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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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数学と感覚

VOL.063 齋藤 隆太郎(建築学科)

徒然なるままに、本能的かつ備忘録的に、このリレーエッセイを利用させていただこうと思います。私の仕事は建築、趣味の1つが数学です。こう書くと少しおこがましいので断っておきますが、今更大学入試の難問数学を解こうということではなく、少しだけ人生を豊かにしてくれる数学の世界に興味があります。もちろん建築と数学の関わりが多様であるからに他なりませんが、例えば幾何学を2次元的3次元的に捉える能力は、豊かな建築空間を思考する上でとても重要であり、構造力学の分野では∫f(x)dxにより、建築にかかる荷重を求めます。tanθは建築の美しさを決定する要素の1つである屋根勾配を表します。ただこうした建築と数学の関係性を話すと枚挙に暇がなく、建築雑誌や学会誌に寄稿するような内容になってしまうので、今回は私の数学への興味を裏打ちする建築を省き、よりピュアに、数学の面白さに触れたいと思います。そこで今回は「数学と感覚」と題し、数学と人間の感覚との間には意外なズレがあり、それが実に示唆に富んだ教訓的要素を帯びていることを、3つの数学的パラドックスを例に挙げてお話します。個人的には、後ろで紹介するパラドックスほど、役立つものと思います。

1:誕生日問題
1つ目は「誕生日問題」という有名なパラドックスです。1クラス40名の学級で、1組でもよいので同じ誕生日の人がいる確率は何%か、という問題です。学生に感覚的に答えさせると、365日選べる条件下で40人しかいない訳であるから、だいたい0.5%とか1%とか、多くても10%程度の回答が返ってきます。
答えの求め方としては、余事象、つまり40人全員が違う誕生日である確率を1から引けばよいわけですが、実際に確率を計算すると、1-365/365×364/365×363/365…というように、分母は365固定のまま、分子が365、364、363…と減少していき、40人分計算すると正解は89.1%と、ほぼ90%に近い確率であることがわかります。ちなみに1クラス23名から50%を超えてきます。皆さんの感覚とのズレはいかがだったでしょうか。私も実際に40~50人単位の学生を指導する際に実践することがあります。今まで6,7回くらいでしょうか、必ず同じ誕生日の人がいました。※実はその確率、結構低いのです…。運がよかっただけかもしれません。
おおよその計算式:0.9n=0.478=47.8%(n=7)

2:モンティ・ホール問題
2つ目はモンティ・ホール問題という、これまた有名なパラドックスです。A、B、Cの3つの扉があり、どれか1つが「当たり」、その他2つは「はずれ」という条件の下、皆さんはまずどの扉が当たりか推測してください。ここでは仮に皆さんはAを選んだとします。その後、私は出題者なので答えを知っているため、Cは「はずれ」です、と皆さんに伝えます。さて、ここで問題ですが、「当たり」の扉を開けるために、皆さんは初志貫徹Aの扉を選んだ方がよいか、はたまたBに鞍替えした方がよいか、どちらでしょうか。殆どの方は、AもBも確率的には半分だから、AとBのどちらを選んでも「当たり」が出る確率は変わらない、と答えるでしょう。確かにAとBのどちらかが「当たり」なのは間違いありません。しかし、答えは「Bに鞍替え」した方が当たる確率が高くなります。これは端的に言えば「確率は変動しない」ことに起因します。つまり皆さんが最初に選んだAは当たる確率1/3で、これは未来永劫変わらないのです。ここで私がCを消去したため、次の選びなおしのチャンスではAとBの2択となり、Bが当たる確率は1/2となります。わかりやすく100個の扉で考えると、皆さんが選んだ扉Aは、当たる確率1/100で、殆ど期待できませんよね。そこで私がAとBを残して98個の扉を消去します。そうすると間違いなくBに鞍替えした方が得だとわかります。このように、選びなおしが求められる局面では、自身の感覚と確率(数学)とのズレで、誤った選択をしてしまう可能性があるのです。

3:1%ガチャ問題
最後は1%ガチャ問題です。最近はスマホのアプリ等でよく「ガチャ」という言葉を耳にします。いわゆるレアアイテムが欲しいために、課金してガチャを引くことが社会現象にもなっています。さて、それではガチャを100回引いて1回しか当たらない、つまりガチャ確率1%のレアアイテムがあるとして、このガチャを100回引いたら何%の確率でお目当てのレアアイテムを獲得できるでしょうか。ここで問いたいのは、そのレアアイテムを獲得する期待値に比べて、100回ガチャを引くために課金する価値があるか、ということです。この問題も殆どの方が、感覚的に90%以上と答えてくれます。中には100回引くのだから100%当たる、そうでないと困る、と自身の期待を込めた回答をしてくれる方もいます。
これも余事象で計算でき、100回ガチャを引いて全部外れる確率を1から引くことで求められます。計算式は1-(99/100)100となり、答えは約63.4%となります。つまり、1/100で当たるガチャを100回引いても、レアアイテムを1つでも獲得できる確率はたかだか(というと主観が入るが)6割ちょっと。およそ4割弱の人はガチャを100回引いても1回も当たらず涙を飲むわけです。この結果を皆さんがどう捉えるかも感覚次第ですが、この確率パラドックスを使い、魅力的なレアアイテムでユーザーを巧みにガチャへ誘導するゲームメーカーは、実に狡猾的であるといえます。もしお子様が携帯ゲームにはまり、課金の度を越えた際、このパラドックスで諭してあげてはいかがでしょうか。もちろんご自身の戒めのためにも…。

齋藤 隆太郎 講師

主な専門は建築設計、建築計画です。東京で自身の設計事務所(DOG)を主宰し、教職においては本学建築学部建築学科講師の他、東京大学客員研究員を務めています。教育・研究・実践(設計)の3本柱を主軸に活動しています。

齋藤研究室

研究室で最も重視するのは「実学としての建築計画とデザイン」です。つまり、構想→計画→設計→施工→管理・運営といった一連の建築ワークフローを念頭に置き、主に構想~設計までの初期フェーズにおいてより豊かな建築空間創出のために、建築計画的視点から多角的に課題を抽出し、問題提起、提案、解決へと導くためのさまざまな研究および実践を展開しています。

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