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私の研究遍歴

VOL.043 河内 聡子(総合教育センター)

今年度(2020年)から総合教育センターに講師として着任することになりました河内聡子(かわち さとこ)と申します。この度は、同じく新任としてお越しになった髙野先生よりリレー・エッセイのバトンを承り、執筆することとなりました。

折角いただいた貴重な機会ですので、自分の研究のことを少し紹介させていただこうと思います。私の専門は「文学」であり、本学でも「表象文化論」や「東北文化史」など人文系の科目を担当しておりますが、授業の中でもなかなか触れることができない、研究の実践および成果について、具体的な事例に基づきながらお話していきます。

専門は「文学」、研究しているのは雑誌『家の光』

私の主な研究対象は『家の光』という雑誌です。もしかすると「文学の研究で雑誌?」と思われる方もいるかも知れませんが、昨今の文学研究は、イメージとして持たれやすい作家・作品の分析だけではなく、文字や言葉を基盤とした表現一般を対象化しうる学問として、より幅広いジャンルを研究する領域となっています。そのため、雑誌だけでなく、中にはアニメや漫画といったサブカルチャーをも視野に入れた研究に取り組んでいる方もいるのです。

さて、私が研究している『家の光』とは何かというと、現在のJA(農業協同組合)が1925(大正14)年に創刊した農家向けの総合雑誌であり、昭和の前期には100万部以上の発行部数を誇った、日本の地域社会で最も普及した大衆メディアと言えるものです。私の研究では、『家の光』を分析することで、大正末から昭和前期にかけて、メディアの未開拓地であった農村地域に、いかにして雑誌の販路をひらき、読者を獲得していったのか、そして読者はそこからどのような情報を受容したのかについて考察しています。ある意味で、雑誌の流通網と読者層を獲得・拡大させていくためのマーケティングについて、1900年代初頭の日本をフィールドとして分析しているとも言えるのかも知れません。それにより、当然ながら現代とは全く違った方法の戦略があり、またその背景には様々な歴史的・文化的な事象が絡んで展開していたことが明らかになってくるのです。

 

大正末から昭和前期の『家の光』です。

 

研究方法のポイントは「量的な把握」

この研究において私が分析の基本として行っているのが、誌面情報の量的な把握、つまり「雑誌にはどのような情報が、どれほどの割合を占めているのか」を確認することです。

具体的な方法として、まずは雑誌の目次をExcelに入力し、文字情報として蓄積し、データ化していきます。そこから、キーワードとして多く挙がってくるもの、情報として大きな割合を占めるものを抽出し、雑誌の中で伝えられた内容として比重を持つのは何かを取り出していきます。もちろん、比重の低い情報にも目を向けますが、雑誌という情報量の多いメディアを分析対象とするためには、まず前提として情報のレベルを段階的に把握する必要があり、その上でマクロな目線とミクロな視点を交差させていくことが肝要だと考えています。それは、私が研究をする中で、対象の妥当性や蓋然性を保証するプロセスとして大切にしている方法の一つとも言えます。

 

研究のベースにある大学・大学院での経験

このような方法を私が研究の一つのスタンスとして執るようになった背景には、大学や大学院で経験したことが関係しています。

私が大学や大学院、そして今に至るまでの以後も通じて携わってきた研究プロジェクトの中に、「資料調査」というものがあります。「資料調査」とは、ある施設や機関が所蔵する書物や文書などの資料を整理し、調査するというものです。特に私が参加したのは「悉皆調査」といって、調査先が所蔵する資料のほとんど全てを対象とする手法を執るもので、膨大な資料群の整理をした上で、調査カードを作成し、それに基づいた情報をExcelに入力し目録化していくという作業を行ってきました。時には1万冊以上の資料を、数年にわたって整理・調査するという場合もあり、対象となる資料の年代も古いもので1000年近く遡るような貴重なものもありました。

これらの資料調査を主導して下さっていたのが渡辺匡一先生(信州大学)や門屋温先生(清泉女子大学)であり、調査の方法や文献の扱い方、情報の処理の仕方など基本的なところから学ばせて頂き、またそれを起点にして物事を考察するということが、自分の発想として身についていったように思います。先ほど述べた現在の研究についても、この「資料調査」を通じた経験がベースにあって、巨視的あるいは網羅的な情報を踏まえて分析するというスタイルが形成されたことは間違いありません。

調査対象の古典籍など。

 

「資料調査」の事例①―いわき市「如来寺」―

では、実際にどのような資料調査をしてきたのか、二つの事例の実践と成果について、具体的に紹介してみたいと思います。

一つ目は、ここ東北の福島県いわき市で行ってきたもので、「如来寺」という寺院を舞台にした調査です。如来寺は、鎌倉時代に開基された寺院で、室町期には浄土宗名越派の本山として栄え、檀林(僧侶の学問所・養成所)として全国に多くの学僧を輩出した、東北でも指折りの古刹です。仏教関係の文献を中心に、古くは1300年代から新しくは明治期に至るまで、3,500冊に及ぶ資料が所蔵されており、これらをいくつかの段階に分けて整理・調査していきました。まずは①蔵出し・虫干し・掃除、次に②仮番号を入れて、それに準じてカードを作成し、続いて③カードの見直しをしながら、目録データ(Excel)を入力、そして④資料を並べ替え、本番号を付し、蔵書票を貼る、というこの一連の作業が、20年近くの歳月をかけて行われたのです(そのうち私が参加したのは後半の8年ほどです)。

