工学部 環境応用化学科
穴澤 正宏 研究室
数理モデルで生態系保全や持続可能な社会を目指す
数理モデルやコンピュータシミュレーションを通して、生態系保全や持続可能な社会の実現に向けて研究しています。生態系を守り持続可能な社会を実現していくには、まず生態系や人間社会そのものを科学的によく理解することが必要です。しかし、これらはさまざまな要素が複雑に関係しあったシステムで、十分理解できていないのが現状です。ここで威力を発揮するのが数理モデルです。コンピュータの中に生態系のモデルを作りそれを解析することで、生態系の持続可能性や種多様性の仕組みについて研究しています。

学位
博士(理学) 大阪大学1997年
略歴
1997年4月 - 2000年3月 | 京都大学 基礎物理学研究所 学振特別研究員 |
---|---|
2000年4月 - 2003年3月 | 東北工業大学 工学部 講師 |
2003年4月 - 2007年3月 | 東北工業大学 工学部 助教授 |
2007年4月 - 2014年3月 | 東北工業大学 工学部 准教授 |
2014年4月 - 現在 | 東北工業大学 工学部 環境応用化学科 教授 |
研究分野
生態系の種多様性や持続可能性に関する数理的研究
担当科目
- 環境応用化学セミナー
- 微分積分学Ⅰ・Ⅱ
- 物理学Ⅰ・Ⅱ
- 熱力学
- 環境応用数学
- 環境応用化学研修Ⅰ~Ⅲ
研究室所属学生の卒業研修(論文/設計/制作)
- 生息地破壊による種多様性の変化 ―破壊パターンによる違い―
- 3すくみ競争関係にある3種生物の時空間動態
- 災害避難考察のための人間の避難行動のモデル化
研究テーマ
種多様性が維持されるメカニズム
自然の中で同じ資源を必要としている生物種は互いに競争関係にあります。例えば互いに近縁関係にある昆虫種や、森林のいろいろな種類の樹木です。自然の中では、このように互いに競争関係にあるたくさんの生物種が共存していますが、実はこれはとても不思議なことなのです。実験室の中で互いに競争関係にある生物を長時間共存させることは非常に難しく、ほとんどの場合、競争に強い種のみが生き残り、他の種は絶滅してしまいます。では、なぜ自然の中ではうまく共存できているのでしょうか? いくつかの仮説はありますが、そのメカニズムはまだ十分解明されているとはいえません。自然の中で多種が共存し種多様性が維持されるメカニズムについて、コンピュータシミュレーションを通して研究しています。
生態系の安定性や持続可能性
生態系の中ではさまざまな生物種が互いに影響を与え合っています。例えば、ある生物種は別の生物種をエサとしています。このように、2つの生物種が捕食・被食(食物連鎖)の関係でむすばれていると、しばしば2種類の生物の個体数は時間とともに大きく変動することが知られています。実際の生態系では、多数の生物種が互いに影響を与え合っているので、個体数の変動は予想を超えたものになります。しばしば、とても大きな変動をすることがあり、場合によっては、いくつかの種が途中で絶滅してしまうこともありえます。このような生態系は不安定な生態系で持続可能性も低くなると考えられます。どのような特徴をもった生態系が不安定になるのか、生態系の構造と安定性の関係について研究しています。
空間が種多様性や生態系の安定に果たす役割
伝統的な生態系の数理研究では、生息地の空間的な広がりをあまり考慮に入れないで研究が行われてきました。しかし、実際には生物は移動分散を行うので、離れた生息地の間で個体の移動が起こります。したがって、種多様性や生態系の安定性について考えるときに、このような生物の移動を考慮して研究をしなければならないはずです。この研究室では、特に「格子シミュレーション」といわれるシミュレーション手法により、空間の広がりの影響が種多様性や生態系の安定性に与える影響を研究しています。
生態系の急激な劣化・異常が起こるメカニズム
湖沼では水質が急激に悪化してアオコが大発生することがあります。また、海では赤潮が急に発生することがあります。このように、生態系の状態がだんだんと劣化するのではなく、短時間で別の状態に変化してしまう現象はレジームシフトと呼ばれています。また、このように一度、レジームシフトを起こしてしまった生態系は、回復に向けた努力をしてもなかなか元に戻りにくいということが知られています。なぜこのような急激な状態変化が生じるのか、また、どのようにしたらこのような急激な変化を未然に回避することができるのかを数理モデルを使って研究しています。