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宮城 全学長通信バックナンバー

第32回:Remember the past, live the present and trust the future 
    (過去を思い起こし、現在を生き、未来を信頼せよ)

2015.10.16

 私が活動的に研究していた40歳から50歳代、偶然な巡りあわせであるが、私の研究(赤外線をフレキシブルに伝送できる媒体)と殆ど近い研究をしていた同年齢の研究者がアメリカのRutgers University、イギリスのHeriot-Watt University、イスラエルのTel-Aviv Universityにいた。それぞれが研究室を持ち、優秀なスタッフ、多くの大学院学生に恵まれ、研究を楽しんでいた。毎年1月末か2月の初め頃アメリカの西海岸の町San Joseで開催される国際会議で成果を発表し、情報を交換するという楽しい時代を過ごした。私は彼らのいる大学を研究の関係で何度か訪問しており、さらに、主に管理的な仕事をするようになってからは、その研究の結びつきを利用し、研究者とは別な立場で何人かの仲間と共に、大学の施設調査をする機会にも恵まれた。論文誌上での知ること以上に、パーソナルに研究者と直に接することは多くのことを学ぶ機会と、新たな可能性を作るものである。エディンバラにあるHeriot-Watt UniversityのD. R. Hall 教授は何回目かの訪問の時、「自分は夜間は同じ大学のビジネススクールで勉強している」、という事を話されていた。「研究者としてそんなことをして何になるのかな」、と私は思っていたが、その後、彼は副学長となり、経営面でも大学に貢献することになった。大変参考になることで、何事も学んで無駄になることはないようである。

 Tel-Aviv大学を訪問した時のことである。全く偶然なことにDiaspora 博物館(Museum of the Jewish Peopleともいう)を大学の構内で見出した。diasporaとは、「離散」を意味している。世界各地に離散、散らされた人々のことである。この言葉は大学院生時代に聞いた言葉で、Diaspora博物館という文字を見出した時、大きな感動を覚えた。博物館の中がどうだったのか、そして見たものが何であったのかは記憶には残っていない。ただ、博物館の中にあった「Remember the past, live the present and trust the future」の言葉だけを、はっきり記憶している。第29回の学長通信で、ヴァイツゼッカーの大統領の演説に触れた。ヴァイツゼッカー大統領は「過去に目を閉ざす者は、結局は現在にも盲目になる」と述べている。過去を決して忘れず、思い起こし、現在をしっかりとした基盤に立って生き、そしてどんな状況にあっても未来を信じ、その夢を託すること、それが現在の私たちには最も重要で、私たちの土台にあるべきことである。

 親しくしていた研究者にTel-Aviv大学の教授であるAbraham Katzir氏がいる。全てを包み込み、人に安心感を与え、笑顔を絶やさず、研究者間の陰口も決してしない彼の人格に大きな感銘を受けた。彼の父親Ahron KatzirはTel-Aviv大学の物理の教授だったが、1972年、国際会議からの帰国時、日本赤軍の一人による銃乱射により、イスラエルのBen-Gurion国際空港で犠牲になった。このことについて、彼は一度も私に話すことはなかった。あるいは私が知っているものと思っていたかもしれない。なお、Abraham Katzir教授の叔父にあたるEphraim Katzirは1973年から1978年まで第4代イスラエルの大統領であり、その弟にあたるKatchlsky Katzirは1985年にバイオテクノロジーの分野で日本国際賞を受賞している。彼の心情を想像すれば、日本に対する複雑な思いもあるであろうが、日本人の私と接する姿勢からも、Remember the past, live the present and trust the future を実現する誠実な態度など、尊敬すべき人の一人である。

                              平成27年10月16日 東北工業大学 学長 宮城光信

 

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最終更新日 2017年12月9日