東北工業大学

リレーエッセイ つなぐ 教員から教員へ リレーエッセイ つなぐ 教員から教員へ

※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

HOME > リレーエッセイ > 探してます

探してます

VOL.031 大沼 正寛(安全安心生活デザイン学科)

♪探しものは何ですか
見つけにくいものですか
カバンの中も つくえの中も
探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか・・・
(井上陽水「夢の中へ」)

ええ、探す気です。歩きながら、あるいは創りながら。
東北の風土のなかで価値醸成する建築や環境造形。
研究室のテーマは以下の2つ。
素的なものを探し集める。
大切なものを造り育てる。
というと固くなるので、ここでは研究教育の話はやめて、最近の探しものを紹介します。

趣味のギターについて。もう学生にはバレているので白状しますが、学生時代からバンドを組んでいて、自主製作CDもけっこう作りました(その話はまたいつか・・)。

好きなギタリスト(バンド)を挙げれば、
a. ジェフ・ベック
b. ジミ・ヘンドリックス
c. キース・リチャーズ(ローリング・ストーンズ)
d. マーク・ノップラー(ダイア―・ストレイツ)
e. ローウェル・ジョージ(リトル・フィート)
・・・
など、次々に思い浮かびます。
まだまだ居るのですが、考えてみると、どうも変人が好きなようです。

aは、有名な3大ロックギタリストの1人。
2017年1月26日の仙台公演にはちゃっかり行きました。
(日々多忙さを振りまいているため、カミさんに白い目で見られ・・・)
もうシルエットはおじいちゃんでしたが、プレイは健在。目頭が熱くなりました。
1音聴けば、彼が弾いていることが分かる音質と抑揚、倍音とノイズ。
こんな弾き方に対応できるギターは、ネックが頑丈でなくてはなりません。
つまり持ったとき、ちょっと太いかまぼこ型の断面になるのです。
私は持っていませんが、ジェフベックモデルのギターはいろいろな楽器店で見かけます。

bは、ローリングストーン誌が選ぶ最も偉大なギタリスト第1位。
No.1の不世出ギタリスト(1942-1970)、まさに神。
左利きだけど、右利き用ギターでも弾けてしまうのです。
音程が逆になるはずなのに、押さえられるのは、イチローや錦織くんのようなものでしょうか。この燃えるギタリストはさらに、背中に持ったり、歯で弾いたり、ステージでギターに火をつけたり。先般の映画では、ヒューマンな一面が強調されていました。
ギターのことでいえば、そもそも低めの声に合わせ、まるごと半音下げのチューニングにします。つまり、6弦はEからE♭になります。これに影響を受け、これまた私の好きなスティーヴィー・レイ・ヴォーンも、半音下げを採用しています。

cも超有名。いまも続くロックンロール界のレジェンド。端的にいうと、いわゆる技巧派の対局にあるような人。下手と断言する人もいる。そう感じることもある。
でも、死ぬほど格好良い。実は楽曲やリフ(曲の中核をなすフレーズ)が素晴らしい。
彼のトレードマークは、オープンGチューニング。
アメリカ南部のブルースマンの影響ですが、普通は6弦からEADGBEと並べるのに対し、この方法ではDGDGBDとやる(6弦を外すこともある)。
つまり、何も押さえないでジャラーンとやれば、もうGコードになっている。
だからストレートで太い感じのバック演奏が可能になるのです。

dはこれまた、たまらなく渋い。ノックアウトされたのは中学生のとき。
30年聴き続けているけど、飽きない。バブルの時代に、拝金主義的なアーティストを皮肉ったというナンバー「マネー・フォー・ナッシング」もグッときます。
この人は、ピックを使わず、指引きで弾きます。
その指使いが巧みで、繊細で雄大で、間があって、仙人のようなギタリストだと思います。
おまけにボリューム奏法という、減衰ではなく増幅する方法も使います。
それを、ペダルという便利なエフェクターを使わないで、ギターのボリュームそのものを、弾きながら巧みにいじるのです。

