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Cross Talk

学部長座談会

未来のエスキースを描く

創立60周年を記念し、工学部、建築学部、ライフデザイン学部の学部長に、各学部の取り組みや未来に向けてめざすもの、学生や卒業生、社会へのメッセージを語っていただきました。

東北工業大学ならではの
「学び」とは

-他大学の同系統学部と比べると、東北工業大学の特長や特色はどんなところにありますか。

工藤
実験を大切にし、手を動かしながら学べる点は大切にしていますね。情報通信工学科でいうと、結構いい最新の実験設備を持っていまして、就職してからも扱うようなサーバーを動かしたり、まだ調整段階ですが、量子通信の基礎的な実験も行うことができる最新の実験装置を扱ったりできます。資格を取るにしても、第一級陸上無線技術士の一部試験免除の資格を得られるのは、東北地区では東北大学、岩手大学、東北工業大学だけです。そういう点は「売り」と言えるでしょう。研究という視点でいうと、最近、大学発のスタートアップ企業もできました。なかなか私立大学でスタートアップ企業は珍しいと思いますが、東北工業大学はそういうこともやっています。医工学の世界では有名な先生で、ベンチャー企業を立ち上げました。地域との関連としてはプロジェクト研究所という組織があり、学内だけではなく、学外の企業関係者らにも協力メンバーに入ってもらい、分野横断的な最先端の研究をやっています。そういった縁で企業の方に講演いただいたり、他大学の先生も入っておられるので、設備をお借りしたりという協力関係もあります。変わったところではサイバー犯罪を見つけるボランティア活動に学生が参加しており、宮城県警察から表彰されたりもしています。
石井
「建築も学べる大学」は数多くあると思いますが、全国を見渡しても多くはない「しっかりと建築が学べる大学」の一つでしょうか。さらに東北工業大学ならではという点では、東北地域の環境、文化や歴史に根差し、そこをフィールドに研究する先生がいる一方で、日本・世界を視野に研究や設計をする先生もいて、幅広い個性と研究力を持った先生が活躍し、そういう姿が学生にとっても刺激になっています。学生も、地域の中でコツコツと目の前にある課題に向き合って活動したり、国際的な学会で発表して活躍したりと、多彩です。例えば本学の建築史の先生は、東北各地・自治体から調査研究を依頼されて学生と一緒に活躍されています。実際に建築設計実務の世界で活躍し、理論を実践している先生もいますし、そのあたりが建築学の幅広さと魅力ですね。
小祝
ライフデザインという学部名自体が珍しいですが、産業デザイン学科は、工学と芸術という設立趣旨を起点に、伝統的なプロダクトデザインはもちろん、コンテンツデザイン、フォントと、デザインが示す新しい領域に研究範囲が広がっています。生活デザイン学科は地域計画、まちづくり、福祉、住環境というふうに、福祉と住環境は建築と重複する部分もありますが、そういう特色があります。新しくなる経営デザイン学科は、文系として、経済・経営・会計学を主体として、幅広く世に送り出す人材を育成するということですが、資格ということでいうと、簿記、宅建といった資格への挑戦と、学問的な領域、裏付けをきちんと学んで、AIやGXというプラスアルファの付加価値をつけて人材を養成する点に大きな特色があると思います。それが一つの学部の中で実現できると、ある意味、贅沢な環境を、副専攻制という形で生かしていこうと思います。

今後の取り組み・
抱負とは?

-学生の入学動機はどうですか。

小祝
多くはまちづくりですね。地域に出たいと。新しいまちをつくっていくことをやりたい、外に出たいという学生が多いですね。例えば、生活デザイン学科で「古いまちなみ」をテーマにする場合、まちなみだけでなく、生活している人たちが、どういう生業(なりわい)を持っているか、周辺環境はどうか、それを一つの地域全体で見た場合に、どう維持発展させ、持続可能なまちとして継続していくのか、そういうフィールドワークに学生も教員も出て行っている、そういう教育が、学生の求めるところの一例になっています。そのまま、その街で公務員になったりする学生もいます。
石井
社会人基礎力を測定するテストの結果を見ると、学部学科の特色を反映した傾向は確かにありますね。4年生ぐらいで見ると、工学部は論理的思考、ライフデザイン学部はコミュニケーション力に、建築学部はセルフマネジメントや課題発見に強みがある。もともとの学生の志向もあると思いますが、それが大学の学びでさらに伸びて表れているのではないでしょうか。建築の場合、1年生のうちから、繰り返しハードな課題に取り組み、時間の使い方と、それを管理する力を養う。それは将来の仕事においてもとても大事な力となりますが、それが4年間の学びを通して身に付いていることは実感します。

