モジュラーシンセの魅力
VOL.038 長崎 智宏(クリエイティブデザイン学科)
クリエイティブデザイン学科の長崎です。幼少のころから音楽や身の回りの音がとても大好きで、業務や研究も音に関わりのある分野に進んでしまいました。今回は趣味の「モジュラーシンセ」をご紹介したいと思います。ひとことで言えば、音を作るための電子楽器です。楽器といっても、王道のピアノやギターとは違った側面があり、私はモジュラーシンセに出会ってから、その奥深さにすっかり夢中になっています。
モジュラーシンセってどういうもの?
映画に出てくる時限爆弾のような外見が気になりますが、少し歴史をご紹介します。モジュラーシンセは、電子回路で音を作ったり合成したりする研究の実験用機材として、主に大学や企業で使われていました。音を鳴らすには膨大な事前の準備が必要で、どちらかというとエンジニアのための楽器だったようです。当時の現代音楽や、アメリカ西海岸の文化と結びついて、既存の価値観に打ちこわすような、かなり実験色の強いワイルドなモジュラーシンセが作られていました。その後、ミュージシャンが演奏できるように鍵盤をつけて商業的に発展していきます。手間のかかるモジュラーシンセは80年代には廃れてしまいましたが、2000年ごろに復活し、いまでは世界的に注目されています。
モジュラーシンセの一番の特徴は、名前の通り「モジュール式」であることです。モジュールは、自由に組み合わせられる小さな機能や部品のことです。組み合わせが自由ということがポイントで、モジュラーシンセは、いくつかのモジュールを組み合わせてカスタムメイドの楽器を作ることができる規格、とも言えます。(余談ですが、私はこのモジュール式が大好きで、他の電気製品もみんなモジュール式だといいのに、と思います)
さらには、演奏するための「鍵盤」がありません。モジュールとしては存在しますが、鍵盤を使っても使わなくてもどちらでも自由です。モジュラーシンセが西海岸文化の影響を受けていることもあり、あまり「普通の音楽」をする気がなく、使う人が自分自身で使い方を見つけていくところも魅力です。それにしても、どうやって音を出すのでしょうか?
どうやって使うのですか?
モジュラーシンセで使われるモジュールは、ほとんどの場合、電源を入れるとすぐ作動します。そのため、例えば、音を出力する「オシレーターモジュール」があると、音が鳴りっぱなしになります。ですので、音を出すというより、どうやって音を止めるのか?という視点になります。もちろん、ボリュームを絞れば音を止めることはできますが、そこはモジュールに仕事をしてもらいましょう。音を止めるために、音量を制御するモジュールを使い、さらに制御のための電気信号を作り出すモジュールと組み合わせ、ブロックのように接続して音を制御します。ちょっと音を出して止めたいだけなのに、この手間!面白すぎてめまいがするほどです。
特に面白い動作として、「フィードバック」があります。これは、出力された信号を入力に戻すことで、信号がループし、制御できなくなる現象です。ビデオカメラの映像をテレビに映し、それを同じビデオカメラで撮る「ビデオフィードバック」が有名です。
一般的な機器では、故障してしまう場合もあるためフィードバックが起こらないようになっています。しかしモジュラーシンセは組み合わせ自由、かつ接続も自由ですので、フィードバックを積極的に利用できます。音が暴走したり(?)安定したり、予想のつかない音の変化は「生き物みたい」と言われることもあり、モジュラーシンセの魅力になっています。私もよくこのフィードバックを意図的に起こして、変化を楽しんでいます。
魅力はなんですか?
普段私たちが聞いているような音楽の演奏を楽しみ制作する場合、コンピュータを使う方が便利だと思います。私は業務や研究でも音楽制作をしますが、効率のためコンピュータを使ってしまいます。趣味の時間とはいえ手間のかかるモジュラーシンセの良さを改めて考えてみますと、予想外の音で遊んでいると様々なアイディアを思いつくことがあり、可能性を広げてくれる道具として、楽しんでいるのかも知れません。いつの日か、モジュラーシンセだけで仕事ができたらいいなと妄想しています。
趣味のモジュラーシンセについてご紹介しました。たまに研究室に持ってくるときがありますので、ご興味がある方は、ぜひご連絡ください!
長崎 智宏 准教授
研究分野:サウンドデザイン、デザインプロトタイピング
長崎研究室
サウンドデザインを通してプロダクトや生活環境の課題解決を目指しています。最近の主な取り組みは、先行開発分野においてプロダクトの意匠やコンセプトに合わせた操作音・機能音の研究を行なっています。