東北工業大学

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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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研究紹介

VOL.047 菊田 貴恒(建築学科)

リレーエッセイ・・・2021年6月中旬に入試広報課から原稿の依頼があり、非常に困りました。エッセイとは何を書いたらよいのか・・・・・・・・非常に悩みました。悩んでいると締め切り2日前になってしまい、これ以上悩んでいてもしょうがないのでこの機会に簡単な研究紹介をしたいと思います。

■セメント系材料の弱点を克服し、長寿命化を実現
 コンクリートをはじめとするセメント系材料は、引っ張りに脆い性質があります。コンクリート構造物の寿命や安全性をさらに向上させるには、靱性能、つまり粘り強さを持たせる必要があります。その粘り強さを付与する一つの方法が、化学合成繊維や金属繊維などの混入です。研究室では、要求される強度、粘りに応じて複数種の繊維を混入したハイブリッド型繊維補強セメント系複合材料の材料設計法を追究しています。また、最近ではこの繊維補強セメント系複合材料の研究をベースとし、地球環境に配慮した超高断熱モルタルなどの材料研究も進めています。

エアロゲル入り超高断熱モルタル

■セメント+先端材料で無限の可能性
 近年、注力している研究が、カーボンナノチューブやセルロースナノファイバーなどの微細繊維の複合効果についてです。従来は長さ30㎜程度の長繊維と10㎜前後の短繊維を複合混入した研究を行っていたましたが、施工性を考慮すると繊維の混入量に限界があり、最大引張強度も14~18N/mm2程度が限界でした。これに対し、微細繊維を加えることで引張強度や靭性能を飛躍的に高めることが可能であることが研究からわかってきました。
 ひび割れはナノレベルから発生して、徐々に見えてくるマクロの状態に成長していきます。しっかりしたひび割れ補強をしようとすると、ナノレベルから考える必要があります。微細繊維と、長繊維や金属繊維などを適切に組み合わせ、コンクリート内部における多段階型のひび割れ補強方法について注目して研究しています。

モルタル中に分散したカーボンナノチューブの電子顕微鏡画像

■恩師との出会いが研究の出発点
 ハイブリッド型繊維補強セメント系複合材料については博士課程時代の恩師である三橋博三教授(東北大学名誉教授、元東北工業大学教授)と一緒に進めてきた研究テーマです。三橋先生はコンクリートのひび割れと破壊の力学分野において世界的に有名な先生でした。その先生から、博士課程に進学した際に「繊維補強セメント系複合材料に関する研究をやらないか」と提案していただき、正直、その時点では何の研究なのかは全く理解していませんでしたが、二つ返事で「やります」と答えたことがこの研究を始めたきっかけです。この研究を始めるまではセメント系材料に強い関心があったわけではないのですが、いざ研究を始めると、ほんの少しの材料構成の違い…たとえば料理でいったら、塩を少々入れる程度の感覚で劇的に性能が変化することがあり、ドラマチックな材料性能の変化が非常におもしろく、毎日のように調合設計を考えては、実験を繰り返す、という研究の日々を今も続けています。
 セメント系材料の研究は、使用する材料により無限の組み合わせがあります。したがって、その無限にある材料の組み合わせの中から最適な組み合わせパターンを見出す楽しみや、A材とB材を組み合わせるとなぜ非常に高い強度が発現するのか、など、さまざまな材料による複合効果などのメカニズムを解明するおもしろさがあります。

■学生と共に新材料の探求
 コンクリートとはこう言うものだというこれまでの固定概念に囚われず、様々な材料との複合化を探求し、まったく新しい「超高性能なコンクリート材料」の実現を学生の皆さんと共に楽しく進めていきたいと考えています。

菊田 貴恒 准教授

福島県出身
2020年4月から建築学科の准教授としてお世話になっております菊田貴恒です。東北工業大学の学部、博士前期課程を卒業、修了し、2010年に東北大学で博士の学位を取得しました。その後は、東北大学大学院の助教、日本工業大学の准教授として勤務し、13年ぶりに東北工業大学に戻ってまいりました。よろしくお願いいたします。

菊田研究室

菊田研究室ではコンクリートのひび割れの発生・進展メカニズムを明らかにすると共に、より長寿命なコンクリート建築物の実現を目指し、コンクリートに様々な新材料を複合化させ「ひび割れを制御する」研究を進めています。例えば、コンクリートに高張力の化学合成繊維を複合化させることで、しなやかに曲がるコンクリート、言い換えればより大きな地震エネルギーでも致命的なひび割れが発生しない長寿命なコンクリートなどの研究を行っています。

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