-建築学部の学生は1年生のうちから夜遅くまで課題をやって大変と聞きますよね。

石井
今の時代に遅くまで(場合によっては徹夜で…)というのがよいかどうか、という議論はあるかもしれませんが、やはり大変だけれども楽しいから続けていける、何かを作り上げた時の達成感と同時に悔しさもあってまたがんばろうという思いで続いていく。年次が上がって自分が成長したことを実感できるように学生の力を伸ばしていくというのが教員の大切な仕事だと思います。
工藤
工学部は論理的思考ということですが、工学の「学び」は「積み上げ」が大きいような気がします。高校時代に学んだことがベースになっていたり、プログラムのエラーを見つけるのに「そもそもどこが原因なのか」考えるには論理的な思考が必要で、工学部では「事実を正確に相手に伝える」コミュニケーション力が求められますよね。
小祝
尺度は色々あるんでしょうが、入学してくる学生がもともと「外に出たい」「地域に出たい」という気持ちを持っていて、それを磨き上げた面はあるかもしれません。今回、学科名を「経営コミュニケーション」から「経営デザイン」に変えていきますが、コミュニケーション自体を伸ばすことは一定程度できていて、さらに重点をどこに置くのかという意味で、そういう傾向があることには、我が意を得たりという思いはあります。

-進路について、学生たちの夢の実現、自己実現への寄与は。

工藤
おかげさまで、東北工業大学は就職がいいと言われており、それで入学してくる学生も多いです。私の専門は無線通信で、例えば携帯電話を例にとると、学生の就職先は携帯電話の事業会社ではなく、基地局の保守や設置を行う会社に行く学生が結構います。一般の方を相手にした仕事ではないのでコマーシャルもほとんど出しませんし、就職先一覧をご覧になっても知名度は高くないかもしれませんが、実は安定しているすごい優良企業ばかりです。

-学生の支援策はどうでしょうか。

工藤
エントリーシートのチェック、面接のリハーサル、大学主催の企業研究セミナー、学生が企業に半月程度行って現場を知るインターンシップの単位認定などもやっています。特徴のある課程として、都市マネジメント学科が都市工学課程になるんですが、まちづくりの学問の対象はダム、道路、橋といった公共物ですので、公務員になる学生が結構多く、公務員試験対策のサポートも行っています。
石井
高校生が入学する時点で、建築の仕事のイメージの多くは「設計」です。ただ、設計は建築の仕事の一部でしかありません。建築学部では「建築プロフェッショナル論」という14回の授業で卒業生に来てもらって自分の仕事なり会社を含めた経験をオムニバスで話してもらう講義を設けています。もう一つは、進路を考えはじめた全3年生(150人)と卒業生・企業との交流会をやっています。卒業生はだいたい建築関係の仕事をしているので、去年は約100社から200人くらいの卒業生が来てくれました。学生が先輩や企業の方と自由に話ができる場、交流の場を作って、「卒業生の活躍を肌で感じる」ことが、その後のモチベーションにつながっている面もあります。
小祝
ライフデザイン学部の場合は、全学的な取り組みに加え、学部の取り組みとして宮城県中小企業家同友会の方々にお願いしまして、独自の就職支援に取り組みました。文系は学部を出たら就職するという意識が強いですが、デザイン系は自分で事務所を開くとか、そのためには1、2年浪人してもいいじゃんみたいな学生もいまして、そこが面白いところだとは思います。卒業してすぐ起業した学生もいますね。

次代を担う、
入学希望者へのメッセージ

-最後に、今後の取り組みへの抱負や入学を希望する方へのメッセージをお願いします。

工藤
工学部の改組の意図として、社会の変化の速さに対応しようということがあります。AIも大事ですが、大学で学ぶ知識が10年後はどうかといえば陳腐化してしまうかもしれない、変わっていく社会に対応できる人を育てたいと思っていて、変化が起きた時に自分で考える力を養っていきたいし、それに必要な刺激や考えるチャンスを与えていきたいので、ぜひチャレンジしたい学生をお待ちしています。
石井
大学に入る際のモチベーションや経緯は人さまざまだと思うんですが、本当は別の大学に行きたかったという学生も現実には少なくないんです。だからこそ、東北工業大学、そしてこの建築学部で学ぶ価値や意味を知ってもらい、また考えてもらうことで自信を持ってスタートを切ってほしい。いろんなものをリセットして、ここからのスタートなんだということを意識させ、未来に向かって学べる環境にいるということを強く伝えていますし、伝え続けたい。大学での学びは大変ですけど、それを乗り越えて自信を付けることは社会に出て活躍する上でとても大切なこと。建築は何より人の命を守ること、そして豊かな暮らしを支える場づくりに直接貢献しているので、そこにも誇りを持って学んでもらいたいし、将来も仕事をしてもらいたいと思っています。
小祝
ライフデザイン学部はとにかく面白い学生が多いので、自由でいてほしいと思っています。ある一定の方向に人を管理することは管理する側にはやりやすいですが、一人一人の個性をつぶすことなく、一人一人の人間として、個人として自立できる人間を輩出してきたし、それを伝統としてこれからも守っていきたい。自由闊達な学部の雰囲気は今後も維持していきたいし、十人十色に磨きを掛けたいと思っています。それを以てすれば、どんな困難な時も自立して他者との協働をうまくやりながら生き抜いていく、それがまさにライフデザインということにつながるし、それが東北工業大学のいいところだと思います。夢と希望を持って大学に来てもらえれば、未来のエスキースを描くことができると思います。
 
撮影・制作協力:河北新報社営業局