そしてe(1945-1979)。リトル・フィートは、あまり有名ではないかもしれませんが、サザンオールスターズが結成時にめざしたバンド、という説も聞いたことがあります。
ドラッグで死んだのはまずい話ですが、彼のスライド・ギターは本当にユニークです。
スライドギターは、ボトルネックともいい、鉄やガラスのパイプ状の小道具を指にはめ、これをスチール弦の上で滑らせて、連続的な音階でメロディを奏でる。
彼は、これに加えて上記のオープンチューニング(しかも変則的)を用いることもありますが、ノタノタした気だるいまでのリズムに、実は相当高度かつ複雑なコード進行を乗せ、これ背景に心地よい「伸び」を聴かせてくれます。
一度聴くと、やめられません。

というわけで、上の5人はどうやら、規格に従ったギターをそのまま用いるような常識人ではない、いわば変人、というわけです。
これに影響を受けた私は、できるなら
・チューニングの切り替えがしやすく、ある程度ネックが頑丈だが、
・ブルース系の曲が弾きやすい、つまり親指で押さえられる程度に細く、
・スライドギターに対応しやすいよう高音弦が視認しやすく平行に並び、
・指弾きやボリューム奏法に対応できる程度にシンプルなスイッチ類が並び、
・低めに持っても安定する、やや無骨な表情のボディをもつ
なんていうギターが欲しいな、と夢想することがあります。
頑丈だが細いとか、見やすいが近距離にあるスイッチとか、矛盾した話ばかり。
でも、デザインというものはたいてい、矛盾する要求から来るものです。

まあ、ないなら作れば良い。が、もちろん楽器の世界は当然深い。楽曲や演奏を探求する人もいるし、楽器そのものに向かう人もいる。
ギターに関しては、私は前者。作ってみたいけれども、そのまえに造りたい建築像がありすぎて、力尽きてしまう。
楽器そのものに向かう同系の趣味人は・・・いたいた、木工場技師の斎藤英樹さんが!
どんな樹木も家具や造形に活かす達人です。
被災地の倒木まで活かすというから驚きです。

そんな多くの作品に、ポプラのギターがあります(写真)。
自分の理想型は将来の楽しみにしておいて、まずはこれを鳴らしてみたいと思いました。
「貸して!」
「いいっすよ」
その一言で、昨年の定禅寺通ストリートジャズフェスティバルでは、電源を入れて弾かせて頂きました。パワーがあって、なんだか甘みのある音がする。気持ち良い。
ただ、普段使っている「ストラトキャスター」と並び立つ異形、「レスポール」という形態だったため、弾きこなせたとは言い難いかもしれません。

ジャズフェスはもう10回以上出ていますが、最近は定禅寺といっても、ドカドカうるさいため、榴岡公園に配置されてしまいます。まあ、普段西公園近くに住む自分には、東公園も良い気分転換ですが(ちなみに、明治35年に、東の榴岡、西の桜ヶ岡となりました)。

さて。
日常の目の前の探しものは、あの本、あのメモ、あの報告書。
あんまり楽しくない探しものばかり。
この間はなんと、建築学会や新幹線にまで迷惑をかけ、自分のジャケットを探し回りました。結局、ないまま帰宅。
カミさんに謝りつつ報告。
すると
「あんた着ていかなかったでしょ」
「・・・」

♪それより僕と踊りませんか~
夢のなかへ・・・

2017.6.20

大沼 正寛 教授

東北大学大学院修了。一級建築士。建設会社、設計事務所、東北文化学園大学准教授、東北工業大学准教授等を経て2016年より現職。
2012年日本建築学会東北建築賞研究奨励賞、2012年・2014年同賞作品賞特別賞受賞。共著に『焼畑の環境学』ほか。
担当科目は、住まいの造形意匠、住まいのデザイン実習Ⅰ・Ⅱ、ランドスケープ論ほか。

大沼研究室

時間とともに価値を深め、地域風土の醸成に寄与する建築のあり方について探求しています。岩手県金ケ崎町伝建地区を起点に、東北各地における建築や都市・農山漁村の歴史地理的特徴を探求するとともに、郷土東北の「地を整える」ような、建築設計・環境デザインを実践しています。
具体的な取り組みとして、陸前地方のスレート民家の活用保全に関する研究開発プロジェクトや、東北各地における歴史的建造物や町並みの保存活用、木造住宅の設計実践などに取り組んでいます。2016年からは、JST「この地に技ありプロジェクト」開始。東北の生業と生活景の保全再生を実践研究しています。

一覧に戻る