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※教員の所属・役職及び学生の学部・学科・学年は取材当時のものです。

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ヒトを知る面白さと、ヒトを知らなくてはならない学問

VOL.004 佐藤 飛鳥(経営コミュニケーション学科)

あなたは生まれた土地を離れたことがありますか?私は岐阜県の多治見市(日本の最高気温記録を争う地域)出身で、学生時代は金沢、本学赴任とともに仙台へと、北上を続けて仙台では7年が過ぎ、その地方ごとの「ヒト」の違いを感じてきました。学生時代にはアメリカに調査に行ったり、ドイツやオーストリア方面の旅行に行ったり、文部科学省関連の仕事をしていた時には東京と金沢を行ったり来たりして、石川県内の企業や学術機関を回ってインタビューもして、様々な土地のヒトと関わるたびに新たな発見がありました。

 

未だにゼミの時間に学生が口走る本音の言葉、方言が理解できないことが度々あり、その都度学生に「今のどういう意味なの?」と尋ね、教えてもらって盛り上がります。それは脱線のように見えて、「ヒト」を知る重要なプロセスです。研究室のテーマはマーケティング論と人的資源管理論で、両者は全く別の学問ですが、ヒトを対象にしているという共通点があります。企業は消費者(ヒト)のニーズを調査し、それを元に製品やサービスを改良して、その良さを適切に理解していただき購入してもらわねば生き残れません。また、企業の持つ経営資源の中でもっとも重要なのは労働者(ヒト)です。ヒトの持っている能力を伸ばし、最大限に活用することが競合他社に対する競争優位を生むからです。

いずれの学問も、ヒトを抽象化しないで「その個人」が何を考え、どこに誰と住んでいて、何を大切にしているのか、ライフスタイルや価値観にまで踏み込んで分析しなければニーズやダイバーシティ(多様性)に対応できません。ひとりひとりの違いを見つけ、理解し、共感し、対応するという共通項があり、ヒトが好きでなければできない学問です。

ゼミ学生をバースデーケーキでお祝い

本学の学生は宮城県出身で実家からの通学者も多く、地域差を感じたり、異なる考え方や別の習慣に触れることが少ないため、意識してヒトを知って欲しいです。私の通った金沢大学は地方の国立大ですが、日本全国、北から南までの出身者と、さらに留学生がいました。同級生には金沢に来るまで一度もコートを買ったことのなかった沖縄の子と、自分の息で睫毛が凍って抜けていたのに、金沢で睫毛が抜けなくなったら実は睫毛が長くてチャームポイントだった北海道の子がいます。例えば、この二人は同じ温度の部屋にいても体感温度や快適さが違うわけで、1つで万人向けとなる製品づくりやサービス提供が難しいことがわかります。そのためにマーケティングでは市場の範囲であるドメイン(競争領域)を限定して(セグメンテーション)、特定市場の中で有利に競争を展開するためにターゲットを絞り(ターゲティング)、そのヒトにカスタマイズした製品をつくり、自社製品の良さ、他社との違いを納得して購入してもらうのです(ポジショニング)。人的資源管理ではその労働者(ヒト)本人の心身の状況、特徴、能力、仕事に対するモチベーション、家族のことまで含めて適材適所の部署、仕事内容、働く仲間、本人の労働条件、労働環境や待遇を決めていきます。

同じ興味を持っているヒトは、同じような性格やライフスタイルなのでしょうか?経済学研究科(大学院)時代は交流協定校も含め、留学生や社会人との交流が学部生時代よりも増え、個性を意識せざるを得ない場面がありました。数名を挙げると、2年間だけ日本に戻っているけれど、実はドイツで看護師をしていてドイツ人と結婚し、自己主張ができる岡本さん、かなり寒い日でも常に半袖で、「金沢とロシアは近いよ!」が口癖のロシア人、愛称ディーマ(ドミトリー)、韓国人で研究室滞在時間最長の主、話し出すと2〜3時間は拘束されるために暇な時以外に話しかけると危険な愛称ジョン(鄭)さんなど、カオスな院生たちがおり、分野が幅広い「経済学」の中でそれぞれの興味・関心を追究していたのでした。

浴衣で接客

同じゼミの愛称ジャッキー(ジャクリーヌ・オヘイガンさん、アイルランド出身)と話していて衝撃的だったのは、日本では1歳の違いが重要で上下関係を大切にすることを、日本人である私が忘れており指摘されたことです。二人で話している時は英語ですから、お互いの名前を呼び捨てにしているわけですが、他者が一人でも入ると日本語になり、「さん/先輩」とつけるのです。私自身は吹奏楽をずっとやってきて部活上の礼儀は心得ていましたが、大学では指揮者として音楽の構成を考え、指導する立場を任されたこともあり、合奏の時には5歳上の先輩にでも厳しくダメ出しをしていたくらいですので、二人の間の1歳の違いは気にしていませんでした。日本へ留学して経済学だけでなく文化も学んでいる立場の彼女は、1歳違えば対外的に呼び方を変えるべきで、日本では敬称をつけないと失礼に当たると彼女が理解していることを、私ではなく他者に示すために呼び変えていると言ったのです。この時、ジャッキーは異文化に身をおいているからこそ、日本ではヒトが何を考えてどう振る舞うかを観察し、日本らしさを理解したと言えます。

オーストラリアの学生と交流

ヒトに興味を持って、そのヒトを大切に思い、そのヒトにどう接していくのかを考える。そのヒトのための製品、サービスに近づけるにはどう改良すればよいのかを提案する。一緒に働くヒトの労働環境をどう改善すれば全体がうまくいくかを実践してみて常に変えていく。

人種、言語、文化、習慣、考え方が違うヒトが集まっているからこそ、面白い。

あなたも今の自分自身を認め、似ているヒトも、全く違うタイプのヒトも好きになってください。できれば海外にも目を向けて。それが世の中の製品、サービス、労働や職場を変えていきます。

佐藤 飛鳥

研究分野:アメリカ労働市場論、非正規雇用問題、新産業と雇用の創出、マーケティング

佐藤飛鳥研究室

就労のメカニズムと売れる商品の開発法を研究
人材を企業の資源として位置づけ、有効活用するための仕組みを考える研究や、ニーズ分析を通した商品開発法を学ぶマーケティングの研究を行います。広告写真の撮影法などの演習も実施します

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