部分の高効率化研究に取り組んでいます。kHz帯からGHz帯までに対応した二輪自動車、省電力ドローン、水中モーターなどへのワイヤレス給電、Wi-Fiの電波エネルギー回収器の設計と試作も行っています。

イノベーションを起こすために
自らの可能性を高める積極性を

難解な研究に打ち込むためにどんな心構えが必要ですか。

コロナ禍でオンライン授業になって、受講や出席確認のための新しいシステムを導入した際、学生たちから事前説明が無く、不親切だなどの声が寄せられたことに驚きました。インターネットが発達しているこの時代、自分で調べる手段がいくらでもあるでしょう。身近な友達に聞いたっていいんです。文句を言っても何も進みません。自分に必要な情報を的確にピックアップできるかが肝心なんです。それが、社会で活躍する上での実力につながります。学生の皆さんには、受け身のままではなく、自身の中で観察眼や問題解決力を養ってほしいです。

学生に求めるものは何ですか。

学生の可能性は無限。だから、努力すればその分、確実に力となるはずです。そして新しい発見がなければ、大きなイノベーションにつながりません。他人の説明や意見を求め過ぎず、自ら一歩前に踏み出す強い意思を大切にしてください。

ワイヤレスの受送電システムによる省電力ドローンとコイル盤

COLUMN

わたしと

電波工学

難しいからこそやりがいがある研究

数学、電磁気学を土台とする電波工学を理解するのは難しく、昔も今もあまり好まれる学問ではありませんでした。私も、大学時代に見えない電波の勉強に苦労したことを今でも鮮明におぼえています。しかし、運が良く、大学時代に電磁気学解析手法モーメント法を得意とする西安電子科技大学学長の恩師・梁昌洪先生の弟子になり、また、東北大学に留学した際、恩師の安達三郎先生、澤谷邦男先生からご指導をいただき、難解な電磁気学の解析手法、電波の応用研究手法を確実に身につけることができ、今では計り知れない財産となっています。そんな恩師たちから送られた「難しい電波の研究・勉強を乗り越えれば、他の学問も簡単に熟せる」という言葉に励まされ、お陰様でこれまで電波研究を軸にし、電気回路、ソフトウェアなどさまざまな研究開発を楽しむことができました。多様な文化及び多様な職場を体験してきて身につけてきた経験と知識を活かし、今後、大学の教育研究を通じてより幸せな社会の実現に貢献できるよう日々邁進していきます。