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宮城 全学長通信バックナンバー

第35回:本当に分かるということ

2016.1.20

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず。ただ春の夜の夢のごとし。

 平家物語の冒頭部分で、多くの人々はこの部分をそらんじているのではないかと思います。私は高校時代の「古文」で、第一節の部分は丁寧に教わったように思います。小さい頃、田舎のお寺から聞こえてくる鐘の音は、祇園精舎の鐘の声とは違うかもしれませんが、その後の得た知識によって、少なからず人生ははかなく、無常を感じさせたものです。しかし、沙羅双樹の花の色がどうして盛者必衰の理を表すのかは教わった記憶はなく、どのようなことなのか実感したこともなく、それが長年の間、時々私の頭にひっかかるものでした。

我が家の狭い庭に、春先に周囲に上品な甘い香りを放つ沈丁花と秋に淡い香りのする金木犀を植えました。この香りによって春、秋を感じるものです。また、宮崎県の民謡の稗搗節(ひえつきぶし)で歌われているサンシュユ(山茱萸)という木の花のことが知りたくなり、その木も植えました。この稗搗節は、平家のお姫様と逃げた平家を追って宮崎にやって来た源氏の侍との人目を忍ぶ禁じられた恋を歌ったものとのことです。春先に咲くサンシュユは黄色で、その花は古の情景を忍ばせるに充分です。それに加え、これまで気になっていた沙羅双樹の木を植えることにしました。夏の前の梅雨時の頃、真っ白の花が開花し、一日も経たないうちに花びらを散らすことなく、原形のままで地面に落ち、朽ちてしまいます。この散りこぼれた花を実際に見て、私は平家物語の沙羅双樹の一節を初めて理解できたように思います。

石川啄木は私の出身地である函館ときわめて縁の深い詩人で、私はその短歌が大好きです。私は高校生の頃から、彼の幾つかの短歌を覚えています。その中の一つ:

 白々と氷輝き千鳥鳴く、釧路の海の冬の月かな

この歌を実感できたのは、7年ほど前の冬の2月、同僚を表敬訪問するために釧路に行き、釧路川の近くのホテルに滞在した時、どんなわけか、眠れず、真夜中に起き出してホテルの玄関の外に立った時のことでした。身を刺すような寒さの中、月が天頂で煌々と輝いていました。河口近いところでしたので、干潟があったと思います。残念ながら千鳥の鳴く声を聞くことができませんでしたし、また啄木が詠んだのは真夜中ではなく、夕暮れ時だったのかもしれません。しかし、このとき私はこの歌を詠う啄木と同じ景色を心で感じ、理解することができたと思っています。

知識が豊富で、理解力に富み、感受性豊かな人にとっては、実体験をしなくても頭で物事を理解することは可能なのかもしれません。しかし多くの人にとっては、実際に体験することによってその理解が確実になります。その体験一つ一つの積み重ねによって、理解力が強まり、その人を豊かにし、それが周囲の人々によい影響を及ぼすのではないかと思います。

                              平成28年1月20日 東北工業大学 学長 宮城光信

 

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最終更新日 2017年12月9日