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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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断層となまずについて

VOL.016 堀 則男(建築学科)

私は建築分野の中でも、建築構造、耐震工学を専門としており、地震動の特性、建物の揺れ方と損傷、揺れを抑える免震構造・制振構造などを、観測、実験、解析に基づいて研究しています。
最近では4月に熊本で大きな被害をもたらす地震が発生し、熊本県を東西に横切る断層を中心として余震が続いています。

地震は地殻プレート運動によって発生し、東北地方を例にすると、東日本・北日本が載っている陸側のオホーツクプレートと海側の太平洋プレートがぶつかり合う日本海溝付近で、プレートに蓄積されたひずみが一気に解放されるときに地震と津波が発生します。
1978年宮城県沖地震(M7.4)や2011年東北地方太平洋沖地震(M9.0,東日本大震災)、発生が懸念されている東海地震、南海地震などがこのようなプレート型の地震です。
また、陸側のプレートに蓄積されたひずみに耐えられなくなって地盤が割れる断層が原因となる地震もあり、この場合は直下型で震源が浅いため、小規模でも大被害となる可能性があります。
今回の熊本地震(M7.3)や1995年兵庫県南部地震(M7.3,阪神・淡路大震災)、2004年新潟県中越地震(M6.8)などは断層による地震で、宮城県では、利府長町断層による直下型地震が懸念されています。
ところでマグニチュードMは地震そのものの大きさ・規模を表す指標ですが、Mの数値の違いと地震の規模の違いの関係をご存知でしょうか。
地震のエネルギーは、係数×(10の1.5M乗)、と計算されますので、Mが1.0大きくなるとエネルギーは(10の1.5乗)倍、つまり約32倍となり、Mが0.1大きくなるとエネルギーは(10の0.15乗)倍、つまり約1.4倍となります。

地震を引き起こす断層は、時として地上に現れて、そのエネルギーのすさまじさを見せつけることがあります。
愛知県、岐阜県一帯に大被害をもたらした1891年濃尾地震(M8.0)の根尾谷断層(岐阜県本巣市水鳥)では、上下6m,水平2mのずれが地表に現れました。
下の写真は左が地震当時、右が現在のものですが、当時の写真は断層近くの丘の案内板に掲示されていて、見比べると現在でも断層がよく分かります。
この地震のM8.0は日本の内陸地震では最大級であり、東日本大震災を引き起こしたM9.0の地震の32分の1の巨大なエネルギーを持つ地震が直下型で起こったことを考えると、そのすさまじさは想像を絶します。

当時の根尾谷断層                  現在の根尾谷断層

下左写真は阪神・淡路大震災を引き起こした野島断層(兵庫県淡路市小倉)で、現在はその上に断層記念館が建設されて保存されています。
右の写真の住宅は断層からわずか1mの場所に建っていましたが、建物自体の損傷は少なく、住民の方は地震後4年間居住し、現在はメモリアルハウスとして保存・公開されています。

断層保存館                    メモリアルハウス

ところで、日本では鯰が地震を起こすといわれ、鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)には鹿島大明神(武甕槌大神、たけみかづちのおおかみ)が大鯰を封じ込めたという要石(かなめいし)があります。
下左写真の木の根元に見える直径40cm程度の石ですが、実は地中は巨大で、徳川光圀が七日七晩掘らせ続けても全体が見えず、ついにあきらめたとの史料があります。
境内には鹿島大明神と大鯰の碑もありました。

要 石                鹿島大明神と大鯰の碑

地震と鯰の関係については、豊臣秀吉が前田玄以に送った書簡の記述が最古のものといわれていますが、1855年安政江戸地震(M7.0~7.1)の際に鯰絵と呼ばれる瓦版が多種発行されたことからイメージが広く定着しました。
この地震は旧暦の10月、つまり神無月に発生したので、出雲に出張していた鹿島大明神や留守を任されながら大鯰を抑えられなかった恵比寿様を揶揄するような絵、地震で儲けた材木商、大工、左官などに対する非難、袋叩きにされる鯰や復興景気で金をばらまく鯰、鯰による歌舞伎や相撲のパロディなど、多種多様な鯰絵があります。
当時は不況や裕福な商人に対する不満、黒船来航による世情不安など、不安定な社会情勢で、また、前年の安政東海地震(M8.4)、安政南海地震(M8.4)など、比較的地震も頻発していました。
滑稽な鯰絵は、悲惨な震災を笑い飛ばし、不満のはけ口とし、ストレスに負けずに生きていくための江戸っ子のバイタリティの表れだったのではないでしょうか。

堀 則男 教授

研究分野:耐震工学
エネルギー吸収デバイス(ダンパー)による建物の地震応答制御
加振実験による免震建物・制振建物の地震応答性状の検討
地震動の破壊力特性を考慮した耐震設計手法の開発

堀研究室

地震は建物に対して破壊的な力を及ぼします。地震の特性を把握し、建物の揺れを予測し、計測、実験、解析を通して被害を受けない建物や揺れない建物を作って生活を守る方法について研究しています。

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