この調査によって、如来寺の資料の歴史的な価値が裏付けられ、その一部はいわき市の指定文化財として認定されることになりました。またそれだけでなく、資料を整理したことで、今後の保存・管理の体制もより整うことになりました。この調査は、地域の財産である資料が後世に継承されていくための基盤を作ることに寄与するものであり、学術的な研究の成果が社会に還元されるという実践的な事例とも言えるでしょう。

如来寺の調査風景。お堂の中で行い、時には地域の方と共に作業しました。

たくさんの書籍箱!資料の並べ替えをするため、書庫からお堂に持ち運んで作業しています。

「資料調査」の事例②―ハノイ「ベトナム社会科学院」―

もう一つ紹介したいのは海外での調査で、舞台はベトナムです。ベトナムの首都ハノイにある「ベトナム社会科学院」には、フランス占領時代に収集された日本語文献が多数所蔵されており、その調査を和田敦彦先生(早稲田大学)が中心となって実施するということで、渡辺匡一先生や中野綾子先生(明治学院大学)と共に参加させていただきました(2014年~)。

驚いたことに、そこにはおよそ11,000冊もの古典籍を含む日本語文献が存在し、中国など他の東アジア関連資料とともに、空調の利いた書庫の一角を占めて大切に保管されていたのです。ご存じの通りベトナムはアメリカとの戦争があり、ハノイも戦禍に見舞われたことが知られていますが、その激動の歴史を経た資料が数多く残されていたのです。それは話によると、戦災から資料を守るため山奥に疎開させるなど、関係者の方々の想像を絶する尽力によって果たされたものだということを知りました。

また、ここの日本語文献は戦争を経てきただけでなく、ベトナム特有の高温多湿な気候をもくぐり抜けてきた資料群でもありました。それもまた、資料を保管するための適切な環境を維持し、丁寧に防虫処理を施して下さった方々の尽力によります。調査をしていると思うことですが、資料は、そこに書かれてある内容も大切ですが、それらが人々によって守られ引き継がれていく経緯もまた、とても重要なことです。いわば資料には、中にも外にも、人間の歴史や文化が刻まれているのです。

ベトナム社会科学院の調査は、Excelによる目録化作業を中心に5年にわたって行われ、その成果は所蔵機関で利用されるとともに、国文学研究資料館やコーニッキ版欧州所在日本古書総合目録のデータベースと連携し、国内外でアクセス可能な検索システムの基盤となっています。

社会科学院での調査風景。左が渡辺匡一先生で、奥が私です。

現地の美味しいご飯を頂けるのも楽しみの一つ。これは、ベトナム中部の古都フエの郷土料理だそうです。

 

歴史・文化の未来への継承のために

以上、自分の研究について、その遍歴も含めて述べてきました。私は、これまで様々な研究を行い、調査に携わってきましたが、いずれにも基本的な姿勢として通底しているのは、資料の価値を恣意的な基準で決めるのではなく、より俯瞰的な視野で見定めること、そして、資料に基づいて得られる成果を、共有可能な社会的資産として還元するということです(もちろん、大学での授業も含め)。このような姿勢に基づき、東北を一つのフィールドとして研究および調査を行いながら、過去から未来へと歴史や文化が継承されていくための一助となるよう、今後とも努めていきたいと思います。

追記:なお、現在、個人的に作成している『家の光』の目録も、データベースとして公開すべく準備を進めています。細やかな成果ではありますが、これも一つの公共財となれば幸いです。

河内 聡子 講師

学位:博士(文学)
担当科目:表象文化論、東北文化史、アカデミック・スキル
研究分野:日本近代文学、雑誌メディア研究、リテラシー史研究
近代日本の地域社会におけるメディアの普及と受容に関する研究。主に、雑誌など大衆メディアについて、文学研究の立場から考察する。
また、近代日本の地域社会におけるリテラシー(読み書きの運用能力)の獲得に関する歴史的な研究も行う。
論文:「如来寺蔵『雑誌抜粋』に見る近代メディアの受容と利用―明治期における仏教知の再編をめぐって―」(『リテラシー史研究』13号、2020年)、「ベトナム社会科学院所蔵・旧フランス極東学院日本語資料調査―逐次刊行物の目録一覧からの検討」(『リテラシー史研究』12号、2019年)、「農民日記を綴るということ―近代農村における日記行為の表象をめぐって―」(田中祐介編『日記文化から近代日本を問う―人々はいかに書き、書かされ、書き遺してきたか』笠間書院、2017年)など

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