東北工業大学

工学部

電気電子工学科

室山 真徳准教授

Muroyama Masanori

PROFILE

2008年に九州大学で博士(工学)を取得。2014年〜2020年に東北大学マイクロシステム融合研究開発センターでの勤務を経て、2020年から東北工業大学工学部電気電子工学科に。同年には、株式会社レイセンスを創業し、取締役・最高技術責任者に就任している。

担当科目
コンピュータアーキテクチャⅠ
電気数学Ⅲ
電気電子工学実験Ⅲ
研究室・教員紹介

※役職・担当科目および研究内容は取材当時のものです。

THEME人やロボットの感覚を拡張する触覚センサで
優しい社会を実現する新たなシステムを

THEME人やロボットの感覚を拡張する
触覚センサで
優しい社会を実現する
新たなシステムを

LSI(大規模集積回路)やMEMS(微小電気機械システム)などの最先端技術を応用したシステムをロボットや人に付与することで感覚を拡張し、介護福祉や製造工場、アミューズメント分野などで新たな可能性を拓くことに情熱を注いでいる室山真徳先生。その革新的な技術の「今」と「未来」について聞きました。

2020年度の室山研究室メンバー

ロボット技術やデータサイエンス
社会の課題を解決する研究に着手

触覚センサネットワークシステムについて教えてください。

触感は、目や耳とは違い体中に分布しているので、システムに落とし込むのがとても難しい。より敏感な触覚センサをたくさんつけて、精度の高いデータを採取する必要があります。それにともなって配線は増えますし、データ量も膨大になってしまう。その課題を解決するための技術を開発、提案しています。

システム提案ができるまで、どのくらい期間が必要ですか。

納得できる提案ができるまで、試行錯誤の繰り返しです。つらい時期がずっと続き、最後の最後に結果を得られることもあるし、何年も成果が出ないこともあります。それに、半導体技術の研究は、お金も時間も膨大にかかります。そんな困難を経た上で、自分たちが目指していたシステムが完成した瞬間が本当に楽しいんです。この大学では、触覚の技術を応用する研究を発展させ、ロボットに付けたり人間の手に装着したりする機器を開発し、社会につなげていきたいですね。そのために、時間とアイデアを尽くし、提携先とコミュニケーションを図りながら進めていくつもりです。

世の中に役立つ技術のアイデアを得る
フィールドワークの重要性

先生の研究分野は、社会にとってどんな役割を果たしますか。

一言でいうと「自助と共助」です。これまで300以上の企業と対話を繰り返し、その中でニーズを探りながら、自分に求められている課題を抽出し、それを研究テーマに落とし込んできました。自分で自分を助け、ともに助けあえる、そのためのロボットやセンサ、デバイス、システムの研究開発を進める中で、その技術の応用先として想定している分野の一つが食品工場です。例えば、おかずをお弁当箱に詰めるような、形状がすべてバラバラのものを扱う仕事に役立てられないかと思案しています。他には、娯楽の分野でしょうか。学生に、最新のゲームに求めることは何かを聞いたところ、触感などのリアルな感覚が充実してほしいという声が多くありました。私もFPSゲームをプレーしますが、大切なのは自分が欲しいものを形にするというモチベーションでしょう。前述したように、応用分野は多岐にわたります。

発想を得る上で大切にしていることは何ですか。

企業や現地でのヒアリングを行うようにしています。石巻の漁港で、魚を選り分けるシステムを導入できないかという依頼がきた際、実際に作業をしている方に話を聞いたら、選別は熟練の勘だというんです。ロボットアームの触感センサで脂ののりが分析できれば、確実かつスピーディーに選別できますよね。さらに、データを蓄積していけば、魚の値付けが勘頼りじゃなくなります。これは漁業だけでなく、いろいろな分野で応用が可能だと思っています。

技術の使い先の声が重要なんですね。

私が提唱しているのは、「Edge Heavy Sensing(エッジヘビーセンシング)」というコンセプトです。ネットワークの末端である現場で、様々なデータを採取し、見えなかったことを可視化して、役立てていこうという考え方が、研究開発の柱になっています。

研究成果が世の役に立つ未来を
頭の中に思い描きながら

先進技術に携わる現状で、感じていることとは。

ベルギー王国IMEC(大学共同利用半導体研究機関)の客員研究員として勤務した経験から思うことは、この国では世界に誇る先進技術が開発されても、なかなか企業に浸透しにくい空気があるということです。積極的に新しい技術を取り入れ、もっと社会を良くしていこうという土壌を日本にも根付かせたい。今後、そういった啓蒙活動にも取り組んでいければとも考えています。

学生たちにメッセージをお願いします。

自分がやりたいものが何かをとことん突き詰め、自分なりの研究テーマを見つけてください。そうして一生懸命打ち込んだ研究成果が、いつか想像もつかなかった分野で活用される未来が訪れるだろうと期待感を持つことが、学びの意欲につながるはずです。

COLUMN

わたしと

恩師

偉大な恩師二人からの大切にしたい言葉

私には九州大学時代、約10年間お世話になった安浦寛人教授と、東北大学時代約12年間お世話になった江刺正喜教授の二人の偉大な恩師がいます。
安浦教授は半導体(LSI)設計技術などを専門とされていました。私は恩師から頂いた「LSI設計の全体はたいへん複雑かつ高度だが本質的な仕事をするためには全てを知っておく必要がある」「30代で師は30人持て」の言葉を実践しています。
一方で、江刺教授は半導体微細加工を応用したMEMS(メムス)を専門とし、日経新聞の調査で企業からの評価が最も高い研究室の評判を得ていました。“東北大学・江刺研究室最強の秘密”の本があるほどの研究室で、実用化されているものが多々あります。多くの名言があるのですが、「人任せにしない。自分ですべてやる」「人生なりゆき」の言葉が私はお気に入りで、実践しています。
正直、私は大変贅沢な環境にいました。恩師たちから学んだことを、学生ならびに学会・社会に還元していきたいと思います。