東北工業大学

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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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秩序か、無秩序か。

VOL.027 丸尾 容子(環境エネルギー学科)

 

環境エネルギー学科の丸尾容子です。専門はナノ材料化学です。物質と電車をこよなく愛しています。出張でも飛行機という選択肢はほとんどなく、どこにでも電車を乗り継いで出かけます。

仙台と新庄を結ぶ「リゾートみのり」(仙台駅にて)

 

幼い頃を東海道新幹線の見える静岡の山間部で過ごしました。新幹線は1時間に何本も、何本も猛スピードで走り抜けるのですが、白地にブルーの美しいラインが印象的でした。大学に入学し、化学を学び、そのブルーの物質は銅フタロシアニンという錯体であることを知りました。フタロシアニンというベンゼン環と5員環が結合し、窒素で結ばれた花のように美しい対称性の高い構造を持った物質が、その中心に銅をふんわり入れ、目の前でブルーに美しく輝いているのです。物質と電車がつながった瞬間でした。

大学時代は仙台で過ごしました。入学の頃はまだ東北新幹線は走っておらず、「特急ひばり」でした。
「特急ひばり」といえば昨年(2016年6月)ラストラン、丁度その日に偶然にも仙台駅に出かけ、電光掲示板に「ひばり」の文字を見つけ運命を感じたものでした。また、鉄道で運命を感じた時というのは、1日に新神戸駅と東京駅で2回ドクターイエローに遭遇した時でした。高校時代グランドから新幹線が見えたため、体育の時間に度々「きいろの新幹線」を見ていたのですが、駅で会う事ができるのはまた格別な気分です。閑話休題。

新神戸駅で出会ったドクターイエロー

 

東京駅で出会ったドクターイエロー

でも現在は「特急ひばり」は引退し、美しいグリーンに輝く東北新幹線です。さらに仙台駅では魅惑のレッドの秋田新幹線やグリーンに藤色をあしらった北海道新幹線も頻繁に走行し飽きる事がありません。

向山で見つけた北海道新幹線の藤色にも似た花(トラノオかな?)

そのグリーンも錯体です。銅フタロシアニンの4つのベンゼン環に結合している水素を全て塩素で置き換えたものです。これもまた美しい対称性の高い秩序を持った物質がグリーンに輝いているのです。
秩序構造を持ったものは美しいものです。

大学の後、企業の研究所で長らく働き物質の成長の研究を行った時期がありました。半導体であるシリコンやガリウム砒素などは真空中で成長を行うと、それはそれは美しく基板状態を引き継ぎ、そのまま一層ずつ成長させる事ができます。表面に電子線をあて、その反射の強度を測定すると一層ずつの成長に対応した強度の振動を得る事ができます。その規則正しい振動は、原子の動きを感じる事ができるようでこの上も無く美しいものに感じられました。
有機物は、シリコンやガリウム砒素とは違いそのように上手くはいきません。しかし直線構造を持った有機分子を、その大きさに近い格子をもった基板上に成長させた事がありました。得られた物質を電子顕微鏡で観察すると、何とも美しい直線の結晶が成長している像を得ました。またその物質を原子間力顕微鏡で観察すると、その秩序構造を分子レベルで見る事ができたのです。秩序構造の美しさを感じました。

有機分子を結晶成長させたSEM写真

(基板の違いにより、別の物質のように成長する)

しかし秩序構造を持ったものは、それが崩れる時があり、崩れたら性能を発揮できません。また、秩序構造を作るにはそれなりの技術と条件が必要で、どうしても使用条件が限られ、歩留まりが悪くなり、価格が高くなる傾向にあります。世の中に広く使われているものは、秩序構造でその原理を確認し、無秩序構造を上手く組み込んで市場に展開しているものが多くあります。

私は現在人々が簡単に健康状態を確認できる簡易測定法を研究していますが、その基板に選んだものは多孔質ガラスです。ガラスなので秩序構造とは対局の無秩序なものです。その無秩序な構造の中で起こる化学反応を解析しています。秩序構造を持ったものならば、X線の回折や電子線を用いた表面状態の分析など、それを解析する為にいろいろな方法が考えられます。

紅葉の季節(宮沢橋より下流をのぞむ):広瀬川は新たな発想を与えてくれる

無秩序なガラスの孔の中では分子の向きもばらばら、ガラス表面までの距離もばらばら、何を羅針盤として解析していっていいのか手探り状態です。でも、実際に使う事を考えたらガラスには大きなメリットがあります。工学部なのですから、皆が使える価格で、歩留まりよく作製できるものを作っていってなんぼの世界です。
無秩序なガラスの孔の中でも、化学反応はきれいに進行し、信じられないくらいの精度で値を出力してくれます。一見ただのガラス、チープ、ローテクに見える基板が10億分の1しか無い分子を識別し、反応し、私に反応した事を教えてくれるのです。しかもそれは自分が基板を選定し、化学反応を考えたものなのです。私にとっては限りない愛おしさを感じます。
学生にはこの愛おしさを力説してもなかなか判ってもらえませんが、実際に使えるものを作ってこそなんぼの考えは共有しています。

今日もまた秩序構造を横目で見て、無秩序のガラスに挑み、その結果に一喜一憂する日々です。

広瀬川に飛来した白鳥:仙台でできる事がある

 

冬の八木山(研究室のある10号館より):このような景色の中研究に取り組んでます

 

丸尾 容子 教授

東北大学理学部を卒業後、理学研究科化学専攻修了。その後NTT研究所に勤務。2013年より本大学で教授として勤務。専門は材料化学・分析化学で、ナノ材料を用いた簡易分析法・CO2光還元触媒の研究を行っている。

丸尾研究室

9月に3年生が8名加わり、研究室は教員の自分を含めて18名になりました。工学部は産業に貢献するものを作り出す事を目標に、日本の、また、東北地方の産業を支える技術者の育成に取り組んでいます。学生は自分の手を動かし、頭で考え日々研究に取り組んでいます。

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