PROFILE
東北大学大学院情報科学研究科で修士(情報科学)の学位を取得。2004年に東北大学の沢柳賞(東北大学男女共同参画奨励賞)を受賞。2007年4月から、同大大学院法学研究科ジェンダー法・政策研究センター(現:ジェンダー平等と多文化共生研究センター)のCOE研究員を務める。本学には、2008年にライフデザイン学部経営コミュニケーション学科(現:経営デザイン学科)の講師として赴任。2023年に准教授となり現在に至る。
- 担当科目
- 地域経済学
- 意志決定論
- 論理的思考法
- ICTビジネススキルⅡ・Ⅲ
- ライフデザイン通論
※教員の所属・役職は取材当時のものです。
THEME社会の
継続的発展を支える
教育とジェンダー理解
THEME社会の継続的発展を支える
教育とジェンダー理解
充実した教育環境で学びを促す人的資本の投資により生産性が向上し、そうして育まれた労働力や労働の質を世代間で受け継ぐことにより、発展的な生産が繰り返される過程が生まれると説く亀井先生。そのために、誰もが平等に責任や権利、機会を分かち合い、能力を発揮できる社会を目指すジェンダー平等への正しい理解も求めています。次世代を担う学生たちには、豊富な見識をもって社会の課題に取り組む姿勢を持つよう指導に注力しているそうです。

身近な教育者の姿を目標に社会経済に取り組む研究者の道へ
本学に着任するまでの経歴を教えてください。
東北大学の独立研究科の一つとして創設された大学院情報科学科の都市社会経済システム分析研究室に所属し、地域経済、都市経済の学問領域について学びを深めました。そして、COE代表教員に請われ、東北大学21世紀COEプログラム「男女共同参画社会の法と政策─ジェンダー法・政策研究センター(Gender Law & Policy Center)」でCOE研究員を務めた後、本学の講師として招かれました。
大学の教職に就いたきっかけとは。
家族や親の友人たちの多くが大学の先生で、そんな学術関係者ばかりの環境で育ったせいか、幼い頃から教職を将来のロールモデルとして当たり前に思い描いていました。両親は私の性格をよく熟知していて研究者としての資質を見抜いていたようですし、母からは「好きなことを仕事にできたら、人生お得に生きられる」と諭されていたことも、私の進路に大きな影響を与えたと感じています。両親の思惑通りに大学の教員となりましたが、親世代の教育環境とは大きく変わってしまったなと感じています。
教育や訓練の経済的意義を考え誰もが能力を発揮できる社会を
どのような学問分野に取り組んでいますか。
経済学の観点では人的資本論、社会学の観点では再生産論による社会経済学の研究に取り組んでいます。人間を資本と考えた場合、その生産性は何によって決まるのかを考察します。人間が労働市場において評価される要素は何かを考える際、就業年齢に達するまでにどの程度投資をしたかで決まるという考え方があります。ここでいう投資とは、教育や職業訓練などを指し、以前は学校教育が主たる要因として捉えられてきました。実はそれだけではなく、成長過程における社会経済的環境の要因も深く影響を及ぼしていると考えられており、そのような社会の仕組みの中で世代から世代へと生産が繰り返されていると考えるのが再生産論における観点となります。異なる世代が共存する経済を分析するオーバーラッピング・ジェネレーション・モデル(世代重複モデル)で所得移転を考える上で、社会学的観点の世代間の再生産の考え方が面白いと思い、そのような観点も取り入れながら現代の社会経済を分析、考察しています。
昨今のジェンダー問題に関して。
性別に基づく不平等や偏見によって生じる社会的な課題であるジェンダー問題に関して、マイノリティーがどのように社会的に認知され、排除の方向から共助によって社会の中で等しく扱われるようになるか考えたのが、東北大の研究室でジェンダー論に取り組む最初の一歩になりました。当初は、何とかして平等性を確保せねばと考えていたのですが、今ではそれは現実的ではないと考えています。この問題を扱う際、機会の平等と結果の平等を履き違えないことが重要になります。社会構造上、結果の不平等を正しく受け入れないと社会がうまく機能しません。機能的な面で考えれば、「差異」があるからこそ社会は成立するのです。個人が自らの能力を最大限に生かし、チャンスと努力を尽くして得られた結果は尊重されなければいけません。社会経済において、質を担保した労働力を確保することは、人間社会を維持運営するために重要です。そのために、健全な環境下で教育により人間の生産性を高め、持続可能な社会を実現することが大切だと考えています。


世の中の出来事を他人事にせず社会問題の解決を目指す力を養成
教育に着眼点を置いた理由とは。
最初は学ぶことが楽しいという体験から始まり、学習を積み重ねることによって試験などで高い評価が得られ、次のステップに進むためのチャンスになります。このように教育とは人生を切り開いていくための術になるものだという認識から、それを学問として研究するならどのような学術分野が適当であるかを考えました。そうしてたどりついたのが人的資本論に基づく教育経済学でした。
亀井先生にとっての「未来のエスキース」とは。
今ある現実を正しく認識しないと、将来なんて描くことはできません。現状の課題を把握するために、どのような要素が絡み合い、どういう問題が発生しているのかを、表層面にだけとらわれずに原因を追求する姿勢が、何事においても必要だと思います。世の中で起きているあらゆる問題が、実は他人事ではなくどこかで自分に必ずつながっていることも認識して欲しい。今すぐにその問題を直接的に解決する力はなくとも、原因に考えを巡らせ、また同じことが起こらないように改善方法を探る。より良き未来を描く思考力を身に付けるために、学生の時分だからこそ読書をしたりニュースに関心を持ったりして欲しいと願っています。

COLUMN
わたしと
昨今の観光・・・
「旅の喜び」を実感するためには環境公害の解決を
2006年「観光立国推進基本法」成立以来、政府は訪日外国人観光客誘致と国内観光振興を進めています。「観光立国」の基本的な考え方は、①観光を国の基幹産業に成長させ、各地域の経済を活性化させる、②観光を通じた他国の人びととの交流により、国際感覚に優れた人材育成をする、③国内旅行者が「旅の喜び」を実感できる環境を整備し、国民の生活の質を高める、ことにあります。しかし、日本各地でオーバーツーリズムにより生活と観光が交差し、地域住民の生活環境や自然環境、文化遺産などに悪影響が発生しています。私が大学院生時代に年2回程訪れていた「京都」も観光公害の渦中にあります。以前は閑散期ならば、町屋の老舗旅館も割安に利用できましたが、現在は需要過多で一泊10万円台の価格の料金設定となり、なかなか手が出ません。円安も相俟って、国内旅行者は「旅の喜び」を実感できる環境からは程遠い状況にあります。観光公害の解決には、①観光税・入場税の導入、②観光客総量規制、入域制限、③交通インフラ・ゴミ処理施設の整備、そして④住民生活との調和、が急務といえます。


