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2024 WCEEに参加してきました

VOL.073 権 永哲(都市マネジメント学科)

都市マネジメント学科の権です。リレーエッセイを依頼されてネタをどれにしようかと迷っている時に今年度の7月に開催される2024WCEEに参加する予定があったことに思いつき、研究紹介を兼ねてこの国際会議への参加について書くことになりました。

さあ、行きましょう。

 今回、参加した国際会議は、World Conference on Earthquake Engineering(WECC)という会議です。WCEEは、地震工学に関する研究成果を発表する場として、1956年第1回の会議がアメリカのUC Berkeleyで開催された以降、今回が第18回目になる全世界規模の会議であります。直前の第17回の会議がここ仙台で開催されましたが、コロナ禍の中、準備が大変であったと聞いております。今回第18回大会は、イタリアの北部都市ミラノで開催されることになり、現地に着いてから聞きましたが、世界各国から約4,000人の研究者が参加したとのことでした。

 ここからはミラノまでの旅程を紹介します。
 まず、この旅はものすごく長かったです。ミラノ行きは東京から出発する方法と仙台から出発する方法がありますが、私は、韓国ソウル経由の飛行便を選びました。値段的にも安かったし、生まれ故郷の韓国ソウルでストップオーバーも魅力的でしたので、こちらがよかったです。十数時間の滞在でしたが、久しぶりに韓国料理も楽しむことができ、長い旅の前哨戦としては、ベストチョイスでした。ただし、この経路ですと、仙台→ソウル→ローマ→ミラノの旅程で仙台を出てミラノまで2泊3日がかかります。
 6月30日は、本番であるソウル→ローマ間の約13時間のフライトが始まることになりましたが、ソウルで少し体調を崩したため、長い旅がとても心配でした。結果としては、倒れる直前に到着したという感じで、時差ぼけも加わり、ローマTermini駅前のホテル到着後には爆睡になりました。しかし、ここはローマです。コロナ禍直前に家族旅行でローマを訪れた以降、数年ぶりでしたし、ミラノ行きの特急列車の出発まで少し時間がありましたので、ローマ市内をランニングすることにしました。異国の街並みを走ることはとっても素晴らしい経験ですし、早朝でしたので車もあまり通らない中、Termini駅→コロッセオ→トレビの泉→Termini駅を一周して計6kmほど走りましたが、長い旅の末に気持ちよく走ることができました。

なんとか辿り着いたローマ中央駅のTermini駅

早朝のコロッセオ。私が行った時には、工事中のところが多くありました。

トレビの泉。 朝6時過ぎ頃でしたが、既に人でいっぱいです。

 ミラノに着いた翌日からは、学会に参加する日程でした。まず、私の発表は、2日目の午後となり、初日は地盤関連のセッションに参加しました。
 今回の発表内容を説明する前に、まず、私の専門分野は、土木工学、その中でも地盤工学、また、その中でも粘土系の土、その中でも圧密ということですが、結論から申し上げますと、地震工学とは少し距離がある分野です。日本留学を決めたきっかけは、研究内容を粘土から砂へ、土の静的挙動から動的挙動に変更したいことでしたが、結局のところ、修士論文と同じく粘土の圧密というテーマで博士論文を書くことになりました。そこには長い話がありますので、それはさておき、私は地震工学を専門にしてはいませんが、数年前に東北大学の風間先生(私の指導教員)からお声かけ頂いて、液状化の可能性がある地盤を原位置で見つけ出す「繰り返しプレッシャーメーターテスト」の開発を一緒にやってみないかということでしたので、迷いなく手をあげ、共同研究者として参加することになりました。この研究が始まってから今年で5年目ですが、その成果を発表することが今回のWCEEに参加した主な目的となります。

