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宮城 全学長通信バックナンバー

第29回:「荒れ野の40年―ヴァイツゼッカー大統領の演説」に学ぶ

2015.7.17

 ドイツ連邦共和国の大統領 ヴァイゼッカーという名前を知ったのは、今から30年ほど前に、たまたま書店で見つけた「荒れ野の40年―ヴァイツゼッカー大統領演説全文」(岩波ブックレットNo.55、第1刷1986年)からです。この本を購入したのは、題名よりも、表紙を飾っていたドイツ連邦議会で演説する大統領の高貴で気品あふれる姿に憧れ、全部で50ページほどの薄い本であったので、短い時間ですぐ読める、と思ったのがきっかけでした。その時、ヴァイツゼッカーについて全く知識はありませんでした。購入してから通読し、また何度か断片的に何度か読むことはありましたが、深く読み込むことはありませんでした。

 ヴァイツゼッカーが2015年の1月31日に94歳で逝去されたことをニュースで知ったことを機会に、かつて購入した本を探し、今度は熟読することにしました。とても有名なブックレットのようで、多くの方が解説・批評・感想を書いています。それらに比べれば、私の読解力は浅いもので、これから書く私の解説は取るに足らないものかもしれません。私が印象的に思い書いた文を読み、誰か一人でもこれを機会に、ヴァイツゼッカー大統領の演説に興味をもってもらうことを望んでいます。

 ドイツの敗戦40周年にあたる1985年5月8日、ヴァイツゼッカーが連邦議会で行った[荒れ野の40年]という演説を行いました。四十年前にドイツが崩壊した日、心に刻んだことを演説にしたものです。当時はまだ、ドイツは東と西に分断されていた時代です。ヴァイツゼッカーは、この演説で「心に刻む」ということを強調しています。「心に刻む」というのは、ある出来事が自らの内面の一部となるように、これを信誠かつ純粋に思い浮かべることであると言っています。この演説では、心に刻むべきことは、ナチズムの暴力支配という人間蔑視、非人間的な行為、人びとが嘗めた辛酸、人間の悲嘆、人間の尊厳に対するとどまることを知らない冒涜、過酷な運命、・・・・。これらをしっかり心に刻むべきです。過去を克服すること、過去を変えること、これらは勿論不可能なことですが、過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです。法律上の主張で争うよりも、理解し合わねばならぬという戒めを優先させるべきです。相手が手をさしだすのを待つのではなく、自分の方から相手に手をさしだすことは、計り知れないほど平和に貢献するのです、と述べています。

 「ドイツ連邦共和国は世界の尊敬を集める国となっております。世界の高度工業国の一つであります。この経済力で世界の飢えと貧窮と戦い、庶民族の間の社会的不平等の調整に寄与する責任を担っていることを承知しております。」と述べていますが、このことは演説から30年経った現在の日本にも通じるのではないでしょうか。特に経済に重要な影響を及ぼす技術・発明やそれに携わる技術者の役割は当時のドイツのそれと同様に、現代の日本においても重要であると思います。

 ヴァイツゼッカーは演説の最後に、年長者は若い人びとが物事を理解できるように手助けする率直さがその義務であり、年長者は若者の夢を実現する義務を負っていないと述べています。そして、他の人びとに対する敵意や憎悪をかりたてることのないよう、若い人たちは、たがいに敵対するのではなく、互いに手をとり合って生きることを学んでいくことを願っています。未来を、そして夢を実現するのは若者だからでしょう。若者の皆さんに託された任務は大きいのです。

 

                               平成27年7月17日 東北工業大学 学長 宮城光信

 

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最終更新日 2017年12月9日