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Cross Talk

学部長座談会

未来のエスキースを描く

創立60周年を記念し、工学部、建築学部、ライフデザイン学部の学部長に、各学部の取り組みや未来に向けてめざすもの、学生や卒業生、社会へのメッセージを語っていただきました。

3学部連携の「学び」が
育むもの

―続いて、工学部の課程制についてお伺いします。

工藤
課程制というのは工学系の学部に対して認められた新たな組織形態です。従来の学科制に比べ、縦割りの「壁」を崩していこうという趣旨です。背景として、工学系は社会の変革に敏感に対応し、育成すべき人材に多彩な「学び」の機会を提供すべきだという考え方があります。例えば情報通信課程や都市工学課程の学生が電気電子課程の授業を受け、それにより、ネットワークは情報通信、センサーは電気電子といった各専門の知識を横断的に身に付け、例えばIoTや災害対応ロボットのような学際領域の課題に向き合う、ジェネラリストとしての視点を養っていくことができます。そのために、分野横断プログラムを提供します。また、数学や情報基礎といった基礎的科目を工学部の共通科目にすることで、そのスキルが自分の課程だけでなく、他の課程でもどのように生かされるのか気づけるよう、「学び」の意識を深化させるような取り組みになればと期待しています。

―そうなると、学生たちはもっとたくさん勉強しなければならなくなる…?

工藤
まあ、入学してくるときには、中には「勉強嫌い」という学生もいるでしょう(笑い)。でも、そういう学生もいろんな刺激があると、「学びたい」と変わっていく瞬間があるかもしれません。そういう刺激、チャンスを生かしてもらいたいし、機会が増えることはすごく大事だと思います。

―カリキュラムはどう変わっていくんですか。

工藤
1年生は基礎的科目が多いので、2年生以降に色々な科目を取れるようになっていきます。あとは教える側の事情からしますと、各課程の先生はその課程に閉じた専門領域の研究だけをしているわけではなく、例えばIoTとか災害対応ロボティクスといった学際領域が主流、むしろ普通で、他課程のことを学んできてくれる学生はありがたいんじゃないかと。

―就職でも研究でも、ある特定の専門分野だけではなく、プラスアルファの何かを持っている学生が求められるということがあるんでしょうか。

工藤
おそらく企業の側から見ても、学生に対して要求する人材像は変わってくると思います。これだけAIが当たり前になっていて、どんな会社に入っても、そうしたものは知らなければいけないし、いろんな視点を持っている学生が重用される時代になっていくんではないかと思います。

―建築学部は学部新設後の最初の卒業生を送る完成年度(2023年度)を迎えましたが、今後はどうなっていきますか。

石井
4年生が卒業して進学するタイミング(2024年度)で大学院を改組しました。学部から大学院の連続性を意識して学べるよう、建築学研究科建築学専攻を本年度設置したわけですが、実は建築学部のある大学でも大学院まで改組をした事例はほとんどありません。学部と大学院の6年の一貫した学びを形として見せることができるようになったかと。建築学科は大学院に進学する学生が15%から20%くらいおりますが、それでも建築学の学びの広さと深さを考えると低く、これを30%程度まで引き上げていきたい。学部4年で学べることはいろんな分野の「さわり」でしかなく、興味を持ったことを追求し研究し設計するには、また自分に足りない力を付けるにはもう少し時間が必要だと、それには大学院ということを意識する学生が増えています。今後はこの6年間で学べる姿をさらに充実させ、社会に見せていきたいと思っていますね。その上で、建築学部をどうするか。学部化して終わりかというとそうではない。「建築」というのは、技術や考え方など変わっていく面と人間が本質的に持っていることや人類の歴史の中で作り上げられてきたことなど変わらない面がある。工学部は「モノを作る」、ライフデザイン学部は「社会を循環させる」ことを学ぶということですが、 建築は地域の中で「そのモノが使われる、そして社会を循環させるための」拠点となる場である、またそのあり方や社会の動き、技術的発展の中で考え、学ぶのが建築学部ということになります。本学は全学的にDX・GX(AIやグリーン)教育に力を入れていますので、学部としてもさらに充実させていきたいと考えています。建築や空間・場のあり方を考えるには、社会を見て、人の暮らしを見て、建物の内側だけではなく、外側で起こっていることも知ることが大事。建築学部の教員と工学部あるいはライフデザイン学部の教員が協同で研究する動きは出てきていますが、せっかく近くにいるのでさらに教育の部分でも展開させて、もっとつなげた「学び」ができる仕掛け、仕組みを考えていきたいです。

-建築学科といえば一級建築士の資格取得という点の魅力もありますよね。

石井
入学する学生の多くは、将来は建築士の資格を取りたい、その資格を持って社会に貢献したいという夢や目標を持って入ってきます。もちろん大学はそれをしっかり教えるカリキュラムを組んでいます。建築士受験資格を得るための指定専門科目は東北地方の大学で最多となる113単位を数えます。一方で、資格取得と大学の学びは、重なる部分もあるけど違う部分もある。資格を取るだけなら、様々な方法があります。大学は、資格取得に必要な建築の力を身につけると同時に建築を考える広い視野と建築を楽しむ力、そして「社会に出て必要となる様々な力を養う4年間」です。そこは工学部、ライフデザイン学部との連携も含め、大学教育ならではの「建築を総合的に学ぶこと」をしっかりやっていきます。

-ライフデザイン学部が2025年度に予定している学びについて伺います。

小祝
経営コミュニケーション学科の設立は東北工業大学の卒業生に経営者の方も大勢いるので、その子弟を新しい経営者として育てようという趣旨もありました。さらに幅を広げ、東北における経営・経済に強い人材を育てようと、経営デザイン学科という形で、制度のデザインを目指すため、新しいカリキュラムを作り、実践的なライフデザイン学を追い求めていこうということになりました。先ほどから出ている他学部との連携も大事なことでして、現在はこれまでのような経済・経営に対する感覚からプラスアルファが大切になっています。われわれは工業大学の文系学科として、工業という核を大切にしながら、経営におけるAI、GXについて、重要なファクターとしてしっかり追い求めていこうと考えています。

-学部全体としても分野横断型の学びがスタートしますね。

小祝
例えば、デザインの事務所を開きたいとかまちづくりのNPOを設立したいとか、そういう意欲はあるけれどもどうしたらよいのか、といった知識欲に対し、副専攻制という形で、より実践的な「学び」を実現したいと思っています。課程制は工学系以外では認められていないので、どんな形がよいのか考え、副専攻制にたどり着きました。またライフデザイン学部は3学科ですが大学院は1研究科です。大学院が一つなら学部ももっと融合してよいのではという考えもあり、それも副専攻制に至った理由の一つです。例えば経営デザイン学科の学生が、生活デザイン学科で開講している地域計画という科目があるんですが、それを副専攻として履修することで、地域経営を学ぶことができる。また将来、公務員になったときに「地域を設計する」視点を養うことができるんではないかと。文字通り、夢を現実にするデザインを描く能力、エスキースを描く能力を伸ばしたいです。