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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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週末林業の思い出

VOL.060 栗原 広佑(生活デザイン学科)

学生と話をしていると、アルバイトの話題になることが少なくありません。どんなバイトしているの?と聞くと、コンビニ、飲食店、ドラッグストアなど十人十色です。逆に、学生の頃どんなバイトしてたんですか?と聞かれることもあります。私は山でバイトしてたよ、と答えると、大体?マークが学生の頭上に浮かびます。山でバイトって…?内容は色々だけど、木を伐ったり植えたり手入れをしたりと、いわゆる林業みたいなものです。こう説明しても、まだ?マークは浮かんだままです。こんな調子で毎度説明に窮してしまうのですが、この度頂いたリレーエッセイの機会をお借りして、このことについて少しお話をしたいと思います。

私の専門は建築学であり、特に木造建築や木材利用に軸足をおいた研究が得意分野です。学部から大学院まで茨城県にある筑波大学で学んでおりましたが、木造を専門とする先生からの影響や、大学周辺に伝統民家などの在来的な木造建築が数多く残されていた事が影響していたかと思います。

大学院生の頃、「林業の六次産業化」に興味を持ち、各地の製材所や材木店にヒアリング調査でお邪魔していた時期がありました。ここでいう六次産業化とは、器などの木製品を対象としたものではなく、木造住宅を対象としたものです。しっかりとした統計調査は行なってはおりませんが、もともと林業や材木店、製材所を営んでいた会社が木造住宅の設計施工まで事業を拡大するケースは珍しくなく、日本各地で見かける事ができます(〇〇林業の家、とかありますよね)。とある材木店では、跡取りの長男は経営学科に、次男は建築学科に進学させるのがある時期に流行ったんだ、という話を伺った事があります。

さて、山があって材木もあって住宅の設計施工まで手掛けていたら、さぞ良い商売ができているのではないか、と思われるかもしれません。しかしながら、話はそう単純ではなかったのです。調査を進める中で多くの会社から聞かれたことは、本当は山の手入れもしたいのだけど、そこまで人件費をかけられない、時間もない、という事でした。ここではかい摘んだ説明しかできませんが、林業という数十年のスパンで取り組む仕事と、概ね1年前後の期間内に取り組む住宅の設計施工という仕事では、かけられる労力の差が大きく、一つの会社がいずれも手がけるのは大変ハードルが高いようです。ここで、当時貧乏学生生活をしていた私にとっては不謹慎にもチャンスに映りました。とある製材所での調査の折に、それならば週末に見習いでいいので山仕事のバイトをさせて下さい!と頼んだら、まさかの快諾を頂きました。こうして、本来の目的から脱線しつつも、晴れて週末限定の林業見習いとしての生活がスタートしたのです。


見ず知らずの大学院生を見習いとして受け入れてくださった製材所は、規模は小さいながらも、自社山林があり、もちろん各種製材機もあり、木材の小売から木造住宅の設計施工まで請け負う「何でもあり」の会社でした。なので、植林や下草刈りといった山仕事も、出荷する木材の選別や桟積みなども、時には住宅の建方の手伝いまで、何でも経験させてもらいました。何より、本業の研究が行き詰まった際の良い気分転換になりましたし、長年山や木に向き合ってきた親方から教えてもらう現場の知識が刺激的でした。ここで働いていなければヒノキとサワラの見分けもつかなかったでしょうし、板材の反り方のクセも覚えられなかったと思います。


とはいっても、もちろん良いことばかりではありません。苦しい作業も沢山ありますし、大げさですが、時には命懸けの作業となる場面もあります。今思い返してみると、夏の下草刈りは本当に大変でした。


下草刈りとは、植えたばかりの背が低い樹木に日光が届くよう周囲の草を刈り倒す作業で、植林後の約1〜3年後まで行います。庭の草刈りとは段違いのスケールであり、作業そのものが炎天下の中で延々と行われるのでハードであることに加え、スズメバチに襲われる危険も付き纏います。スズメバチは山林内では地上付近の低い藪の中に巣を作るケースが多く、草刈り中に思いがけず巣に突っ込む事があります。とあるマンガで「一生でスズメバチに2回刺されると危ない」という知識をつけていた私は恐る恐る草刈りをしていたところ、隣で作業をする親方は度々スズメバチに刺されていました。えっ、大丈夫なんですか?そう聞くと、とにかく痛いけど大丈夫だ、との事でした。もちろん痛いのも嫌なので、気をつけつつ私は一度も刺されずにシーズンを終える事ができましたが…

伐った原木の集材もまた大変な仕事でした。集材には山林内にワイヤーロープを架線しシステマティックに行う方式もあるのですが、私の勤め先はそこまでの設備は有しておらず、伐った木にワイヤロープを引っ掛け、ウインチで山の下から引っ張るという方式をとっていました。


伐った木にワイヤーロープを引っ掛ける作業はもちろん人力であり、つまり山の登り下りをダッシュで1日に何度も行うという過酷な作業でした。もともと体力に自信がある方ではなかったのですが、この作業で随分鍛えられたと思います。

林業とはチェーンソーで木を伐り倒す仕事、というイメージを持っていた私にとって、それはほんの一部であり、伐倒に至る過程と伐倒後の過程に多大な労力が必要である事を学べた貴重な機会になりました。


写真は2019年の2月に造林した山です。そろそろ3年になりますが、どれほど育っているだろうか、とふとした時に思います。木を植えるという行為はその土地との関係性を結ぶという行為だと感じます。これは、建物を建てる事と似ているかもしれません。もう数年すれば枝払いの時期を迎えます。落ち着いたら、仕舞っていた山道具を引っ張り出して手伝いに行きたいな、と思います。

ところで、宮城県内にも沢山の製材所や材木店があります。学生の皆さんも、もし興味があれば飛び込んでみるといいかもしれません。きっと若くて元気な力を歓迎してくれるはずです。くれぐれも、夏の山ではスズメバチに気をつけて下さい。

栗原 広佑 講師

専門は建築設計と建築環境設備工学です。「森林資源の地産地消」をテーマとして、建築材料としての地域材利用や、薪ストーブ等の燃料利用時に形成される室内温熱環境について調査研究を行っています。また、東北地方各地を対象とし、伝統的な民家や集落における環境共生手法に関する調査研究を行っています。

栗原研究室

森林資源をはじめとする身近な資源の利活用や伝統民家・集落から学ぶ環境共生手法をテーマに、環境共生型の建築に関する調査研究や提案を行っています。

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