東北工業大学

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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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大切なこと

VOL.010 多田 美香(共通教育センター)

私が大切にしていること,それは「つながる」ことです。「つなげる」のではなく「つながる」こと。必然的な相手とは,自然につながっていく。ヒトとのつながりだけではなく経験と経験がつながっていくことで,点在していたものが立体的になり,奥行のある経験に膨らませることができる,人生に無駄はない,そう信じています。回り道をしても,すこし立ち止まっても,その間に思いがけない出会いがあるかもしれない。出会えるチャンスを活かすことができれば,ヒトとのつながりは広がり,経験値も増えていきます。
そうはいっても,慌ただしく過ごしていると,目の前のノルマをこなすことで精一杯で周囲が見えなくなるものです。ちょうど2年前,研究が進まずひとりよがりになっていた頃,思い切ってクック先生の英会話講座に参加してみました。ご多忙な先生方との日常会話をとおして,時間はつくるもの,学ぶことの大切さを改めて実感しました。また,上級レベルの会話力をお持ちの先生方,楽しむことを重視した若手の我々を同時にご指導なされるクック先生の柔軟性はすばらしく,専門性, 所属, キャリアの垣根を感じさせない雰囲気が新鮮でした。気持ちを切り替えて挑んだ国際学会では,残念ながら受賞を逃してしまいましたが,それから3ヶ月後,海外での発表のチャンスに恵まれ,日本からは1名の参加でしたが無事に発表を終えることができました。準備が整ったところにチャンスがやってきたのかもしれません。ときには,回り道も大切です。

英会話講座打ち上げパーティー(2014.04)

 

The 3nd International conference on cellular
environmental stressors in biology and medicine:
Focus on Redox reactions (Ferrara, Italy, 2014.06)

 

どちらかというと,10代の頃から自由に行動できる身軽さが好きで,たいていショッピングにはひとりで行きます。旅行もひとりが多いです。ひとりの時間を楽しむというよりは,店員さんとの値引き交渉や,飛行機の中や旅先で出会った方々との会話を楽しむことが好きです。ですが,楽しかった,という記憶は残りますが,話の内容はすぐに忘れてしまいます。一方で,親身になっていただいた恩師の何気ない言葉,上司の叱咤激励,弱音を聞いてくれたときの友人の一言,迷っていたときの先輩の言葉,これらの言葉はその当時を鮮明に蘇らせることができます。そして,大切なターニングポイントのキーワードになっています。年代順に紹介しますね。

1994年  準硬式野球部@山形大学飯田キャンパス

 

1997年 山形大学 尾形流ESR指南道場にて

 

~1999年
継続は力なり(中学時代の恩師)
為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり(高校・大学時代の恩師)
計測なくして評価なし(大学時代の恩師)
博士号は「足の裏の米粒」(YN教授)

2000~2004年
鬼の霍乱(某研究所の副所長)
人生は一瞬で決まる(KP教授)
対極を見よ(KP教授)
雨垂れ石を穿つ(I先生)
平凡がいちばん難しい(友人Aさん)
体験・体感・体得(叔父)
ピーターの法則(NBさん)

2005~2009年
アクション!(まずは行動)(A先生)
時間の流れがわかる(O教授)
人生に無駄はない(KP教授)

 

名言や格言には私たちの「今」を変えるためのヒントが沢山つまっています。言葉と向き合うことで,改めて‘気づく’ことができます。20代前半は私の研究に対する芽生えの時期で,ロールモデルになっている女性研究者の先輩方と出会えた貴重な時期でもあります。アクティブな先輩方は,仕事にもプライベートにも全力を注いでいました。その姿に感化されて,実験に没頭して研究室に滞在し, 研究費の管理や共同研究テーマを幾つも抱えていた自信が表情に現れていたのでしょう。大学院時代に研究室で飛び交っていた愛称:mika様。些細なことを気にするなら実験データを取る, 実験スキルを磨く, 日常会話も手短にスキマ時間を効率よく使って大企業の第一線で働いている先輩方に少しでも近づきたい, そんな風に思っていました。当時を振り返ると,限られた学生時代に何事にも全力で取り組んでいた向上心は受け入れられますが,後になって,後輩達に自分の生活スタイルを押しつけてしまったことを悔やみました。研究室のメンバーのほとんどは就職志望ですし,夜遅くまで研究することがベストではない。これは,過去と向き合って得られた‘気づき’です。教員になった今,私が学生さんに伝えられることは,ベストを尽くすためのプロセスは何通りもある,ゴールは同じでも,そこまでの道順は人それぞれ,そのとき選んだ道を進めばよいということ。迷ったときは,思い切って相談すること。そのためにも,学生時代にはぜひ信頼できる友人を見つけてほしいです。私が研究を継続することができたのは,大学を離れても,職場を離れても,気持ちの面でずっと支えてくださる先輩や友人がいるからです。もちろん,家族も!じっくり,ヒトと,言葉と向き合ってみてください。

1999年9月     Prof. David Lurie(右端) 社会人1年目の私(右から3番目)
Bio-Medical Physics,School of Medicine & Dentistry, University of Aberdeen

2012年2月Prof. David Lurie@多田教員室                    2012年9月多田@University of Aberdeen

 

2007年12月 医局の先生方に頂いた色紙

ヒトの温かさは何より心の支えになります。私が大学病院を退職するときに頂いた色紙。病院で夜昼なく働いていらっしゃる先生方が,サプライズで準備してくださったものです。家族の入院と転機が重なり,精一杯だった私に力を与えてくれました。あれから8年,卒業式までに先輩方や先生に色紙を準備していた学生さん達に出会いました。思いやる気持ちにもグッときましたが,手作りのプレゼントを準備している彼らにとても感動しました。高額で見た目もスタイリッシュなものを好む若者が多いようですが,手作りのよさを忘れないでほしいのです。手作りのモノには同じものがないからです。世界でひとつだけ。私たちの専門分野の論文研究では,手作りの装置や古い装置で計測したデータが基になっています。他にない装置で取るデータは,世界でも希少なデータになります。ほしいデータを取るために計測装置を開発する,新しい現象をとらえるために方法論を確立する,そこに価値がある,私が大学時代に学んだことです。何かを生み出す力は研究する上で不可欠になります。ただ,ひとりの力で新しいものを生み出すことは難しい,仲間と新しいデータを見て一喜一憂する時間はとても大切です。つまり,色紙の寄せ書きのように,何人もの仲間が集まれば,すばらしい贈り物になる,力を与えてくれる,卒業研修も同じではないのでしょうか。先輩の研究を後輩が受け継いでいく,データだけではなく,ヒトともつながる,そういう何気ないことを大学の教育の中で大切にしていきたいです。

2015年3月 後輩が先輩に贈った色紙と学生さんが先生に贈った色紙

最後に,文才のない私のエッセイにお付き合いいただき,ありがとうございます。心よりお礼申し上げます。

共通教育センター 多田美香

 

 

 

 

多田 美香 准教授

担当科目 生化学特論,化学,化学への旅,工学基礎化学実験,基礎化学実験,生活とサイエンス

研究テーマ 生体レドックス反応 ‘見た目年齢=体内年齢=2/3×実年齢’ を目指します! 若さを保つ秘訣を科学的に検証します。

2012年2月Prof. David Lurie@多田教員室

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