「無駄とは何か」
VOL.024 田倉 哲也(環境エネルギー学科)
よろしくお願いします、環境エネルギー学科の田倉哲也(出身地:富山県黒部市)です。学科では主に電気系の科目を担当しています。電磁気学を工学的に応用する分野が専門で、現在は、ワイヤレスでエネルギーを送る研究に従事しています。リレーエッセイのお話を頂いてからテーマを何にするか、色々と考えました。講義をしながら、大学祭の準備をしながら、そして科研費の書類を書きながらあれでもない、これでもないと頭の中で様々なことを考えました。その中で度々浮かんできた言葉は、「(テレビ)ゲーム」でした。はっきり言っておきます。私の専門と何ら関係はありません。ただ、自分という人間を形成する上で、少なからず影響を与えた存在であることは間違いないと思っています。
恋愛みたいですが、初めてのゲームとの出会いは苦いものでした。最初にプレイしたハードウェアは任天堂の「ファミリーコンピュータ」で、ソフトはカセットにランプが付いている高難易度ゲーム(これだけでお気づきの方もいるかもしれません・・・)でした。開始3秒でゲームオーバーになる可能性を秘めているだけでなく、当時はネットもないため、クリア方法が小学生だった自分には全くわかりませんでした。ただ、自分が操作した通りにキャラクターが移動する様子がおもしろくて、何度も何度もプレイした記憶があります。そこからゲームをする時間が次第に延びていきました。同時に、正常に動作しない現象に出くわす機会も増えていきました。
さて、どうしよう。子どもながらに考え始めるわけです。①カセットを抜いて差し直す、②カセットの接続部分をふーふーと息を吹きかけてから差し直す、③テレビをたたく、④フィーダー線をつなぎ直すなど。別に親からそうしなさいと言われたわけではなく、色々と自分で試行錯誤したり、友人のやり方を見習ったりする中で方法を確立していったと思います。何度も何度もやりました。時にはゲームを始めるまで1時間以上もゲーム機と格闘することもありました。
また、ゲームを続けていく中で、記録したデータが消失するという経験も何度も味わいました。昨日までのプレイ記録が次の日には恐ろしい音とともに消失しているなんてことは日常茶飯事でした。これは、購入して間もないときには起きないことで、経年とともに内蔵電池の消耗が原因で起きると言われています。そのため、また最初からプレイする必要があり、子どもながらに落ち込みました。
その後、ハードウェアが時代とともに進化を続けるのにあわせて、自分が所有するハードウェアも新しくなっていきました。すごいもので、今のゲーム機はテレビの端子に一本ケーブルをカチッと接続するだけでゲームを始めることができるし、ディスクを抜き出してふーふーする必要もありません。また、記録データが消失することもほとんどなく、バックアップをとることもできます。昔やっていたことは何だったのかと考えさせられます。
ただ、大人になった今、ふと思うこともあります。ゲームを楽しむ上での困難は必要だったのではないかと。問題を把握、原因を考える、解決策を提案、実行、現状を確認するという問題解決にとって必要な思考の流れを無意識のうちに行っていたわけです。もちろん最初は一回で原因をつかむことはできません。何度も問題に対処する中で、原因と解決策がうまく一致するようになっていったのだと思います。この思考は何ら特別なものではなく、多くの人たちが行う標準的なアプローチだと思います。もちろん今の自分も採用している方法です。研究上、複雑な回路を組むことがあります。設計図通りに作ったつもりでもうまく動作しないこともあります。そんなときは、一つずつ可能性をつぶしながら問題の解決を進めています。ただ、こういう思考法があるよと教えてもらった記憶はありません。いつの間にかそういった思考ができるようになっていたと思います。もしかすると、今自然と行っている問題へのアプローチの仕方を教えてくれていたのはゲームなのかもしれません。
大学進学を控えたみなさん、一見無駄と思えることにも、後から意味が出てくることがあります。日本ではゲームは時間の無駄だと揶揄されることもありますが、海外では優れたプレイヤーには一定の評価が下されます。もちろん優れたプレイヤーになるためには多くの時間をゲームに費やさなければなりません。ただし、みんなにゲーマーになれと言っているわけではありません。積み重ねが重要であることを認識してもらいたいと思っています。私の経験も積み重ねがあったからこそ意味をなしてきたと考えています。無駄だからと言って何もしなければ今の自分があったかどうかはわからない気がします。無駄に思えることを積み重ねることで様々なこととの「つながり」も見えてくるときもあると考えています。
大学では、高校までとは比較できないほど色々な科目を学ぶ機会があります。入学当初に持っていた熱意は重要です。だからといって好きな科目以外は勉強しないというのはおすすめしません。みなさんには多くの学問に触れることで自分の深みを広げていって欲しいと同時に、興味がもてる分野を広げていってもらいたいと、教員として願っております。
ちなみに、私に関して言えば、今の専門を高校時代からやりたかったかと言えば、答えはNOです。そもそもこのような分野があること自体知りませんでした。しかし、多くの学問を修めて行く中で出会い、興味を引かれていきました。みなさんが無駄なく最短ルートで行きたい気持ちもわかるし、社会もそれを求めていることも知っています。ただ、一度きりの人生、少しぐらい寄り道してみてもよいのではないでしょうか。
田倉 哲也 講師
東北大学工学部を卒業後、大学院前期課程、後期課程と進み同大学で助教として勤務。その後、本学に勤務することになる。専門は磁気応用工学、医用生体工学で、非接触給電や磁性体を用いた温熱療法など電磁気学を工学的に応用した研究を行っている。
田倉研究室
9月に3年生が8名加わり、研究室は教員の自分を含めて14名になりました。賑やかな研究室になってきました。写真は今年の2016 World EV Challenge in SUGOのスタート前の記念撮影のものです。