会場の前で一緒に参加した東北大の出席者とともに

 繰り返しプレッシャーメーターテスト(Cyclic Pressuremeter Test, 以下、CPMT)は、地震による液状化の可能性がある地盤を見つけ出し、地盤防災・減災に貢献しようとする目的で研究が始まりました。地盤液状化というのは、地下水以深に緩く堆積している砂地盤が地震動を受けると、一時的に液体のように相変化し、多大な被害をもたらす代表的な地盤地震被害です(動画1)。今年の元旦に発生した能登半島地震によっても地盤液状化による流動で建物の転倒や道路の隆起などが起こりました。能登半島地震だけではなく、東日本大震災、阪神淡路大震災、新潟地震など、今まで大震災が起こると必ずと言って良いほど、頻繁に地盤液状化が起こりますので、地盤液状化の可能性を原位置地盤で正しく評価する技術の開発は必須とも言えます。

動画1.権研究室で行った液状化再現試験。湿った砂に振動を加えると砂地盤が液体のように変わることがわかります。

 今回の発表のテーマであるCPMTは、2020年度から始まり、大学は東北大学・東北工業大学・前橋工科大学、企業からは株式会社中央開発、研究機関からは防災科学技術研究所・港湾空港技術研究所が参加して研究活動を行っています。CPMTについて、簡単に説明すると図1のようにProbeという装置を地中に挿入し、水の注入・排水を繰り返し、地盤に地震動を発生させることが基本的なアイディアです。言い換えれば、液状化が発生するかしないかを知りたい地盤にこの装置を入れて人工的に地震を起こして、その結果から本当に地震が発生した時のことを予測することです。Probeを膨らませて地盤調査をする技術は従来からありましたが、注入・排水を繰り返しながら地盤の動的特性を評価しようとする技術は今まであまりなく、そこに研究のオリジナリティがあります。

図1.繰り返しプレッシャーメーターテストの実験概要

 昨年の夏休みの時に書いた8ページ論文を投稿し、今回の発表に至りました。発表のセッションでは、University of BristolのDr. Dimitris Karamitrosがconvenorを務め、私の発表は、そのセッションのトップバッターでした。対面での発表は結構久しぶりで少し緊張もしましたが、発表が始まったら10分の発表時間があっという間に終わりました。

発表会の様子

 今回の会議では、女性研究者の参加が目立ちました。特に地盤動力学分野のKeynote Lectureは、アメリカのUniversity of Texas, AustinからDr. Ellen M. Rathjeが「Regional-Scale Seismic Landslide Assessments for Distributed Infrastructure Systems」を発表しましたが、内容の興味深さに加え、とっても余裕のある、また、冗談を交えながら発表する様子が印象的でした。

Dr. Ellen M. RathのKeynote Lecture

 ここまでです。また、仙台に帰ってきてからは、また時差ぼけに苦しみ、数日は生活リズムを取り戻すことが非常に難しかったですが、久しぶりの国際会議への参加でいろんな意味で刺激となったと思います。今年度も今回発表した研究内容で能登半島の調査などを予定していますので、また、研究発表会に出席することを考えております。

権 永哲 教授

出身は韓国。日本留学を決心して渡航したのが2001年のことでした。学位課程が終わってからは、港湾空港技術研究所でPD,韓国に帰国して韓国建設技術研究院、KCU大学で研究・教育活動をしている中、本学と縁がつながり、2017年から都市マネジメント学科の教員として勤務しています。

権研究室

専門は地盤工学です。全ての構造物は地盤の上に建設されていますが、その地盤をいかに強く作るか、あるいは、どこの地盤がより強いかを見つけ出すのが主な研究です。長年研究してきたのは、水を沢山含む飽和粘土の長期沈下挙動がメインテーマですが、砂地盤の地震被害である液状化地盤の早期発見の目的とした研究を始めたのが5年前のことです。地盤液状化のテーマは、東北大をはじめ、大学・研究所などの共同研究機関とも交流をしながら研究成果を共有しています。また、研究ツールとして機械学習を入れて、不確実性が高い地盤工学分野で今までとは異なるアプローチで、ものことを理解しようとしています。

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