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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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廃棄物埋立地、土壌処理との出会い

VOL.020 中山 正与(都市マネジメント学科)

都市マネジメント学科の中山正与です。水環境工学、廃棄物工学を担当しています。研究室では森林域を流れる河川の調査、廃棄物埋立地の調査、土壌による廃水の処理などを研修テーマとしています。

山形の農家の長男として生まれたので、何の疑問も持たずに地元の農業高校を卒業して将来は家を継いで農業をやるつもりでした。しかし、小規模な農家ではやっていけない情勢となり工業高校に進むこととなりました。工業高校の専門科目の教科書には何の証明もなく公式が出てきます。ある程度のレベルの数学、物理、化学の原理を使用せずに、これらの公式の証明を記述することは無理なのです。高校に入学した当時は、高校卒業後は地元の企業に就職するつもりでしたが、教科書に書いてある公式を根本から理解したいという気持ちもあり、高校生活も最終学年となった頃に大学への進学を決意しました。

森林域を流れる河川の調査

土木分野の学問を理解するためには、数学と力学をマスターしなければならないことが何となく分かりましたので、大学に入ってから高校の数学Ⅰ・Ⅱ・Ⅲと物理の参考書を買って、1ページ目からやり直す事にしました。もともと大学に進学する気がなかったものでそれほど勉強はしていなかったからです。その甲斐あってか、大学の授業は何とか理解することができ、「教科書に書いてある式を理解する」という大学へ進学した目的は達成することができました。

大学卒業後は土木工学科助手として採用していただきましたが、配属されたのは水環境を扱う研究室でした。土木工学科なのにどうして環境?と思いました。土木は社会基盤を整備することが主な仕事となります。道路や橋、トンネルなどを計画し建設すると同様に、上水道、下水道の整備を行うことも含まれています。日本ではこの分野の教育や研究を伝統的に土木工学科が担っているのです。私の学生の頃は環境に関する専門書は限られており、また環境を教える大学の学科も多くはありませんでした。現在のように環境の大切さが認識され、本学にまで環境関連の学科ができることは想像できませんでした。

数学と力学を理解すればなんとかなると考えていたのですが、環境分野を理解するためには化学と生物学の知識が必要でした。専門書を購入して読んでみても、基礎的な知識がないので敷居が高くほとんど理解できませんでした。ここでもまた化学と生物学の高校の参考書を購入し、一から勉強するしかありませんでした。高校の参考書は、暗記用のぺらぺらのものではなく、丁寧に詳しく解説しているもので内容も豊富な厚い本は、わかりやすく大変勉強になります。今は”わかりやすい”を売り物にした本が多数出ていますが、新しい分野を勉強するときには、高校生用の厚い参考書を読むことがお勧めです。

建設省土木研究所 下水道部汚泥研究室(当時)の皆さん

30歳を少し過ぎた頃、当時の建設省土木研究所に1年間の予定で研究に行かせていただきました。そのときにお世話になった部署が、土木研究所下水道部の汚泥研究室でした。下水を処理するときに”汚泥”が出てきますので、その処理・処分や有効利用を研究しているセクションでした。この1年間の研究をきっかけに廃棄物埋立地や土壌処理の研究を行うことになりました。

下水処理の過程で発生する汚泥(脱水して水分を除いた状態のもの)

 

廃棄物の埋立地(右奥に見える黒い壁状のものが地表に出ている遮水シート)

埋立地に廃棄物を埋め立てると浸出水が発生します。これが地下に浸透すると土壌や地下水を汚染する可能性があります。そのため、遮水シートを張って地下への浸透を防ぐとともに、浸出水を集めて処理してから放流しています。浸出水は高濃度の有機物、無機物を含んだ液体です。これが土壌に浸透した場合にどのように変化するのかを研究しました。土壌には自浄作用があるために、土壌を利用した廃水処理は”土壌浄化法”と呼ばれており、従来から研究はされていたのですが、浸出水のような高濃度の液体が土壌に浸透した場合の研究はそれほどなされておりませんでした。”土”は物理的に見ると構造物を支える基礎にもなり、また堤防などを造るときの材料にもなります。また、土砂崩れのように災害を発生させることもあります。一方、これを化学的に見ると、物質を吸着し、pHを緩衝する能力があります。そして水分を保持する能力が高いために植物が生育し微生物の住み家となります。土壌は研究の対象として大変面白く、現在でもこれに係わっています。

土壌に浸透する浸出水の挙動を調べるための実験装置

(土壌を円筒に詰め浸出水を上部から流入させる)

環境は関連する分野が広く、工学系から、理学系、農学系などさまざまな方が研究に携わっています。本学科の卒業生で環境を専門にする人は少ないのですが、どのような分野の仕事に携わることになっても環境に対する配慮は重要となります。学生にはこの点をしっかりと伝えたいと考えております。

中山 正与 教授

研究分野:水環境工学、廃棄物工学

中山研究室

森林域を流れる河川の水質形成に関する調査、土壌を利用した汚水の処理、廃棄物埋立地の機能調査を行っています。水質分析を実施しますが精度の高いデータを得るためには専門知識と練習が必要です。

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