
AI時代にどう生きるべきか
VOL.089 宮下 哲哉(電気電子工学課程)
現代社会では、誰もがスマートフォンを通して容易にインターネットへ接続できるようになりました。一日中全くインターネットに繋がずに生活する人はほとんどおらず、「ネットが繋がらない宿」が話題になるほど、いつでもどこでも繋がる環境が日常の一部になっています。ネット依存症でなくとも、この情報環境から完全に離れることは難しく、膨大な情報資源に囲まれた日常が当たり前になっています。
このような情報の洪水のなかで、必要な情報を効率よく選び取る道具として人工知能(以下、AI)が急速に普及しています。AIは、半導体技術の進歩や大規模並列処理、さらには膨大な記憶容量の発展とともに進化を続けています。私の理解では、機械学習による知識の集積、深層学習による特徴抽出、強化学習による最適化などの技術が飛躍的に発展し、文字情報だけでなく、映像や音声も高度に扱えるようになってきました。さらに、推論や論理的思考を模倣する生成モデルも登場し、一部の社会・経済活動の現場で実用化が進んでいます。
とはいえ、現時点のAIが完全な論理性や信頼性を備えているわけではありません。AIはときに誤った回答を示し、100%の正確性は期待できないと多くの利用者が実感していることでしょう。私も、課題によっては的外れな回答を受けて苛立ちを感じたことがあります。それでも、学習の補助やよく知らない分野の相談、創作活動の道具としてAIを活用する若者は増え続けています。社会におけるAIの価値は、今後も確実に高まると考えられます。
近年は半導体技術の進歩がやや鈍化しているものの、量子コンピュータの本格的な実用化によって、AIの性能と信頼性が格段に向上し、社会の形が大きく変わるであろうことは専門家でなくとも予想できる段階に来ています。
では、AIが社会に高度に実装された未来は一体どのようになるのでしょうか。単純に考えると、思考の大部分をAIに委ね、人間は指示された作業だけを行う「楽な」社会が想像されるかもしれません。その社会では「人が学ぶ」必要性が薄れ、大学の価値も低下すると思われます。しかしそれは私たち人間にとって望ましい未来でしょうか。私はそうは思いません。
AIが発達した未来を考える上で、SF作品は貴重な示唆を与えてくれます。『2001年宇宙の旅』や『ターミネーター』『マトリックス』『スタートレック:ディスカバリー』など、多くの作品でAIと人間の関係が多様に描かれますが、登場人物はいずれも思考し、判断し、行動する力を持っています。AIとの対立や協調の中で、状況を理解し、自身の知力を尽くして生き抜く姿が人間らしくて感動し、その努力を高く評価します。AIに全面的に依存するのではなく、主体的な思考と判断が、良い未来を切り拓く鍵と思います。
このための力を身につけるうえで、重視したいのが「読書」です。本は著者が思考を整理し、論理を構築して厳選した言葉で表現した成果です。読書を通じて過去の偉人や現代の専門家の思考に触れ、自分自身との共通点や相違点を検討することにより言語化能力や論理的思考力が磨かれます。テレビ番組でも一部の読書家であるタレントや政治家の言葉に説得力があるのも、こうした蓄積があるからでしょう。読書は、自身の視点を養い、未来を見据える上で最良の手段であると考えています。
読書を日常的な習慣にするためには、まずは人気作や受賞作など、自分の興味に合うものを選ぶのが良いでしょう。映像化された作品でも、原作だからこそ味わえる深い因果関係の描写や繊細な心理表現などが魅力です。私自身、最近は『木挽町のあだ討ち』『三体』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』『塞王の楯』『ファウンデーションシリーズ』で、いずれも作家の想像力を堪能できる作品に強く惹かれました。秀逸な作品で受賞に納得できる、この順でおすすめする本です。
読書に親しむことにより、日本語を正確に操る力や幅広い基礎知識、論理的な思考力、さらには創造的な発想力が自然と身につきます。これらは、AIが提供する情報の中から誤りや不自然さを見抜く力にも直結します。また、質の高い著作に触れる経験自体が、人間としての成長や視野の拡大に寄与すると私は考えています。
最後に、AIは電源があれば作動しますが、人間はそうはいきません。身体的・精神的・社会的な健康こそがすべての前提条件です。「食べること」「寝ること」「運動すること」は、身体的健康を維持するために不可欠な要素です。AIがさらに進化した社会のなかで、私たち人間が主体的かつ充実した人生を送るためには、健康の維持と読書習慣の定着、そしてAIを賢く使いこなす姿勢が不可欠だと主張しておきます。
大学生のみなさんには、動画の閲覧やアルバイトに時間を使わずに、読書と健康の大切さを意識し、AI時代にふさわしい主体的な生き方を探っていただきたいと願っています。

宮下 哲哉 教授
東北大学の大学院博士課程を修了し、引き続き東北大学で准教授まで務め、2011年4月に本学に着任しました。今の学科で就職指導を担当したところ、多くの卒業生が優良企業で良い地位に就いており、また業界自体も安定していて求人数が多いことを把握しました。そこで、学生が電気関連の国家資格を取得することが就職に有利になると考え、資格取得に向けた指導を開始し、現在も継続しています。
具体的には、電気主任技術者、第一種・第二種電気工事士、一級電気工事施工管理技士などの資格取得の指導を行うほか、学外向けに試験の判定員や資格講習の講師として活動しています。
表示システム研究室
研究分野は電子工学であり、表示デバイスです。学生の基礎力アップのために、表示のための電子回路の設計・製作、表示のためのプログラミングを学んでもらい、新しい表示装置・システムの創造から試作・評価をしています。