東北工業大学

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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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「辞めてやる!」ってことと「辞める」こと

VOL.013 小祝 慶紀(経営コミュニケーション学科)

僕は、学生によくこんなことを言う。例えば仕事について、「嫌なら辞めればいい。」って。

僕は大学時代、体育会の部活に所属していた。自慢じゃないけど、生まれつき?運動神経ゼロのこの僕が、しかも浪人して入った大学で、なぜ体育会?これについて話すと、次回の続きってことになるのでいきさつは端折るけど…。気付くと、重たい荷物背負って山に登ってた。ときかくきつかった。もともと体力なんてないし、山なんて登ったことがあるわけでもない。そんな僕が体育会の山登りの部活にいた。僕の所属していた部は、昔ながら?の登山のスタイル?と上下関係を守っている?部だった。例えば、こんな具合だ。山で荷物を入れて背負う道具のことを「ザック」という。軽くて機能性のあるものを使うのが一般的だ。でも、僕たちの部活では「キスリング」と言って、昔ながらの布製のザックを使っていた。山で野宿するためのテントもそうだ。これも昔ながら?の布製のいわゆる家型テントってやつだ。それをキスリングに詰め込んで登るわけだ。

キスリングを背負い山道を歩く

これで、ひとたび雨でも降ろうものなら、雨が布に染み込み、ぐっと重くなる。キスリングには、ほかに食料や自分の着替え(「私物」って言う)なども当然詰めこむ。もちろん?伝統的な登山スタイルの我が部では、食料もレトルト食品は禁止だ。だから、食材からきちんと持っていく。そう、例えばカレーというメニューがあれば、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、肉などをもっていくことになる。だからメニュー担当(これは一年生)は、少しでも荷物を軽くするため必然的に具材は同じで、メニューだけ違ったものを考えることになる。つまり初日の夕食がカレーなら、二日目はシチューといった具合だ。これら装備(布製家型テント)、食料、そして、私物をキスリングに詰め込んで山に登る。時としてキスリングの重さは、30kgを超えることもある。これを背負って、月一回山へと登っていく。夏休みともなれば、約2週間山の中。こんな大学生活だ。しかも体育会ってことで、服装も学ランだった。クラスの女の子に「いまごろ、どうしたの?」って言われたな…。ある時は、学ランでディスコ(今風だと「クラブ」ってやつですか?)に入ろうとしたら、黒服着たお兄さんに断られた…。

学ラン姿の小祝(大学時代)      浪人時代の小祝

話を戻すと、僕の大学生活は、そんな山登りから始まった。

山に登るスタイルは紹介したけど、その装備や食材はだれのキスリングに収まるのか。当然一年生のキスリングである。楽しい大学生活を夢見ていたのが、一転、「なにやってんだ?俺。」ってことになる。僕は浪人をしてたたうえに、そもそも体力がなかったから、30kg超の荷物を背負って山にの登ろうものなら、当然バテる。山ではバテるし、山行(「山登り」のこと)前の練習でもバテる…バテると上級生からは怒鳴られる。怒鳴られると山登りがイヤになる。怒鳴られる理由はいつも同じだ。「気合が足りない!」。バテるのはもちろん、食べるのが遅いのも「気合が足りない」のである。ある時、山で土砂降りの雨が降った。土砂降りの雨も「気合が足りないからだ」と怒られ、「気合で晴れにしろ!」と。

「気合」恐るべし。

すべてがこんな風だ。そんな部活で考えることはいつもひとつのことだけ。「辞めてやる!」特に、山の中ではそのことだけだった。

この山行が終わったら、下山したら、絶対に「辞めてやる!」って。

登山途中でバテて動けなくなる

 

でも、結局「辞める」ことはなかった。それはなぜか?あんなに「辞めてやる!」って考えていたのに。いざ「辞めます」って言おうとすると、自分のなかでなにか引っかかるものがある。うまく表現できないけど。「次の山行で決めよう」とか、「もう一回登ってから」とか自分で自分に言っては「辞める」ことができなかった。「辞める」って言えずに山に登っていたら、だんだんバテなくなっている自分がいた。早食いになっている自分がいた(おかげで早食いになり、いまでは周りから「食べるのが早い!」って言われる((ちなみに、今でも部活の同期と食事をすると、みんな同じに食べ終わる))。もちろん、「気合」だけではないけどね。それが証拠に、その後何度も土砂降りには見舞われた。

つまり(何が「つまり」だ?)、僕が考えるに、「辞めてやる!」っていうのは、一種の願望?希望?で心の叫びなんじゃないか、声にだせない、心のどこかに何か引っかかりのようなものがある状態のことなんだと。なんの引っかかりもなく躊躇なくすんなり「辞める」って言える。これが、「辞める」ってことだと。だから、なんの引っかかりもなく「辞める」って言えたら、それは辞めたほうがいい。そして別な道を選択したほうがうまくいく。例え仕事だろうと、友人関係だろうと、彼女、彼氏、はたまた夫婦?だろうと。ただ、なんか引っかかるものがあれば、もう少し続けたほうがいい。そうすれば、何かを超えられる(ってこうして文字にすると随分おおざっぱな話だな)。そんな話だ。

山男?となった小祝(大学時代)

そんな話で、僕の部活生活(「大学生活」ではない。あくまでも「部活」だ。)は4年まで続き、やがて卒業とともに終わりを告げ、希望した民間企業へ就職した。そこで僕は約10年を過ごした。そしてなんの引っかかりもなく?その会社を「辞めた」。そして今がある。

ついでに、今も山を登っている。

 

 

小祝 慶紀 教授

研究分野:法と経済学、環境経済学、環境政策学

社会・経済システムから環境を考える
現在、環境エネルギー技術の開発を進め、持続可能な社会をつくることが求められています。政策として実現するために、社会・経済システムを理解して、適切な制度を構築することを目指します。

小祝研究室

小祝研究室は、「人間万事塞翁が馬」「ケセラセラ」というモットーのもと、何事にも「楽しく!」、おやじギャグに寛大で経済学や法学の知識はないけど社会科学に興味のある?学生により、以下のような研究活動を地味?に行っています。
・環境問題に関する法制度の経済学的分析。
・多様な政策等の事例を分析し、一般性を抽出し、より望ましい環境政策の実現への研究。
・持続不可能な諸傾向を現場で発見することで、わが国におけるより持続可能な政策へと見直す契機となる諸制度の分析。
・気仙沼の復興状況の研究。
基本的に、研究室運営は学生の自主性に任せています。また、各自がそれぞれの研究テーマに基づき、研究を行っています(経済学、法学、その他社会科学的見地からのアプローチであればテーマは自由)。

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