東北工業大学

工学部

電気電子工学科

鈴木 郁郎教授

Suzuki Ikurou

PROFILE

2008年3月に東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程を修め、博士(学術)の学位を取得。同年4月から東京医科歯科大学生体材料工学研究所の助教、2010年から東京工科大学応用生物学部の助教に就任。2014年から現在まで東北工業大学工学部で教鞭を執っており、2019年から東北工業大学AiR研究所の所長も務める。理化学研究所バイオリソースセンター創薬細胞基盤開発チーム客員研究員としても活躍中。

担当科目
センサ工学
電気数学Ⅱ及び同演習
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME神経組織のモデルに緻密な計測を繰り返し
創薬の未来を支える有効なデータを抽出

THEME神経組織のモデルに
緻密な計測を繰り返し
創薬の未来を支える
有効なデータを抽出

ヒトiPS細胞由来ニューロンや脳組織を使い、医薬品などの化合物が神経系に及ぼす効果、毒性を判定できる評価系の開発を行っている鈴木先生。「創る」「測る」「解く」の3 要素による独自のアプローチで取り組んでおり、常にこの分野における“先端”に視線が注がれています。企業との共同研究や国際協調においても大いに活躍中の先生に、研究分野の展望と信念についてお聞きしました。

鈴木研究室の様子

医薬品の開発を力強く支えるための
ヒトiPS細胞を活用した測定技術の革新

神経細胞を使った薬剤応答解析とは。

医薬品の開発には巨額の費用がかかり、早期に毒性評価ができればコストと時間を大幅に短縮することができます。特に、神経や脳に副作用を及ぼす可能性は最も避けたい問題です。そのため、できるだけ早い時期に毒性評価をしたいというニーズがあります。
薬効に関しては、アルツハイマー病やてんかんといった深刻な神経疾患に対する特効薬が希求されていますが、その効果を測るための技術の開発も待たれています。これまでは、動物を使ったテストが繰り返されてきましたが、それだけでは人に対して確実な効果があるという実証にはなりません。だからといって未完成の薬を人体に投与して効果を試すわけにはいきませんので、ヒトiPS細胞を使って健常者や疾患を持つ人の神経細胞を培養する技術が役立ちます。しかし、そうして作った細胞をどのように評価していくか、まだまだ技術が確立していない今、この研究室では独自のアプローチで研究に取り組んでいます。

より生体に近い評価サンプルから
膨大なデータを採取してAI解析へ

どのような手法で研究に取り組んでいるのですか。

私たちの研究開発は3つの要素で成り立っており、1つ目は、評価サンプルを「創る」技術です。ヒトiPS細胞を使って、毒性や薬効の評価サンプルとして適切な神経細胞を作るのですが、現在はより生体に近い3次元の構造を持つ脳オルガノイドを作成しており、5mm四方くらいの大きさながら、しっかりと脳の構造を持っています。培養皿上でランダムに培養するよりもっと生体に近い状態を再現でき、人体への効果を測る上で最適なものとなります。
2つ目は、評価サンプルをどのように「測る」のか。神経細胞は、別の細胞に電気信号を伝えることによって高度な情報処理を行っています。この電気活動を測るために電極を使いますが、より緻密なデータが採取できるよう材料の検討を行います。現在、スマートフォンなどに内蔵されているCMOSイメージセンサを使った非常に高時間分解能な計測に取り組んでおり、1つのチップに24万もの電極が敷き詰められた世界最高スペックの機器で、まだ世の中で誰も見たことがないレベルの情報量と格闘しています。
そこで3つ目となるのが、ビッグデータの解析です。1個の神経細胞が1ミリ秒単位で電気活動している脳の機能を捉えようとすると、あっという間に膨大なデータ量が蓄積されます。ここから神経の活動を「解く」技術が肝心となります。この研究室では、ビッグデータを扱うためにAIの技術を投入しており、神経の情報や化合物の応答の情報を抜き出すための技術を開発しています。

企業とどんな共同研究に着手していますか。

この分野の研究室としては、AIや多変量解析に関する卓越した技術を兼ね備えていることで注目度が高く、製薬会社や化粧品会社から共同研究先として求められています。例えば、化粧品メーカーからは、肌が敏感な人たちを集めて使用感をテストする従来の官能評価だけでなく、末梢神経の活動を電気的に捉えて客観的なデータが採取したいという需要に応えています。

内なる関心を高めながら課題に取り組み
常に目指すべき先へ進む意欲を

ターニングポイントとなったのは何ですか。

2006年に山中伸弥教授らによる世界初のiPS細胞作製の成功以降、アメリカで企業による産業化が急速に進み、日本でも神経系を専門とする研究者が求められるようになりました。そんな時、私が大学院生の頃からつながりのある、多点電極システムによって薬理評価をするMEA(平面微小多電極アレイ)装置を開発していたアルファメッドサイエンス社(現:アルファメッドサイエンティフィック社)から声をかけられ、新型のMEA機器開発に携わりました。その成果の反響は大きく、世界各国の細胞のベンダーメーカーから細胞提供が相次ぐ好機を得ることができました。また数年前から、私の研究発表をリサーチしに学会に訪れたり直接連絡してくれたりする海外の企業も増え、私が発信してきたことが大きな広がりをみせていると実感しています。

学生に求められる素養とは何ですか。

面白いと感じる物事に夢中で取り組むことができ、課題解決のために考え、行動できるか。教えを請うだけでは、目指すべき先端にはたどり着けません。最新の情報を自身の手でつかみ取り、それを学びに応用していく能力を養ってください。私自身も、今もなお未知の領域にどんどん挑み続けている最中ですから。

ヒトiPS細胞由来ニューロンを用いて体外で電気活動を計測

COLUMN

わたしと

スノーボード

滑走スキルの向上にAI技術を活用

私の趣味の一つはスノーボードです。大自然の雪山での滑走は爽快で、毎年楽しんでいます。特にカービングターンが大好きで、ターン技術の向上に日々取り組んでいます。体の関節をどのタイミングでどう動かせば、思い描くターンができるか、仮説と検証の繰り返しです。研究活動と同じですね。ただ、実験室での研究と異なる点は、環境が日々刻々と変わることです。雪質は、毎回異なりますので、雪質に合った滑り方が求められます。雪質の変化に左右されない技術や雪質に適合できる複数技術を持ち合わせる必要があります。これが難しいところでもあり、醍醐味でもあります。毎年、大会にも出場しています。失敗した時は、大変悔しい気持ちになりますが、緊張感の中、心技体を揃え、一本の滑りに集中した結果から得られるものは、確実に自身の技術向上に導いてくれます。選手として、まだまだ挑戦します。
職業柄、最近は、科学技術も導入しています。例えば、加速度センサーを用いて、ターン技術の定量化や雪質に最適な滑走ワックスを選定するAIの開発を行っており、ターン技術の発展に貢献したいと思っております。何事も本気でやると面白いですね。