
渡る世間はナベとサイ!?
VOL.087 鈴木 健一(情報通信工学課程)
最近、本学の図書館の蔵書(?)にボードゲームが加わったというお知らせがありました。今となってはあまり知られていませんが、1980年代、ボードゲームが流行した時期があり(当時はシミュレーションゲームと呼ばれていました)、国内の主要玩具メーカーからも毎月のように新作のゲームが発売されていました。わたし自身もその頃、中学、高校時代を過ごしており、放課後や休み時間にゲームで遊び、大学ではサークルに所属して、たくさんのボードゲームをプレイしていました。
今でも、ときおり当時の仲間とボードゲームで遊んでいます。

図1: 図書館のボードゲームコーナー
当時のゲームは難易度が高いものが多く、数十ページのマニュアルを何日も読んでルールを理解し、1プレイにも数時間から何日もかかるものもあったりもして、コンピュータゲームの発達もあり、競技人口も減少、いつの間にか忘れられた存在になりかけていました。そのような中、90年代から、ドイツのゲーム制作会社を中心に、簡単に短時間でプレイできるボードゲームが次々と発表されるようになり、沈滞した業界に新しい風が吹き始めました。その風を受けて、国内でも「アナログゲーム」として、ボードゲームを楽しむ人達が定着しているのがここ20年くらいの流れとなっています。図書館にボードゲームが入るというのも、その流れの一つなのかなと思います。
簡単なゲームであれば、家族や親戚などとも気軽に遊ぶことができるので、家でボードゲームをすることもあるのですが、先日、娘が面白いゲームを見つけてきてくれました。タイトルは「渡る世間はナベばかり」。カードゲームです。丸い「渡ナベカード」が48枚あり、オモテ面には「渡」、ウラ面には「ナベ」の異なる字体24種類が印刷されています。

図2: 「渡る世間はナベばかり」のパッケージ

図3: 「ナベ」カードの表/裏
御存知の方も多いと思いますが、日本全国の「渡ナベ」さんの「ナベ」の漢字のバリエーションは極めて多く、100種類を越えるとも言われています。その「ナベ」のメジャーどころ24字体がそれぞれ2枚ずつのペアになっていますので、神経衰弱の要領で遊んでみよう、というゲームとなっています。字体がそれぞれどんな特徴を持っているか、という解説をしてしまうとネタバレになってしまういますので、そこはぜひ皆さんで確認してみてください。また、これも皆さんご存知のように、本学の学長は渡ナベ浩文先生です。学長先生のナベの字は、どれでしょうか。本学ウェブサイト学長挨拶のページから確認できますので、ぜひご確認ください。

図4: 渡ナベ学長の「ナベ」はどれ?
さて、ちょっと研究に近い話もしていきましょう。わたしの研究室では、コンピュータを使った研究をしているのですが、コンピュータを使う上で避けることができないのがプログラミング、プログラムを書く作業です。プログラミングは大変な作業でもありますが、楽しい一面もあり、古くからプログラミングに関連した「遊び」が行われてきました。その中の一つで有名なものとして WhiteSpace というプログラミング言語があります。これは、ホワイトスペースとタブ、改行だけでプログラムを書くというプログラミング言語で、印刷してみると真っ白けだけれど、ちゃんとプログラムとして動作する、というものです。実用性は皆無なので、あくまでもジョーク、お遊びとしての存在です。それなら、ホワイトスペースやタブの替わりに「ナベ」を使って遊んでみましょうかということで、「ナベ」言語とまではいかないのですが、「ナベ」エンコーダーなるものを作ってみることにしました。
「ナベ」エンコーダーはあらゆるファイルを「ナベ」の並びに暗号化してしまうというプログラムです。上で紹介したカードゲームでは「ナベ」を24字体使っていますが、わたしたちが普段使っているコンピュータやスマートフォンですんなり使うことができる「ナベ」は23種類のようです(UTF-8 や Shift-JISと呼ばれる文字コードに完全に登録されているものは「辺」「邉」「邊」の3種類ですが、主に日本向けの異体字が20種類ほどあります。これら20種類は表示できない端末もありえます)。ということで、ここでは23種類の字体を使って、作ってみましょう。
例えば、
皆さん、わたしが鈴木です。
という中身のファイルを「ナベ」エンコーダに渡すと、
邉邉邉邊邊邉辺邊邊邉邉邉邉邉邊邊邊邉邉邊邊邉邉邊邊邉邊邊邊邉邉邉邊邊邉邉邉邊邉邊邊邉邊邊邊邉邉邉邉邉邊
となります(端末によっては表示できていない文字があるかも)。文字が23種類しかないので、少し長くなってしまいますが、こんなふうに暗号化することができます。この暗号化「ナベ」ファイルを「ナベ」デコーダ(解読器)に渡すと、元の「皆さん、わたしが鈴木です。」に復号することができました。
かつては、このようなお遊びプログラムを作ると、ざっくり半日くらいかかって、ちょっとした暇潰しを兼ねた頭の体操にもなっていたのですが、今回、AIにお願いしてみたら、ちょこちょこっと指示をして、10分くらいで作ってもらえてしまいました。プログラマとしての人間の仕事が今すぐにでも無くなってしまうんじゃないかと心配にもなるところですが、今のところは「適切な指示を出す」というところと、全体の構成を組み上げるところはまだまだ人間のお仕事として残されている状況です。
「ナベ」エンコーダが簡単にできてしまったので、同じようにして、いろいろな字体があるサイトウさんの「サイ」でも作ってみて、とお願いしてみることにしました。「サイ」で簡単に使えるのは「斎」「斉」「齋」「齊」「齎」の5種類です。
同じファイルを「サイ」エンコーダで暗号化すると
斉齎齊齋齊齊齋斎齊齎齊齎齎齊斎齊齎齎齋齋斎齎斎齎齋斉齊齋斎齊齎齎齋斉斉斎齊齎齎斎斉齊斎齊齎齎斎斎斎斎齊齎齊齎齋齎齋斉齎齎齋斎齊斉齊齋斉斉斉齊斎齊齎齎斎齊斉斎齊齎齎斎斎齋齎斎齎齋斉齊齎
のようになりました。「ナベ」エンコーダよりも使える文字種が少ないので、さらに長くなりました。情報工学的に言うなら、文字が23種類だと23進数でのエンコード、文字が5種類なら5進数でのエンコードになるので、同じ情報量でも桁の数が変わってくるんだよ、というところです。
今回 AI にプログラムを作ってもらった際に、ただプログラムを作るだけでなく、「これらはいわゆる”ナベ”の漢字の異体字で、視覚的に判別が非常に難しいため、一見すると同じ文字が並んでいるように見える非常にユニークな出力になります。」なんていう気の効いたコメントまで添えられてきて、もう AIが冗談を理解できる時代になっていることを感じさせられました。

鈴木 健一 教授
2008年度から本学の情報通信工学科、情報通信工学課程に所属しています。分野は計算機科学で、主にコンピュータのメモリシステムを研究してきました。メモリには、大容量と高速性という相反する性能が求められるので、そこに難しさがあります。最近はAIブームの影響から、メモリの市販価格が高騰し、注目も集まっているところです。
計算機設計工学研究室
コンピュータを持ったシステムの開発を中心に研究しています。コンピュータがひとや社会の役に立つためには、ハードウェア(ものとしてのコンピュータ)だけでなく、ソフトウェア(プログラム、アプリ)が必要です。逆に、ソフトウェアを効果的に使うためには、ハードウェアのサポートや開発が必要になります。このソフトウェア、ハードウェアの両方を使った研究、開発に取り組んでいます。