PROFILE
2015年に東北大学で博士(理学)の学位を取得し、同年4月から東北大学大学院理学研究科の研究員を務める。2018年4月に宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所(JAXA)へ入所。相模原キャンパスで先端の宇宙科学分野の研究に注力する。本学には、2020年4月に工学部情報通信工学科の講師として就任。2023年4月に准教授となり、東北大学大学院理学研究科での指導も兼任しながら、後進の育成に当たっている。
- 担当科目
- 物理II
- 情報通信工学実験I
- コンピューター数値解析
※教員の所属・役職は取材当時のものです。
THEME天体が放つ不可視の電波を捉えて
惑星で起こる現象や環境を解明
THEME天体が放つ不可視の電波を捉えて
惑星で起こる現象や環境を解明
幼少期から抱いている宇宙への憧れはそのままに、天体が発する電波の計測と解析に取り組んでいる北先生。大型のアンテナで観測することにより、惑星の大気や磁場、周囲のプラズマの状態を解明することができ、将来的には宇宙で起きる災害の予防などに役立てることが期待されています。現在、研究対象は太陽系外にも向けられており、無限の輝きに満ちあふれている星空の中から、電波を発している天体を探す毎日だそうです。

星空を眺めていた天文好きの少年は
宇宙空間の研究に携わる道へ
子どもの頃はどんな分野に興味があったのですか。
小さな頃から天体が好きで、星座早見盤を片手によく星の観察をしていました。小学校の卒業文集には、国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡へ行くことが夢だと書いてあります。また、ちょうどその頃、小柴昌俊先生がカミオカンデにより太陽系外で発生したニュートリノの観測に成功し、ノーベル物理学賞を受賞した一報が強く印象に残っています。そのニュースにより、素粒子や宇宙物理学といった分野にも少し関心が高まった気がします。
現在の専門分野に進むきっかけとなったのは。
東北大学理学部に進学し、子どもの頃からずっと好きだった天文分野への志望を抱きながらも、ニュートリノ検出器に触れる機会を得たことで、原子核系や素粒子系の分野への興味も高まっていきました。ターニングポイントとなったのは、2、3年生で取り組んだ学生実験です。自分が専攻していた地球物理学の学生実験はちょっと特殊で、自主的に研究テーマを決めて計画書を作成し、学生本位で実験に取り組むというスタイルで、それが面白く感じました。最後の実験で、アンテナを自作して銀河電波を測るという内容に取り組んだことが、以後の方針を定める決め手になりました。
電波望遠鏡で観測したデータを解析し
放射線帯の揺らぎや影響を考察
どんな研究に取り組んでいますか。
宇宙惑星科学における電磁波計測では、惑星の周りで起きている電磁気をともなう物理現象を捉え、その状態を明らかにすることが目的となります。私が修士の頃から取り組んでいるのが、木星から発せられる電波の観測です。地球は磁場や放射線帯を持ち、これが大幅に増えると人工衛星や宇宙飛行士に悪影響を及ぼします。木星も同様で、太陽系の惑星の中で最も強い電波を放射しています。エネルギーが高い粒子が惑星を取り囲むベルト状に分布している領域を放射線帯と呼びますが、この放射線帯粒子の増減を観測し、データ取得・分析することでどんな時に活発になるのかを解明するための研究に取り組んでいます。太陽から届く紫外線の強さと木星の電波には相関性があり、太陽の紫外線で木星の大気が温められると、その影響で放射線帯の強さが増すことが分かっています。

どのような観測手法を行なっていますか。
惑星が発する微弱な電波を観測するためには、大型の電波望遠鏡が不可欠です。観測所は世界各地にあり、私も学生の時、インドで2、3週間、データ取得を頑張った経験があります。現在は、リモートでどのような観測を行うのか現地スタッフにコマンドを送ればデータを得ることができますが、現地の異文化に触れる体験は刺激的で、思い出深いものがあります。また、福島県飯舘村にも東北大が所有するアンテナがあり、学生を連れて機器を設置しに行ったこともあります。
学生にはどのような指導を行なっていますか。
この研究室では2人以上のペアで卒業研究に取り組むことを許可しており、互いに相談を重ねて解析用のプログラミングや受信機の設計などを担当します。なお、3号館屋上にあるアンテナ(電波望遠鏡)は、昨年度、学生が3人がかりで完成させました。アルミのフレームを切り出して躯体を作り、ローテータを組み込む作業にとても苦労したようです。太陽を自動で追尾するプログラムも組んでもらい、何とか太陽電波の観測に成功しました。このアンテナは後輩の学生にとっても、学びの多き教材として大事にされています。
データ上の差異や特異点を見逃さず
手がかりを重ねて納得のいく成果を
情報通信分野の学びを求める学生も多いと聞きます。
工学部で宇宙科学に触れる機会はそれほど多くないため、私の研究分野に興味を持った学生が参加してくれていますがその一方、天体の電波観測ではなく、雷の発生にともなう電波の観測といった実生活に関わりの深いテーマを卒業研究に選んだ学生もいます。電波を測ることで多様な現象を研究対象にできる点が、この分野の面白さです。電波でなければ得られない情報はとても多く、応用範囲が広いことも魅力だと感じています。
北先生にとっての「未来のエスキース」とは。
見てみたいと思っている天体や科学現象に対して試行錯誤し、それまで見えなかったものをだんだん形にしていくような過程だと捉えています。自分の中で課題をしっかり見定め、アイデアを練ったり予想したりして可視化するプロセスこそが大切です。目的を果たすことができれば達成感を得られますが、予想と違う結果になるケースも少なくありません。それが研究を進めるヒントになることも多いので、無駄なことは何一つありません。観測やデータ取得の過程で得られた一つ一つの気づきや発見をつなぎ合わせていくことが、私たちがたどる道のりになっています。


COLUMN
わたしと
インド
驚きの連続だったインド出張
学生時代、私は「研究に必要なデータは自分で取りに行く」という研究スタイルに憧れていました。そして、その憧れが現実になったのが、研究者として初めての海外出張、インドでの電波観測でした。
インドに到着してまず驚いたのは、道路を当たり前のように歩く野良牛と、絶え間なく鳴り響くクラクションです。食事はいわゆるカレーでしたが、どれもおいしかったことを今でも覚えています。一方、観測所ではインド人技術者との英語でのやり取りに苦労し、研究はデータ解析だけではなく、人とのコミュニケーションも重要なのだと実感しました。
さらに驚いたのは観測所周辺の環境です。宿泊施設には、「豹や蛇、この色の蜘蛛に注意」という掲示がありました。天文学というと、静かな部屋でパソコンに向かう仕事を想像する人も多いかもしれません。しかし実際には、世界各地へ足を運び、その土地の文化や自然に触れながら観測を行うことも、研究者の日常の一部なのです。
もちろん、観測は出張に行けば終わりではありません。望遠鏡で得られたデータは、解析し、論文として発表して初めて価値を持ちます。せっかく集めたデータも、そのままでは宝の持ち腐れです。初めてのインド出張は、海外で観測する楽しさだけでなく、「データには最後まで責任を持つ」という研究者として最も大切な姿勢を教えてくれた、忘れられない経験です。


