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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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グラフィックデザイン少考

VOL.008 篠原 良太(クリエイティブデザイン学科)

クリエイティブデザイン学科の篠原です。せっかくリレーエッセイを担当する機会をいただいたので、自分の専門分野のひとつであるグラフィックデザインについて簡単に書いてみたいと思います。

最近、年に数回ですが展覧会に関係する仕事に携わらせてもらうことが多くなりました。例えば美術館や博物館のような会場での展覧会もあれば、一番町ロビーで開催されるような小規模のイベントもあります。たいていの場合は、コンペティションで選ばれるのではなく、指名してもらうことが多いです。例えば美術館・博物館の学芸員からだったり、イベンターの担当者からだったりします。審美眼のある方々から、ある意味こちらを信頼してもらった上で依頼していただいていると感じているので、それはそれで非常にありがたいことだなと思っています。

宮城県内の美術館・博物館で展示会が開催される場合、巡回展であることがとても多いです。これは全国の会場(5会場くらいが多いような気がする)を巡回して展覧会をおこなうもので、東京などの首都圏で開催される展覧会では、予算規模も大きく、媒体や制作物も数多いのですが、宮城県内での展覧会となると、なかなか制作するアイテムも限られてしまいます。そんな中で、ポスターとチラシは重要な広報アイテムとなっています。

グラフィックデザイナーとしてこのような広報アイテムを制作する仕事をする場合に、とても大事なことがあります。それは、イベントを主催する側の学芸員やイベンターの方々と、どこまで気持ちの共有ができるか…ということだろうと感じています。(ポスターやチラシに限らず)何かを形作る場合にマーケットに阿ることも重要ですが、安易な迎合を考えるよりも、展覧会そのものを開催する企画者側の強い思いがもっとも重要視されるべきで、その思いから発信されるメッセージこそが良い結果につながる近道なのだろうと考えています。そのためグラフィックデザイナーとしては、気持ちの共有、もしくはイメージの共有ができるように、企画者側から「思い」を引き出さなければなりません。アプローチの方向性としてはシンプルではあるけれど、なかなか難しい部分でもあるな…と、いつも感じています。
※もちろん内側ばかりをみていてもダメなわけですが。

例として2015年夏に仙台市博物館で開催された『特別展「ご覧あれ 浮世絵の華 —歌麿・北斎・広重 平木コレクションの名品」』のポスターを挙げてみたいと思います。この時は、早い段階から展覧会の企画会議にも顔を出すことができたため、イメージの共有がうまく進んだのではないかな…と感じています。浮世絵の各時代を網羅した出品点数や、それぞれの作品がもつ華やかさなどを、タイトルロゴタイプや切り抜きで散りばめた主要作品、シルバーインクで刷った放射状のラインなどで表現することができました。ポップさと当時の華やかさがうまく共存したデザインになったのではと感じています。

もちろん「イメージ」には複数の方向性があるので、よりよい着地点を見つけるためには、スタートの段階においては複数のデザイン案を提示する必要があります。大枠では方向性が同じであっても、何を強く取り上げるかで、表現は変わってきます。その辺りのニュアンスを、デザイン案を提示しながら「お互いに着地点を見つける=イメージを共有する」に、少しずつ近づけていきます。その際に、やってはいけないことは、あれやこれやと折衷案的に混ぜ合わせて落とし所を見つけることです。それは結果的に弱い表現になってしまうだろうし、なにより絵としてつまらないものになってしまうと思います。

展覧会の広報アイテム制作の場合、出品作品の図版がアイキャッチ(ポスターなどのメインイメージ)になる場合がほとんどです。ですのでデザイナーは、実際に実物の作品を見る前に、作品図版(画像データです)に長い期間向き合います。本当に長い期間向き合うので、感情移入してしまうこともしばしばあります。会期がスタートし、実際に展覧会会場で実物を見る時には「やっと会えた」という気持ちになります。なかなか面白い心境だなと、いつも思うのでした。

また、美術品を扱う印刷物では、作品図版の色調も実物に合わせるべく、細かい調整(本当に細かい調整)を行うことが多いですが、結局のところポスターの中でどれだけ強く目を引くかが重要なので、実物よりも強い色調にする場合もあります。逆にキッチリ合わせなければならない場合もあるし、ケースバイケースと言えます。一般的な印刷物の場合はある程度自動で処理してしまうことが多いと思いますが、細かく部分調整をしながら最善の結果にたどり着く行為は、展覧会の仕事ならではと言えるでしょう。

 

複数回色校正をチェックして、最善の結果にたどり着くように修正を重ねます。写真では分かりづらいと思いますが、右側の初校では図版のYMが強すぎるため、修正をしました。結果が左側の色校正です。

 

近年では、イベントの集客を考える際にポスターやチラシ以外の情報伝達手段を用いることが増えてくるようになりました。実際に(印刷物としての)ポスターやチラシが求められるシーンは少なくなってきているように感じますし、ポスターなどを掲示する場所が減っているのも事実です。しかし、展覧会においてポスター・チラシを用いた表現は文化としての側面を持っていると言えますし、イベントそのものを凝縮して見せることのできる重要なメディアであると感じています。求められるクオリティ(=制作にかけた時間とも定義できる)を考えると、デザインのコスト的には割に合わない分野とも言えますが、大学教員として地域に貢献できる分野でもあるし、個人的には非常に魅力的な仕事と感じています。また、結果としてデザインのプロセスを、講義や実習などで学生に教えることができるのも、プラスになるかなと思っています。

今後も積極的に関わっていきたいグラフィックデザインの分野です。

 

 

 

 

 

篠原 良太 准教授

グラフィックデザイン、3DCGを用いたイラストレーション表現の研究

篠原 良太研究室

自らの創造力次第で柔軟に形を変えていくコンピュータという画材を通して、制作する事の厳しさや喜びを体験しながら「表現すること」とはどういう行為なのかを学びます。

http://www.shinolab.com
(篠原研究室に所属している学生のデザインに関する様々なアウトプットを掲載しています。)

特別展「ご覧あれ 浮世絵の華 —歌麿・北斎・広重 平木コレクションの名品のB2ポスター。印刷仕様:4C+特色シルバー 印刷用紙:MTA+ -FS 135kg(四六判)

上から、「屋外サイン/チケット売り場/階段踊り場バナー/展示室入口サイン場」のサイン類。展示室に入るまでをトータルでイメージコントロールすることが求められます。来場者の気分もだんだんも盛り上がります。

本紙色校正(実際の印刷用紙に実際のインクで試し刷りをすることを言います)を確認することも重要なデザインプロセスです。ルーペで網点もチェックします。最近ではこのように本紙色校正を確認する機会は減っています。

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