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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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私の海外研究生活と為になった経験

VOL.071 富田 勲(情報通信工学科)

いつか海外で研究生活を送ってみたいと思っていたものの、なかなかチャンスがなく、40歳も過ぎたある時(高専時代)、応募型在外研究の機会を目にして早速応募。見事当たって、英国グラスゴー大学に1年間滞在しました。

受け入れ先を探す必要があり、フォトニクス分野で著名な同大工学部フォトニクス講座のD. ハッチングス教授へ受け入れを打診。CVと業績リストを添付した電子メールを送る時にはやや緊張。それほど返事を期待しなかったものの、3日後に返信が来て少しやり取りした後、OKの返事をもらいました。話が思ったよりスムーズに進んで拍子抜け。

形式的なものとして学部長J. マーシュ教授の承認がいるので、大学からのインビテーションレターの送付は少し待って下さいとの添え書きがありました。それからさらに10日位してマーシュ教授から正式な受け入れ状が届き、一安心。ただし、この時点では、1年間の滞在ビザの取得方法など、ろくに調べもせずに話を進めたため、あとで大変なことに。

講座ボスのハッチングス教授は、学生時代に飛び級を繰り返し、24歳で博士号を取得した俊英。日本で言えば修士1年次修了で博士号を取得したことに相当。ご本人はそうしたことには無頓着で、私にはいつもフランクに話してくれました。

これまでそういう人にお目にかかったことがなかったので、いわゆる天才的な人というのはどういう人なのか興味津々。議論の最中、問題点が出てきたら、どう対処するのか?電光石火の速さで解答を提示するのか?失礼ながら解答そのものよりもそうした点に興味を持っていました。

そして、その時が来て、驚きました。問題を目にするやいなや、心ここにあらず。ただし、頭の中での凄まじい思考の流れは感じられ、解決案が出るまでその状態。目の前に誰が居ようがお構いなし。爾来、天才に関しては、以前と少し違った印象を持っています。どうも頭の回転の速さというより我を忘れて没頭できる能力の事のようです。

その他、研究室では右腕のB. ホームズ博士が学生に張り付いて研究指導をしていました。君も加われというので行ったところ、カルチャーショック。ホームズ博士と学生が装置の所へ行ったので実験を始めるのかと思ったら、その前で延々と議論。こういう事をやったらどうなるか、別のこういう事をやったら結果はどうなるかなどと長々とディスカッション。学生がそれについて自分の予想を述べ、博士はそれにはこういう事も生じるだろうなどと指摘。すると、学生はそれならこれはどうでしょうかと考えを修正。私も幾つかアイデアを述べましたが、検討に挙がった項目は1つや2つではなく膨大な数。徹底的に考え方をトレーニングする教育でした。日本では、WhyよりもHowに応える教育のようで、技術は身に付くものの、思考力を鍛えるには自分で余程気を付けていないといけないと感じました。

また、英語圏に住めば、英語が自然に上達するという誤解。夢も英語になり、朝起きると、口から自然に英語が出るようになるというのは神話。また、ある記事で読んだリスニング力とスピーキング力には‘相関’があり、スピーキング力はそれでおよそ測れるのでTOEICなどでもスピーキングのテストは実施していないというのを真に受けていました。実は‘相関’係数に個人差があるのです。耳から入る英語量が増えるので問題ないだろうと思っていたら、ある時大して上達していないことに気が付き、あわてて教会へ。これは神にすがったというのではなく、現地で知り合ったスペイン人に聞いたら、教会でボランティアで英会話を教えているというので、行った次第(ただしスコットランドなので、かなり特殊な英語が上達!)。

研究面では、フォトニックネットワークを高スループット化する半導体超格子波長変換デバイスの研究が順調に進み、帰国後に論文を出版。天才ハッチングス教授、教育者ホームズ博士、重鎮マーシュ教授にはたいへん感謝しています。

富田 勲 教授

専門は、フォトニックネットワーク向けのデバイス・テクノロジー研究。早稲田大学で博士号取得後、NTTフォトニクス研究所、岐阜工業高等専門学校を経て、本学の教授として勤務。この間、英国グラスゴー大学、サウサンプトン大学、豊橋技術科学大学、北陸先端科学技術大学院大学と連携。

富田研究室

インターネットの普及により身近となったフォトニックネットワークでは、光ファイバー内をブロードバンド光信号が伝搬しています。このような広帯域光の発生技術に加えて、光の信号を電気に変換せず、光信号のまま行先変更し、波長帯も変更してネットワーク内で信号衝突や渋滞のない光伝送を実現する技術を研究しています。フォトニックネットワークは現代の情報化社会を支える重要なインフラであり、大容量・高速化技術の研究を推進しています。

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